糖尿病診療における「過食の語り」の聴き方

■「先生、食欲を抑えてくれる薬はありますか?」
その女性は診察室に入るなり、突然こんな風に切りだした。
Dr「どうして?」と返す。

Pt「時々食べすぎちゃいけないと思ってるのにトコトン食べてしまうし、甘いものはダメと知りながら食べてしまうから・・・」

僕は食欲専門のカウンセラーではないけどと前置きしてから答えた。
Dr「あなたの中にもう1人の生真面目でちょっと意地悪な自分がいて『いつも食べるな!』って禁止命令を出しているのではないかなぁ。だから、それに抗おうとしてムキに食べてしまう。もう1人の自分に『自分らしく食べることは私に必要なことで当然の権利。自分の健康と自分らしい食事を両立させるから黙って見ていて』と言って和解するしかないよ。

糖尿病外来をしていると「爆食してしまった」「脱線してしまった」「普通に食べてしまった」など『過食』の語りを聞くことがしばしばあります。こうした『過食』の語りを注意深く聞くことで、対応の仕方を個別化したり、薬物療法の選択に繋げることが出来ます。


◼️食欲制御機構の破綻
レプチン抵抗性やグレリンなど食欲制御機構が破綻したためと考えられる人たちは「腹が減る」「食い足りない」など空腹感に関連した語りが多く、過食の原因を内在化する傾向は少ないように思います。このような場合、GLP-1受容体作動薬が適しているように考えます。過食という行為を「問題行動」と捉えるのではなく、あくまで「食欲制御機構が破綻して困っている人」と捉えることが、こうした患者さんへの支援においてはとても大切であると思います。


◼️「食事制限」という意味づけに囚われている場合
一方、食事制限という意味づけに囚われているために食べるという行為を罪悪視して、わずかな脱線も許せず、「過食」と表現する人たちの語りは過食の原因を内在化して自分を責める傾向があり、こちらは心理療法が有効と感じています。ナラティヴアプローチの場合、「食事制限」という意味づけに介入して、「自分らしく食べる」という意味づけに再構成を試みます。

冒頭の質問を投げかけた女性との対話から感じたことをまとめてみました。これはあくまで私見に過ぎません。食欲をめぐる問題はとても奥深く難しいものです。この他にも食欲の問題は様々な観点から考察することが可能ですが、僕が今興味深く思っているのは「腸内細菌フローラと食欲制御」の観点ですが、それらについては別の機会にしたいと思います。

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