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中国福建省での訓練レポート

自分は武術太極拳の自選難度競技選手として、年に約1・2回、2週間~1カ月間ほど中国福建省の武術隊で練習してきました。
しかし今年は新型コロナウィルスの影響で行くことができなさそうです。
なのでこの機に当時の経験を振り返り、内容をまとめてみようと思います。
これまでSNS等で福建省での訓練の詳細を語ったことがないので、このnoteに福建省で学び感じたことを述べていきます。

なぜ福建省か

そもそもなぜ福建省へ訓練に行くのかというと、福建省チームは太極拳種目で優秀な成績を収めた選手が多いからです。もちろん他の省にも大会で素晴らしい成績を収めた優秀な選手はいますが、福建省ほど選手層が厚いところはなかなかありません。優秀な選手がいて、かつ選手層が厚いという理由で福建省を選択しています。

練習スケジュール

続いて練習スケジュールですが、ざっと以下の通りです。

月曜日: 午前訓練・午後訓練
火曜日: 午前訓練・午後訓練
水曜日: 午前訓練・午後訓練
木曜日: 午前休み・午後訓練
金曜日: 午前訓練・午後訓練
土曜日: 午前訓練・午後訓練
日曜日: 一日休み

このうち、水曜日午後と土曜日午後は身体トレーニングのみの単元です。各単元の訓練内容は時期によるので固定で決まっていませんが、例えば大会近くであれば午前に整套を行い、午後に跳躍難度・発勁動作の訓練をします。
月曜日午前と木曜日午後は難度の訓練をすることが少なく、現地の選手たちが出場する大会に必要な伝統規定套路を訓練することが多いです。自分たち日本人はその単元中、自分の套路を練習したり、皆に合わせて42式太極拳(総合太極拳)を練習したりします。
自身の体力的な感想としては、各単元は体力的に問題ないですが日本で毎日訓練している習慣がないので、1週間連続で訓練をすると筋肉痛が続き柔軟、ストレッチですらきつくなってきました。

練習内容

続いて細かい練習内容に入りますが、
一単元の練習内容は、準備運動から始まり、柔軟、基本功、跳躍、組合せ練習、整套などといった感じです。準備運動は短く(特にランニングに関してはほぼ走ってないに等しいです.....)、柔軟の時間が比較的長いです。基本功もそれほど多いわけではありません。準備運動から基本功が終わるまで大体30分かからないくらいです。跳躍については後述します。
組合せ動作については、一つの組合せ(5~6動作程)を6回~10回、合計30~40回ほど行います。
大会の約3カ月前から整套の訓練を始めます。日本より1カ月ほど早い時期から始めています。整套は1日の中で午前か午後の単元に1~3回行いますが、たまに午前も午後も行うときがあり、そのときは大変でした。

跳躍の多さ

福建省の訓練量は中国国内でも多い方と聞きます。なかでも跳躍訓練は多く、一単元全て費やすこともあります。
各跳躍難度を約10回×3~4種類で計40回ほど、その後に各跳躍難度の前後の動作と合わせた組合せを計20回ほど行います。そのため一単元での跳躍回数は多い時は60回ほどです。
中国人選手と日本人選手ではそれぞれの大会で求められている難度は異なるので、訓練する跳躍の内容も異なります。自分たち日本人の方が比較的簡単な難度の練習になりますが、普段の日本の訓練からそこまで多く練習できておらず、正直相当しんどいです。(太極拳の跳躍難度の着地はほぼ右足しか使わないので、それも相まってしんどいです。)
その中でもやはり中国人は難度の高い跳躍でも成功率を高くきめていきます。トップの選手となるとほぼ100%の成功率です。

トレーニングについて

身体トレーニングの設備に関しては、そこまで充実してるわけではありません。僕も初めてその場所に行ったときは驚きました。あのようなトレーニング設備で世界一の選手が出ているのは信じられませんでした。ですが現地の選手は色々な道具を工夫してトレーニングしています。
その内容は体幹や難度の着地に焦点を当てた下半身のトレーニングはもちろん、太極拳にあまり影響のなさそうな上半身のトレーニングまで行います。上半身を鍛えて大きくする理由は発勁動作の際に力強くみせるため、そして表演服を着た際にある程度力強い印象を審判に出すためのようです。
外に出て走ることもあります。しかしそれほど多くは走りません。大体陸上のトラック5~8周であることが多いです。

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福建の特徴

福建省の太極拳の特徴を個人の感想で述べると、「美しさ」と「シンプルさ」に重点を置いていると思います。
審判からみてどのように美しくみえるか、かつ如何にシンプルにできるか、といったことに重点を置き、一つ一つの動作の形にこだわるのは勿論のこと、套路全体の構成についても美しさとシンプルさが目立ちます。
芸術スポーツとして美しさにこだわるのは勿論であり、当然他の省のチームも追及している部分ではありますが、福建省のチームはそこにシンプルさが加わり正統的な印象を感じさせます。
また世界一の太極拳チームとしての誇りを持ちながらも、他国で素晴らしい動作の組合せがあれば直ぐに真似して応用していく柔軟さもあります。常に最新のものに目を光らせ、自分たちが最新であるという誇りを感じます。

2軍の訓練に参加して

福建省に行ったときは有難いことにいつも1軍の訓練に参加させてもらってますが、一度だけ2軍の練習にも参加させてもらったことがあります。(2017年夏です。その年、1軍は4年に1度開催される中国内で最大の大会である全国運動会の準備をしており日本人の受け入れが出来ないためでした。)
2軍と1軍の練習の主な違いは練習量です。基本功、難度、整套、トレーニングまで全て1軍より量が多く、当時相当しんどかったです。
(朝6時半集合でそのまま整套だったり、ウェイトトレーニングだったりと今考えてもめちゃくちゃな練習をしていました^^;)
しかしその量をこなす訓練をすることで基礎ができ、後に1軍の訓練に上がって活躍ができるのだと感じました。

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現地での生活

まず言葉についてですが、もちろん全て中国語を使っての生活になります。自分は大学でも中国語を学んでいましたが、いざ現地では聞くことも話すことも上手くできずにたくさん恥をかいたのを覚えています。言語は恥をかいてはじめて覚えるとはよく言ったものです。
中国語をできると訓練や生活に便利ではありますが、日本人の選手の中には中国語を全く知らないで中国で訓練をしてきたという人もいるので、そこまでネックになる部分ではないかと思います。

食事は朝・昼・晩、殆ど訓練館(訓練場所)がある体育学校内の食堂で取りました。ビュッフェ形式で自分の好きなものを取っていきます。ただ各自の容器が茶碗のようなものしかなく、そこにそれぞれの料理を入れていくので、当然味が混ざります。味が混ざっても基本の味付けのベースが中華であるためか美味しくないとは感じません。しかし中華の味付けが好きではない人にとっては厳しい部分があると思います。人気の料理は甲殻類、うなぎなど魚介類でした。(福建省は海に面しているため、海産物には恵まれているのだと思います。)

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ちなみに自分が2軍と一緒に参加した期間(全国運動会の期間)は大会出場者は区画を分けられて食事を取っていました。ドーピング対策のためです。
翌日訓練がない日、又は一日休みの日は現地の選手が外の飲食店に連れて行ってくれました。中国のファミレスやファストフード的なところからディープな地元飯のお店、高級料理店など様々な場所に連れて行ってくれ、御馳走してくれました。

食事だけでなく現地の選手には沢山お世話になりました。休日に福建省の観光名所に連れて行ってくれたり、日々の生活で必要な備品をそろえてくれたり、訓練でわからないことを親切に教えてくれたり、感謝してもし尽せません。

日本と比較して

やはり日本との主な違いは訓練量です。自分の所属する東日本での強化訓練は一日2~3時間を多くて週に5日間(現在は新型コロナウィルス感染の恐れがあり週に1日のみです)、対して中国では一日5~6時間の練習を毎日行います。週の合計訓練時間を単純計算で考えても倍近くあります。
日本はアマチュアなのでそれだけ多くの訓練時間を割くことができません。夜の訓練も日中に仕事やバイト、学業を終えてからの訓練になるので、フルパワーで訓練に臨めないこともしばしばです。
もちろん訓練量が全てではないですが、芸術スポーツにおける技術向上に必要な要素として訓練量が占める割合は比較的多いと聞くのでどうしても不利に感じてしまいます。
ですが日本では訓練の質に頼ることはできます。中語での訓練も質は相当高いですが、日本では得意の勤勉さもあり、同じくらいに質を求めることは難しくありません。

中国での訓練を色々な要素で分解すると訓練時間、訓練内容、周りの選手、コーチ、トレーニング、緊張感、などがあります。しかし先に述べた訓練の質も含めてこれら全てにおいて日本人選手は敵わないわけではないと思います。
例えばトレーニングに関しては日本でもジムに行けば同じような設備がそろっており、同じメニューをこなせば中国人選手と同じように効果を得られます。
また圧倒的に劣っている訓練時間に関しても通勤・通学時に動画を見たりイメージトレーニングをすればわずかですが効果を得られます。
自選難度選手にとって中国で練習をするというのは技術向上のためにほぼ必須であり、やはり中国で練習できることに越したものはありません。しかし単に「中国で練習すれば上手くなる」と考えるのではなく、「なぜ中国で練習すれば上手くなるのか」と考えることで中国で練習する要素とその効果を日本でも真似し応用できると思います。
特に海外に行くことが難しいこのご時世の中では、先に述べたような中国での訓練要素を分解して、その中から日本で出来ることを真似したり代替したり応用したりしていくことが技術向上の面では必要になるのではないでしょうか。

最後に

新型コロナウィルスの影響でおそらく暫くは福建省へ行けないので、今回改めてそのときのことを振り返りこのように詳細に書かせていただきました。
これまでに何度も福建省で訓練していますが、未だに現地での緊張は拭えません。しかしそれが良い刺激でもあります。

また福建省が全てではないので機会があれば他のチームにも行って練習してみたいです。
今回の記事が中国での訓練について、少しでも知りたいという方のためになりましたら幸いです。

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