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映画「スワロウ-Swallow-」自傷行為の現実

みなさんこんにちは。めーぷるです。

最近話題の映画「スワロウ」、先日見てきました!

日本で公開している映画館が少なく、「気になってるけど見れない・・・」という声が多かったので記事を書いてみることにしました。

ネットに転がっているようなあらすじ程度のネタバレは含みますのでご注意下さい。

また、本作のテーマでもある「異食症」「自傷行為」についても私の経験から思うところを書かせていただき、少しでも皆さんの理解に繋がるような記事にできたらと思います。

1.あらすじ

主人公ハンターは、ニューヨーク郊外にある誰もが羨む超豪邸に住んでいます。

旦那はビジネスで成功、仕事に追われつつも充実した表情のザ・アメリカンビジネスマンという感じ。

家柄も良く、彼の両親も彼を誇りに思っています。

ところが彼も義両親もハンターの本質を見てはいないようで、あからさまで暴力的ないじめではないものの、ハンターはどこか孤独でした。

ある日ハンターの妊娠が発覚し、皆大喜び。

しかし気持ちの追いつかない彼女は、ふとしたきっかけで家にあったビー玉を手に取り、飲み込みます。

異食症は次第にエスカレートしていき、それが彼女の人生を揺るがす大きな問題へと繋がります。

「異食症」という一見グロテスクな自傷行為を描いた作品ではあるものの、ただのスリラーではない、まさに異色の作品です。

2.感想

この作品の一番の見所はストーリーでもテーマでもありません。

ヘイリー・ベネット演じるハンターの表情にあります。

作中、彼女は心から笑うことも、悲劇のヒロインのようにただただ泣き喚くこともありません。

ブロンドヘアに色白な肌で今にも散ってしまう花のような儚さのある彼女。

どこか遠くを映す朧気な瞳に、唯一熱が感じられるのが異物を飲み込んだ瞬間なのです。

彼女が初めてビー玉をごくりと飲み込んだとき、私も思わず息を飲みました。

私は実際の異食症の方は存じ上げませんが、おそらくこれがリアルなのだと思えるような素晴らしい演技でした。

ただ個人的には、この映画の受け取り方は大きく分かれるだろうなと感じました。

というのも、彼女のおかれる環境は決して悪いものではないからです。

義両親と合わない部分はもちろんあるし、旦那のちょっと嫌味な物言いもデリカシーの足りない部分も、どの家庭にも必ず起こり得る範疇のものだと私は感じました。

ましてや彼らの立場を考えれば(ちょっとヤな奴とは思うけど)当たり前の行動でもあったり、悪気があっていじめようとしているわけではないのです。

ですから、人によってはハンターの行動に「なんでそんな痛そうなことしちゃうの~!?」と感じると思います。

映画ファンで考察に長けているならまだしも、家庭に恵まれ普通の環境で生まれ育って「今、幸せです!」と言える普通の人はこの作品の感想はこれで終わると思います。

一方、どこかハンターと似た境遇であったり、精神疾患に理解のある方、こんなコアな映画を好んで見る方は「この悪意の無さが逆につらい」と感じると思います。

彼らに悪意が無いとわかっているからこそ「勝手に傷付き、彼らの期待に応えられず上手く馴染めない自分が悪」になるのです。

そうして彼女は自分の想いと一緒に、色んな異物を飲み込んでいきます。

出来ればこの彼女の複雑な気持ちを映画を見た人全員に理解してほしいですが、そこを汲み取ってくれない良くも悪くも鈍感な人が一定数いるからハンターのような自傷行為に走る人間が生まれるんだよなあ・・・とも思ったり。

この自傷行為に至るまでの思考経緯や原因などはこの後私の経験を交えて書いてみますのでもし興味があれば続きも読んでみてください。

映画後半、ハンターはこの異食症問題を通して他者との関わりや自分のルーツと向き合いますが、この確執を克服するシーンが非常に良かったです。

派手さはないものの、センシティブなテーマならではのピリッとした空気に、彼女の吐く決して多くない言葉ひとつひとつがしっかりと重みを持って染み渡るようでした。

人によるとは思いますが私としては、全編通してハンターの息苦しさ、生きづらさがリアルに伝わってくる素晴らしい映画でした。

3.自傷行為に至る思考経緯や原因

さて、ここからは私の実体験に基づいて、人が自傷行為に至るまでの思考傾向や原因などについて解説していきます。

こういった映画が世に出て話題になることは、普段健康に生きるみなさんが触れることの無い様々な考えを巡らせる良いきっかけでもあり、精神疾患を抱える者にとっても良く知ってもらえるチャンスだと思っています。

これより先はハンターのより詳しい心理分析の為、もう少しネタバレを含む上、私個人の経験からの推測になりますので、こういった話に抵抗のある方はここでブラウザバックしてください。

まず、人が精神病を患ったり自傷行為に至る大きな原因のひとつとして、幼少期の家庭環境が挙げられます。

ハンターは夫にも義両親にも明かしていない、自分のルーツに対するコンプレックスを抱えていました。

望まれた子どもではなかったということで、作中では直接的な描写は無かったものの、彼女も両親から”無償の愛”というものを受けずに育ったと思われます。

この”無償の愛”というのは、「なにもしなくても愛されること」です。

小さな子どもは本来、お喋りが上手でなくても、勉強が出来なくても、すごく怒られるようないたずらをしても、「親だけは絶対に自分を見捨てることなくずっとそばにいてくれる、愛してくれる」という安心感を得て育ちます。

子どもは成長に伴って次第に、家族が全てだった自分の世界から飛び出して他者を知り、今まで絶対だった家族であっても自分とは違う人間であることを知り、そして反発し、他者だらけの社会の中で自身の在り方を疑い、探り、違う人間だったとしても受け入れて共に生きる、という過程を経て大人になります。

この、自身を疑い探るという過程で大事になってくるのが、幼少期に親からもらった”無償の愛”です。

無償の愛とは、なにもしなくても愛される、存在していて良いんだという自己肯定感を芽吹かせる種です。

この自己肯定感が育たないと、自分で自分の存在価値が見出せないので他者に認めてもらおうとして、他者の顔色を伺い、その人の望むものを与え、その代償として愛してもらおうとするのです。

ハンターも、夫や義母の表情を見て合わせるように笑顔を貼り付けていましたし、彼らの望む理想の嫁像を体現しようとしていたと思います。

しかし、他者の望む姿を演じ愛されるということは、他者に自分の枠組み(居場所)を作ってもらうことになり、一時的な安心には繋がりますが根本的な解決には至りません。

また、本来の自分とは違った、他者の勝手なイメージや期待の中の自分を演じ続けるわけですから自己への抑圧は計り知れません。

この抑圧がふとしたきっかけで爆発するも、他者ではなく自分を攻撃してしまうのが自傷行為です。

ここで「期待を押しつける他者が悪い」と他者を傷付けるのではなく、「期待に応えれば愛してもらえるのにそれが出来ない私が悪だ」となる点でも自己肯定感の無さが露呈しています。

自己肯定感と聞いて「自分に自信が持てるかどうか」くらいのイメージだった人も多いと思いますが実はもっともっと根深いもので、自分を存在可否を問うところから始まり、大小関係なく人生のどの選択の場面においても影響してくるものなのです。

”まず親に自身の存在を肯定してもらえなかったところから始まり、自己肯定が出来ないままなので他者依存にするも本当の自分はずっと泣いている。しかし他者を裏切れば自分の存在を肯定するものがなくなるので傷付くとわかっていながら離れられず、その抑圧の発散として自分を傷付ける。”

これが自傷行為に至る主な原因と思考です。

ハンターはこの抑圧された自分の欲望を”飲み込む”こと、また「異物を飲み込む」という背徳感を味わえる行為を決定しているのは自分なんだと思うことで発散していました。

もちろん個人の環境や性格によるところも大きいので、自傷行為の有無や方法についても千差万別ですし、そもそもこの一連の思考に自覚があるかどうかも大きく関係してきます。

4.自傷行為の種類や行為中の感情

自傷行為には様々な種類があります。

代表的に挙げられるのはリストカットやOD(オーバードーズ、薬の過剰摂取)、拒食・過食症、意外と身近なところで言えば爪噛みや唇の皮を剥いたり・・・なんてのも実は自傷行為だと言われています。

私の感覚としては、この数ある自傷行為の中からどの行為に至るのかは、個人のコンプレックスや抑圧がどこから来るのかに関係しているように思えます。

ハンターは自身の本音や欲望を吐き出さず飲み込むところから異食症となりました。

自分の体型や見た目が原因で何らかのストレスを受けた人は拒食・過食症になったり、必要以上の整形を繰り返したりと、見た目に関する自傷に走るようなイメージがあります。

私は過去にリストカットとODの経験があります。

前述した「みんなの理想通りになれない自分が悪い」という自罰的傾向が高かったので、自分に対する罰として身体に傷を付けていました。

リストカットと言いましたが、「半袖を来ても見えないところ」を切っていたので正確にはアームカットです。

行為はもちろん痛いし、傷口が塞がるまで腕を動かすのも痛いし、ケロイドになった傷が今でも残っているし、時々皮膚が引き攣れるようなピリピリとした痛みがあります。

切った直後は「もう二度とやらね」と思っていましたが、それでも何度も身体を傷付けたのは、やっぱりどうしても自分が許せなかったからだと思います。

大抵、自傷行為は年を経るごとに減る傾向にあります。

これは社会生活を長く送れば送るほど見聞を広め考えを改める機会が増えていくからです。

ハンターも作中後半、異食以外の自分の決定に従って行動し、外の世界に触れる機会がありました。

私も現在はアームカットはしていません。

ただ、これも個人差が大きいのですし、いつどのようなタイミングで何がきっかけになるかもわかりませんので、長く付き合っていくこともあります。

5.メンタル系おすすめ映画

さて、そういえばこのnoteは映画アカウントでした!!

なので本作同様、精神疾患がテーマのおすすめ映画を何本かご紹介して終わりたいと思います。

・「17歳のカルテ」

主人公スザンナはある日薬と酒を過剰摂取して、精神病院に入院します。

様々なバックグラウンドを抱える女子の集まる病院ではリアルな思春期の女の子の悩みや葛藤が描かれています。

何より、アンジー演じるリサがめっっっっっちゃ可愛い。最高。

・「シャッターアイランド」

レオ様主演の大どんでん返し映画。

精神病を抱える犯罪者を治療・幽閉する孤島シャッターアイランドで起きた事件を解決すべく、保安官のレオ様が相棒と共に島に乗り込み、衝撃的な真相へ迫るストーリー。

記憶を消してもう一回見たい映画です。

・ビューティフルマインド

シャッターアイランドが好きなら絶対これも好きやろ!!!

真相が明かされるシーンはマジでしんどくて息苦しくなります。

そして現在好評公開中のスワロウもまたこれら名作に負けず劣らずの出来だと思います。

公開されている劇場は少ないですが、可能な方は是非見てみてください!

それでは、ここまで長々と書いてしまいましたが、読んで下さった皆様、本当にありがとうございました。

よき映画ライフを!

めーぷる。

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