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むかしむかしあるところに、死体がありました/青柳碧人

誰もが知る日本むかし話(ももたろさん、一寸法師、花さかじぃさん、つるの恩返し、浦島太郎)のストーリーとミステリーを融合させています。アリバイ証明や倒叙、叙述、密室などのトリックがたーくさん!

むかし話でしか生み出せないであろう殺人トリックも面白かったです。とてもゆるーく読めて、所々で感動したり、イラついたり、驚かされたり、楽しさは存分に味わえるかと思います。あの有名なミステリー小説をオマージュした章もありましたよっ♡


◆一寸法師の不在証明:右大臣殿の娘である春姫様は参詣の帰り、鬼と遭遇する。いの一番に一寸法師が鬼を成敗しようとするが、腹の中に飲み込まれてしまう。腹の中から剣で刺しまくり、鬼は降参。宝物「打出の小槌」を奉納するから許してくれと頼む。一寸法師は打出の小槌を譲り受ける。その打出の小槌により、一寸法師はどんどん人間の背丈になり、美しい人間の男子となる。

しかしその間、右大臣殿の隠し子であるらしい村人「冬吉」が開かずの扉の家の中で首を絞められ殺されていた。家の窓には一寸程の隙間が開いているだけだった。一寸法師が犯人ではないかと訝しむ「黒三日月」という怪しい人間が屋敷に訪れ、付き人である江口殿と共に証拠集めを始める。

これはアリバイトリック&密室トリックの要素ですかね。
犯人は一寸法師なのか、事件時間に鬼の腹の中にいた一寸法師に殺害は可能なのだろうか。黒三日月の正体には思わずほっこりしてしまいます。

余談ですが、鬼滅の刃では藤の花を鬼は嫌っている設定でしたが、本章では逆で、藤の香りに引き寄せられる設定だったので、「え、嘘だろっ!」となかなか信じがたく(笑)、めっちゃ鬼滅の刃に翻弄されたわたしでした。


◆花咲か死者伝言:これは、芥川の「藪の中」状態で進んでゆき、犬目線で書かれてゆきます。

空腹で泥まみれの犬は山の麓で「枯れ木に花を咲かせましょう」と灰を桜の木にふりかけてお殿様を喜ばせていたお爺さんの後をついていった。お爺さんはとても優しく親切で、可哀相な犬の面倒を見てあげることに。

以前「シロ」という犬を飼っていて、既に亡くなっており、お爺さんは犬に「次郎」と名付ける。シロは不思議な力を持っていて、シロが吠える場所を掘ると、金銀財宝がざっくざくと出てきたり、シロの遺体を埋めた場所からはえてきた立派な松の木で臼をつくりお餅つきをすると、黄金(こがね)がチャラチャラと出てきたのだという。そんな思い出話を寝る前に、お爺さんの布団の中で次郎へ語ってくれたのだった。

お爺さんのお宅で飼われることになった4日後、お爺さんの遺体が発見される。遺体の第1発見者は次郎。村の者たちと怪しい人物へアリバイ確認などへ行くが、次郎は途中で真犯人に気付き、犯人への復讐を考えるのだった。

このお話しは、愛する恩人を想う健気な犬の気持ちがひしひしと伝わります。とても切ないラストでした。犯人の強欲さが許せぬ。


◆つるの倒叙がえし:これは、面白い仕掛けがあって、二度楽しめるような構成になっています。

とても貧しいが、仲睦まじい家庭で育った弥兵衛は心優しい親切な青年であった。ある年、父と母がたて続けに亡くなり、弥兵衛の父親の借金を強欲な庄屋取り立てに弥兵衛を訪れる。返せる額ではないから返済にはもうしばらく待って欲しいと頼むものの、強欲な庄屋は聞く耳を持たず、大好きだった両親をけなした。弥兵衛はたえきれずに鍬で庄屋を殺してしまう。

そんな日の夜、罠にかかったところを弥兵衛に助けてもらった鶴が人の姿となり恩返しのために弥兵衛の家を訪れる。反物を織るのでそれを売ってお金にしてくださいと頼み込む。反物を売り、お金を得た弥兵衛はだんだんと人が変わってゆき…。


◆密室竜宮城:浦島太郎が浜辺でいじめられた亀を助けて竜宮城へ歓迎されるのはむかし話の通り。浦島太郎のおもてなしで竜宮城にいる織姫様や海の生き物たちは、盛大な宴会を執り行います。しかし、その竜宮城にて密室殺人事件が起こります。浦島太郎は、刑事ばりに聞き取り捜査をおこない、犯人を言い当てるが…。これもむかし話を融合させたからこそのトリックになっているので、犯人や密室トリックは暴こうとしても無理ですね。


◆絶海の鬼ヶ島:桃太郎のお話しが鬼目線で語られる、鬼のためのむかし話に変化されていて、伝説の桃太郎と不可解な獣たちという括りで言い伝えとして語り継がれていることにまず面白味を感じてしまう。桃太郎に殲滅させられたかと思われていた鬼の生き残りが十数頭、鬼ヶ島という孤島で、1頭、また1頭と殺されていくストーリー、そう、まさに読んでいて、クリスティーの「そして誰もいなくなった」を彷彿させるミステリーとなっています。もう面白いしかないですよね。


刊行当時めちゃくちゃ話題作となり、たくさん売れたこの本。ようやく文庫になり手に取りましたが、いやはや話題になるだけありますね。表紙だけ見たら、ちょっとおバカ要素アリの笑えるミステリーなのかしらん?と思ってしまいますが、いやはや、バカになんて出来ませんよ。本当に面白かったし、昔話のアレンジも上手すぎます。脱帽。

昔話、懐かしいな…なんて思わず感慨深くなり、花咲じいさんの章は悲しみに溢れてしまった。

次作では赤ずきんちゃんバージョンでしたが、本作の続編ともなる「むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました」も単行本で発売されたのでやっぱり人気なのでしょう。

日本むかし話ってやっぱり凄い。いつの時代からあるのか分からないけれど、いじわるな爺さんがいたり、嘘はだめだとか、強欲な人がむかえる末路だったり…。そんな教えが昔からあるにも関わらず、相変わらず欲深かったり、いじわるだったり、嘘つきだったりする人間がそこら中にいる。学ばないんだし。
世界中の人たちがみんな優しい優しい花咲じいさんみたいな人間だったらいいのになー。と、つくづく思ってしまいました。

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