【考察④】~“ビッグイニング”を作る・防ぐ~
ビッグイニング。
1イニングの中で大量に得点が入ったイニングのことをいいます。
トーナメント方式で大会が行われる高校野球では、このビッグイニングが勝敗に大きく左右します。
攻撃時はビッグイニングを生み出し、守備時ではビッグイニングを相手に作られないようにすることは、勝利をつかむためには非常に重要なことです。
今年2024年を迎え、自分自身の中で“学び直し”の観点から、ベースボールマガジン社が発行している『ベースボールクリニック』という専門誌の1~12月号を再度読み直しました。
その2023年6月号の特集が「ビッグイニングの秘密」でした。
私は、この『ベースボールクリニック』という雑誌を年間定期購読して今年で13年目になりますが、“ビッグイニング”について取り上げられていたのはこの号が(たぶん)初めてだと思います。
上記のように、高校野球において“ビッグイニング”は勝敗をわける重要な要素であると感じていましたので、今回は“ビッグイニング”について考察し、まとめていこうと思います。
大学生の分析
本誌の中で、全日本野球協会・日本野球連盟主催の第2回野球データ分析競技会が紹介されていました。
そこで優秀賞を受賞したのが、「ビッグイニングを防ぐ高めのフォークの可能性」という題で発表した同志社大学のチームです。
この会は、2020~2022年の都市対抗野球大会と、2021・2022年の社会人野球日本選手権大会のトラッキングデータを基にして分析が行われたそうです。
この2大会は、いずれもトーナメント制を採用していて、一戦必勝で勝ち進まなければならないというところで高校野球と同じため、非常に参考になるのではないかと考えます。
ビッグイニングが勝敗を分ける
さて、この同志社大学のチームの分析では、ビッグイニングの定義として「3点以上を得点したイニング」とし、68試合でビッグイニングが観測されたとありました。
そして、その68試合の中で、攻撃側がビッグイニングを作った場合で負けてしまったのは、たったの14試合(全体の約20.6%)だったとのことです。
つまり、言い方を変えると、ビッグイニングを作れれば約8割の確率で勝利でき、逆に守備側でビッグイニングを起こされてしまうと約8割の確率で負けてしまうということです。
このデータから、(守備側からすると)いかに毎イニングを最少失点で切り抜けていくか、という発想が重要かということがご理解いただけるのではないかと思います。
何よりも投手のコントロール
次に、同志社大学のチームが、ビッグイニングが発生した90イニングの特徴をデータ収集して分析し、(算出方法について詳しくありませんが)「XGBoostモデルからSHAP値」を算出した結果、“ストレートの割合”と“四球数”が“先頭打者の塁打”や“エラー数”よりも影響度が高いことがわかったそうです。
そして、有力な要因を抽出した結果、重要度順に「1位:塁打」「2位:四球数」「3位:打者1人あたりの球数の平均」「4位:ストレートの割合」となったそうです。
同志社大学チームの考察とも被るところはありますが、守備側としてビッグイニングを防ぐためには、球数を減らすこと、四死球を出さないこと、ストレート一辺倒にならない(変化球もうまく使う)ことが重要だということがわかります。
球数を減らし、四球を出さないためには、投手のコントロールが良いことが絶対です。
さらに、変化球でもストライクを取れる(変化球のコントロールも良い)ことも求められます。
以前の投稿【読書⑤】~『最新科学が教える!キャッチャーの技術』を読んで~の中で紹介したデータと合致するところもあると思います。
私の感覚として、だいたいコントロールの悪い投手は、変化球のコントロールが悪く、ボール先行となり、ストレートを投げる以外の選択肢しかなくなってくるため、「四球」「球数」「ストレートの割合」が増えてくる感覚です。
簡単に言ってしまえば、コントロールが悪い投手が投げるとビッグイニングを作られる。
1位「塁打」という結果から、安打・長打を打たれないような、球速もあり質の良いボールを投げられることも大事かと思いますが、それ以上に“コントロールよく”、“ボール先行”ではなく“ストライク先行”で投げられるということが、ビッグイニングを防ぐためには何よりも重要だということです。
高めのフォークが有効
その中で、同志社大学チームは、高めのボール球からストライクゾーンに入ってくるフォークボールに着目して、高めのフォークボールをカウントごとに集計し、分析しています。
「他のカウントに比べて初球は見逃される割合が高い」、そして「ストライクカウントが進むにつれて見逃し率は低下する」という結果となったそうです。
【読書⑤】~『最新科学が教える!キャッチャーの技術』を読んで~の中でも紹介しましたが、“2失点以上した場合は約2~3:1の割合で直球を打たれる”、そして“四死球・安打後の安打率は初球が高くなる”というデータがあります。
“高めのフォーク”が使えれば、これらの確率は下げられます。
オーバースローの投手で、特にカーブやスライダーといった変化球のコントロールに自信のない選手は、ストレート一辺倒にならずに“ストライク先行”で“コントロールよく”投げる一つの手段として、高めのフォークにチャレンジしてみる価値があると思います。
選球眼を磨く
ここまで守備側の立場でビッグイニングを防ぐには、という観点で見てきましたが、今度は攻撃でビッグイニングを作る側の観点で考えてみようと思います。
守備時とは逆に、攻撃側でビッグイニングを作ろうとしたら、「塁打」「相手投手の四球」「相手投手の球数」「相手投手のストレートの割合」を増やしていくことになります。
もちろん「塁打」を増やそうとしたら、打力のあるチームにしていくしかありません。
打てるチームがガンガン打って多くの得点を取るのは、考えなくても容易に想像できます。
それ以外の要素は、と考えると、“選球眼”を磨くことになるかと思います。
ストライクかボールか際どいボールをいかに切っていくか。
それによって、球数を増やしていき、できれば四球を奪い、投手にプレッシャーをかけていく。
そして、“2失点以上した場合は約2~3:1の割合で直球を打たれる”というデータにもあるように、ストレートでカウントを稼ぎにきた甘い球をしっかりと仕留める。
そう考えると、ビジョントレーニングが大切になってくるかもしれません。
そもそも打力のあるチームであればそれに越したことはありませんが、そのような「打」のチームではなくても、できることをしっかりとチームとしてやっていくことがビッグイニングを作るためには大切になるかと思います。
“選球眼”を磨くとなると、“ストライクゾーンの正確な把握”をする、カッコよい言い方をすると“空間認識能力”を高めるということになります。
私の現時点の考えとして、“ストライクゾーンの正確な把握”をするには、自分自身が打席から自分の眼で観る投球の映像と、ビデオカメラで録ったりした捕手・球審側から観た映像を比較して、自分自身の感覚と実際のボールの軌道にズレが生じていないか、を確認するくらいしか正直なところ方法が思いつきません。
“選球眼”を磨く良い練習方法をご存じの方がいたら、ご教授いただきたいものです。
やはり、ビジョントレーニングか、自身の感覚とのズレを確認するしかないのでしょうか。
私自身も、“選球眼”を磨く何か良い手立てがないか、今後もアンテナを張っておこうと思います。
「塁打」を増やす
先ほど述べたように、打力のあるチームであればそれに越したことはありませんが、「打撃は水物」とも言われますし、打力のあるチームまで仕上げるのも大変です。
そうなると、いわゆる普通のチームだと、なんとか“連続出塁(連続安打)”を増やしたいところです。
連続安打が起きるようにしようとすると、技術面以外で考えると、メンタル面での対策になってくるかと思いますが、以前投稿した【考察①】~“連続安打はなぜ起きるのか?”~で記したように、イメージトレーニングの力を活用できたらよいのではないか、と思います。
もちろん日頃の練習から“打力アップ”を目指して練習しつつ、その中で選球眼も磨き、イメージトレーニングをも活用することで、コントロールの良い好投手からもビッグイニングを生み出せるような打線を作っていきたいものです。
さいごに
今回は、『ベースボールクリニック』2023年6月号を題材に、ビッグイニングについて考え、まとめてきました。
今回紹介した同志社大学のチームの分析には、驚かされました。
まだ大学生という学生の立場でありながら、“ビッグイニング”という点に着目したことにも感心しますし、それをしっかり科学的に分析したことにも感心します。
私には、できません。笑
学生たちの力は、すごいです。
『ベースボールクリニック』を改めて読み直す中で、学生たちから大きな学びを得ることができました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?