【指導観①】〜高校野球における“配球”の指導〜
「ピッチャーで勝敗の8割が決まる」ともいわれる、野球というスポーツ。
ですが、どんなに凄いストレートや決め球の変化球を投げれるピッチャーでも、同じボールを投げ続ければ、打者も何打席か立てば目も慣れ、打たれることもあります。
そこで、重要になってくるのが“配球”です。
投げるピッチャー、そして球種のサインを出すキャッチャーの2人で、打者を見て、相手の攻撃の雰囲気を感じて、試合展開を踏まえて、どの球種のボールをどのコースに投げるのか、次のボールはどうするのか、どのボールをどの方向に打たせるのか。
これを高校生に指導していくのは、なかなか手のかかる、難しいところです。
今回は、その高校野球における“配球”の指導について、現在の私見を簡単にまとめてみました。
よろしければ、最後までお付き合いください。
配球の責任者
まず、配球に関しては、“監督からのサインで動く”か“選手に信頼して任せる”か、指導者の中でも大きく考え方がわかれるところです。
勝つことだけを考えたら、監督からすべてサインを出して動けることがベストかなのかもしれません。
しかし、実際にプレーしているのは“選手”です。
その日のピッチャーの出来、調子、球質、相手との相性、また審判との相性など、一番近くで見ているのは、キャッチャー(バッテリー)です。
私の考えとしては、一番近くで見ている選手たちの感覚を信頼して、配球を任せたいと考えています。
また、選手たちの多くは高校野球を通じて“勝つことだけ”を求めているわけではなく、“野球を学ぶ”こと、“野球を深める”こと、“野球をもっと好きになる”ことを求めて、野球を続けているはずです。
「次に何のボールを投げて打ち取るか」と考える配球こそ、野球をプレーしている選手(ピッチャー・キャッチャー)の一番やりがいのある醍醐味です。
そのすべての権限を大人の指導者側が奪ってしまうのは、私としては違うと考えています。
もし配球を失敗して負けてしまっても、選手たちに任せたからといって子どもたちに責任をなすりつけるようなことをせず、全責任を大人の指導者側が負うこと。
それで選手たちには、“失敗を恐れず”に“思い切り”“チャレンジ”してもらいたい。
それによる成功や失敗から、“野球を学ぶ”こと、“野球を深める”こと。
それこそが“教育”なのではないか、と思います。
ただ、それでも選手たちはまだ高校生なので、試合の中で動揺してしまったり、熱くなりすぎたりして、まわりの状況が冷静に見れなくなってしまうこともあります。
そういう時に、冷静に客観的に試合をベンチから見つめている指導者側が助け舟としてサインを出したり、指示を出したりする“支援”をするのが良いのかなと思っています。
配球の指導の流れ
では、実際にどのように配球を指導していくのか、についてまとめようと思います。
これに関する私の考えは、ごくごく一般的だと思います。
“公式戦”は選手たちにとってはもちろん“本番”、文化部的にいうと“発表会”です。
そのため、指導者としては、公式戦では選手たち自身の力で配球をしていってもらいたいものです。
となると、基本的には、日頃の実戦練習や練習試合の中で指導していくことになります。
①一般論やセオリーの定着
まず、取り組むべきことはいわゆる“セオリーの定着”を図ることです。
「普通ならこう攻めてくる」といった一般論、セオリー、正攻法をわかっていなければ、相手との“駆け引き”、“裏をかく”こと、“奇策”ができません。
以前投稿した【読書④】〜『最高の戦略教科書 孫子』を読んで・その2〜とも、リンクしてくる内容です。
具体例としては、ほんのごく一部ですが、
など、といったことです。
一般論やセオリーの定着は、実戦練習でなくても、座学(読書など)で十分必要な知識は身につけられると思います。
配球や、戦術などのセオリーについて解説している書籍は多く出版されています。
私のオススメは、川村卓『「次の一球は?」野球脳を鍛える配球問題集』(辰巳実用BOOKS)です。
この書籍は「投手編」もあります。
図解されているため、高校生でも読みやすい書籍です。
まずはこういう書籍などから、自主的に学ぶところから始まると思います。
②実戦経験
一般論・セオリーの知識を得たら、次に必要になるのは、とにかく実戦での経験です。
実戦の中で大切なことは、打者をしっかり観察すること。
…などなど、観察すべき点はたくさんあります。
それを1人あたり3〜4打席の少ない打席の中で、観察し、情報をより収集できるか。
それらを感じ取る“感性”が重要になってきます。
これは、試合の中で意識して気付こうとしなければ身につけられません。
そして、現時点の自分の中でのベストなカウントの整え方、勝負球(決め球)で挑戦してみることです。
その成功体験や失敗体験が後に自身の糧になっていきます。
③知識や経験の蓄積
最後は、①と②の蓄積をすることです。
先ほども述べたように、常にベストな選択をして挑戦してきた成功体験や失敗体験すべてが、蓄積です。
その蓄積をもとに、実戦練習や公式戦で配球する時には“ゴールから考えて”いきます。
◯ どの方向にどんな打球を打たせたいのか。
◯ 何球目に何の球種で勝負して打ち取るか。
◯ 勝負球までにどんな組み立てをするのか。
逆算して考えていきます。
難易度は高いですが、勝負球や、終盤の勝負の打席のために、前の球種・コースや前の打席の攻め方などで、前もってそのための布石を打てるようになってくるとより素晴らしいです。
ただ、高校野球はリーグ戦ではなくトーナメントですし、ほとんどの対戦相手は初対戦です。
先制パンチされて序盤から苦しい不利な展開にならないように、布石を打つのも気をつけなければいけませんし、投手のコントロールの精度にも影響されるところもあります。
そこがなんとも難しいところです。
とにかくここの段階で大事なことは、そのような配球(組み立て方・攻め方・勝負球・打ち取り方など)を選択した“根拠”を選手がしっかりと持っていること。
指導者側としては、その選手の“根拠”をしっかりと聞いて確認して指導していく必要があります。
頭ごなしに指導者側の理論を突きつけたり、結果論で指導してしまったりしないように、注意しなければなりません。
私の中の感覚では、選手の“根拠”を聞いてそれを尊重し、指導者側から見て考えていたことや踏まえてほしいことをしっかりと伝え、それを選手と指導者側の考えをしっかり擦り合わせることが、配球の指導なのではないかと考えています。
選手としての幅、選手のもつ選択肢、配球の引き出しを増やすこと。
そこにフォーカスして指導していくことが大切だと思っています。
シンプルな指導
配球の指導に関して「選手に任せてゴールから考えさせる」と述べましたが、もちろんそれを身につけてできるようになるためには、かなり時間がかかります。
国語、数学、英語、地歴公民、理科などなど、日頃の学習でも覚えることが多く、高校生は部活動に入っていない生徒でも、やることに追われて大変です。
それに加えて、野球に関しても、「〜の時には〜する」といろいろ教え込んで、1から100まで求めてしまうと、正直パンクしてしまいます。
日頃の学習でも、前日やった授業のことすら覚えていないようなものですし、半年前のことなどを完璧に覚えていることの方がすごいです。
野球もそうです。
私の中で、授業でも、野球でも、
という、この言葉を(よく耳にする格言だと思いますが)指導の中で大切にしています。
難しく(こと細かく)指導しても、すべてが定着するわけではありません。
難しいこと(さまざまな内容)をできるだけ簡単にコンパクトにまとめ、指導内容をシンプルにして、普段の実戦練習や練習試合で反復練習できるようにし、大事な公式戦で頭の中から引き出せるようにしていきたいと思っています。
このように考える他の理由として、指導者側が前提においておかなければいけないと思うことは、高校野球はアマチュア野球であり、プロ野球ではないということです。
高校生のピッチャーで、毎球コントロールミスすることなく、最後まで投げられるピッチャーはほとんどいません。
試合で使える変化球も1・2種類程度のピッチャーがほとんどだと思います。
多彩な変化球を投げ分けられ、コントロールミスなく投げ続けられたら、プロになれます。笑
さまざまな内容をこと細かく配球の指導したとしても、それを“高校生ピッチャーが常に体現できるのか”ということです。
ピッチャーの選手が日頃の練習でコントロールの精度を高めていくことや、変化球を磨いていくことはもちろんですが、キャッチャーの選手がどんなにピッチャーに注意を促しても、指導者側がどんなに教え込んでも、ピッチャーが思い通りに投げてくれるものではない、ということを念頭においておくべきかと思います。
それも踏まえて、指導内容をシンプルにしていくことが大切かと考えています。
例えば、シンプルにする(指導する、選手が考える)例を挙げると、一般的にストライクゾーンは9分割で考えますが、4分割(内角高め/内角低め/外角高め/外角低め)でとらえる、などといったことです。
私の中での配球指導の“型”
こういった考えから、私は配球指導のために「難しいことをできるだけ簡単にコンパクトにまとめ、指導内容をシンプルにした形」で、「3球で1ボール2ストライクを作る」ための配球パターンを「8パターンの型」にして作成しました。
これはかなりシンプルです。
すぐに覚えられます。
ピッチャー優位な状況から強打者との対戦まで「8パターンの型」には優先順位づけをしてあり、投打の能力の対比や試合展開に応じて選択していくように作られています。
「8パターン目の強打者対策の配球は、試合終盤の大事な場面にとっておきたいから、1打席目は3パターン目の配球を使って攻めよう」というように、後の打席に備えて布石を打っておくことも容易に実行できます。
もちろん、これはあくまで“型”であり、必ず守らなければいけないものではありません。
その“型”から派生し、選手たちは打者の反応などを見て、攻めるコースなどを臨機応変に変更してよいとし、選手らに任せていきます。
何らかの打者の“変化”に気付けば、“型”を破ってよいということです。
このような“型”を作っておくことで、打席と打席の間の短い時間に、ピッチャー・キャッチャーともに落ち着いて打者を観察し、配球を決断することができます。
0から1に踏み出すことは指導者が支援し、1から2・3・4…と広げていくことを選手たちに任せるイメージをもって作成しました。
この「8パターンの型」は、この場で公開してしまうと、今後野球部の顧問に復帰した際に相手校にすべてバレてしまいますので、内容は未公開にします。笑
すみません。
またいずれ、野球部の顧問に復帰した際の、将来の教え子たちのために秘めておきます。
低反発バットへ変更
高校野球では、来春から新基準バットへ変更となり、打球によるケガ防止などのため、反発が抑制され、“飛ばない”バットになります。
「木製バットに近い形になる」ということですので、選手はしっかりとバットを振り切って、しっかり芯に当てて打たないと、速くて遠くまで飛ぶ打球が打てなくなることが予想されます。
守備時のリスクが低下するわけですから、バッテリーからすると、今年まではリスクがあって危険でできなかった“大胆な”配球も可能になるでしょう。
また、セオリー通りの低リスクな配球をしても、これまでよりも安全だと思います。
配球はしやすくなるでしょう。
そうなると、これから先の時代に配球で気をつけなければいけないことは「打者にタイミングをしっかり合わされて強いスイングをされてしまうこと」です。
バッテリーは、丁寧な投球で芯やタイミングを外すこと、特にタイミングをずらすことを意識して配球することが大切だと思います。
タイミングをずらす方法は、球種だけではありません。
特にピッチャーは、球種の緩急以外に、
◯ セットポジションの長さ(※ボーク注意)
◯ 投球フォームのスピード(クイックなど)
によって緩急をつけることもできます。
球種の緩急に、フォームの緩急などを組み合わせれば、球種を増やすのと同等の効果を得られます。
高校球児のピッチャーは、こういった点も意識しながら、練習していってもらいたいものです。
また、作戦面に関しても、大きく変化してくると思われます。
打撃(強行)だけでは得点を見込みにくくなるため、足を絡めた戦術やバント奇襲などの小技を使った戦術が増えてくると予想できます。
配球だけではなく、試合展開などから相手の戦術を感じ取ることも求められてきます。
打者との勝負は配球だけではありません。
まとめ
これまで述べてきたように、今回は配球の指導に関する私見を述べました。
この考えに賛同してくださる指導者の方もいれば、受け入れられないという指導者の方もいらっしゃると思います。
どの考え方が正解だ、ということはないと思います。
また、結果論で語られることが多い配球ですが、その正解・不正解は結果論だけで説明できるものでもありません。
とにかく考え方はどうであれ、多くの指導者の考えとして共通しているはずの点は、「選手が相手をしっかり“観察”し、変化に気付く“感性”を持ち、明確な“根拠”を持って“臨機応変”に配球していく」ということだと思います。
これこそ野球の醍醐味でもありますので、野球界に携わる指導者の皆さんで、それぞれの手法で、その面白さを伝えていきましょう。
高校球児も、試合の中でその“駆け引き”をぜひ存分に楽しんでください。
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