「キャッシュレス」について思うこと

国土交通省が路線バスをキャッシュレス決済に限定する実験をしているとのこと。

「キャッシュレス化」を推し進めるのは構わない。
一方で、現金も残すべきだと考えている。

キャッシュレス化の問題点

バス特有の決済方法(後払い方式)やオートチャージの問題点は以前指摘したとおりだ。

ここではSuicaなどの交通系ICカードを中心に、キャッシュレスの問題点について言及していった。
もちろんキャッシュレス決済にも一定のメリットはある。ただ、問題点を把握した上で、この記事を読んでほしい。

決済方法の種類

と、交通系ICカードのメリットに言及する前に、決済方法の種類についてここで見直していく。

見るのが面倒な方は目次を下に置いておくので、次の「交通系ICカードのメリット」にでも飛んでほしい。

現金

現ナマである。皆さんおなじみの硬貨と紙幣である。
アナログな決済方法であるゆえ、非常時(天災・停電)やシステム不良に強い
硬貨や紙幣で払えばいいため、残高不足のリスクがない。お金が足りなかったら買えないだけなので。

デメリットはとにかくかさばる
あとは多くは手を介してやりとりするため、衛生上よろしくない
コロナ禍でキャッシュレスが浸透した理由でもある。
最近はコンビニや大手スーパーを中心にセルフレジ・セミセルフレジも増えてきたが(ここに関しては後日)、個人商店などにはコスト面から導入しづらいだろう。

あと、諭吉の顔が見られなくなるのは寂しい。

クレジットカード

「キャッシュレス決済」と聞いて、誰もが真っ先に思い浮かぶものがこのクレジットカードであるだろう。
最近はクレジットカード決済のみのところもあるため、もはや必要不可欠なものではなかろうか。

ちなみに、カードの端っこに書いてあるVisa、MasterCard、JCB…は決済システムのブランドである。
あとは自分の使うサービスに合わせてカードを選べばいい。
ブランドはVisaかMasterCardを選んでおけば日本の大抵のクレジット使えるところでは使える。
コストコユーザーならMasterCard1択。

コイツのメリットはなんといっても分割の柔軟性だと思う。
他の決済方法だと一括のみのことが多いが、クレジットは2回払い、○回払い、リボ払い…と分割のレパートリーが多い。
10万円を店頭で分割にすることもできるし、カードによってはネットであとから分割することもできる。

ちなみにリボ払いは月々の支払いが抑えられる金利が年利18%と法律スレスレに高いので、知らないうちに利息だけ払って元本が減ってない、といったこともある。
闇金と違って合法ではあるが、ある意味闇金同然である。

デメリットは審査がある(=誰もが使える決済手段ではない)ことだ。
これはクレジットカード最大のデメリットと言っても過言ではない。
年齢、職業、勤続年数、年収、貯金、過去の使用歴、滞納歴、金融事故歴…と結構込み入ったところまで見られる。
審査の難易度はピンキリで、学生や無職でも作れる(と言われる)モノから、信用度の高い人しか作れないモノまである。
ただ、ピンキリといえど審査は厳しい
子どもはダメ、無職はダメ、使用歴がほぼ0ならダメ(スーパーホワイトといわれるもの、20代前半くらいまでなら許容範囲?)、滞納が何度もあったらダメ、自己破産債務整理があったら5年間作れない…
クレカの審査に落ちたら申込に落ちた履歴もついてしまうし、何件も一気に申し込んだら申し込みブラックといって、審査に通りづらくなる。ほんとめんどくさい。

支払いは前月に使ったものを支払う形なので、定期的にアプリなどで利用明細を確認して、銀行の残高とも相談しなければならない。ご利用は計画的に

デビットカード

クレジットカードと似て非なるもの。
ブランドも決済方法もクレジットと変わらない。
ただし、コイツは使った時点ですぐ紐付けした口座から引き落とされる
ちなみに残高不足なら止められる。

ちなみに対象年齢は15歳以上審査も不要

プリペイドカード

「プリペイドカード」とひとまとめに書いてあるが、このプリペイドカードの中身は幅広い。

1つは磁気式のカードである。例を挙げると、バスカード(廃止)やQUOカード、図書カード、テレホンカードがある。
使うと穴が空いていって、0の横に穴が空くと使えなくなる。薄っぺらい。すぐ折れそうで怖い。

あとはクレジットカードのように使えるプリペイドカードもある。
コイツもブランド・決済方法はクレジットと変わらない。
ただ、プリペイドカードの場合は先にお金をチャージしておいて、その残高の範囲内でお金を支払う形だ。

チャージ方法はプリペイドカードのサービスによる。

例えばau WALLET(現・auPayカード)はauPayと残高を共有しているため、auPayに残高を投入して(後述)そこから引かれる、という形だった。

どちらも年齢制限
・審査がない

QRコード決済・バーコード決済

ここ数年で浸透してきた「○○Pay」の類である。
こちらもプリペイドカード同様、先にお金チャージして、その残高の範囲内でお金を支払う。

この決済方法は幅広く
①バーコードやQRを出してバーコードリーダーでスキャンする(大手スーパー・コンビニなど)
②レジにある紙のスタンドに書いてあるQRコードを撮影して金額を入力し、店員に見せる(飲食店・アパレルなど)
③振込用紙のバーコードを撮影して決済する(税金・公共料金など)

②はPayPayでよく見る方式である。
①③は大手のQR決済なら大抵使える。

あとは残高を利用した送金機能や、ポイント加算クーポンなども魅力的である。

チャージ方法も多岐にわたっており
①クレジットカード
②(同系列の)携帯料金と合算
③口座引き落とし
④ポイント利用
⑤ATMのチャージ

など多数である。
ただ、近年は「経済圏」という囲い込みのせいか、各社とも①②は使える範囲が限られている改悪ぶりが目立つ。
特にPayPayは顕著で、②はもちろんSoftBank系しか使えないし、①のクレジットに関してはPayPayカードしか使えなくなる、PayPayカード以外のクレジットカードで入金した残高で決済するとポイントがつかない…などがある。
この辺はよく調べてからチャージ方法を考えるべきである。

こちらも年齢制限・審査がない

タッチ決済

楽天Edynanacowaonなどがこれにあたる。
個人的には、およそ平成後期に流行った「一昔前の決済方法」というイメージである。
プラスチックカードやスマホを決済端末にピッとして\シャリーン/だの\ワオン!/だの奇声変な音特有の音が鳴るヤツである。

QUICPayiDもここに含まれるが、これはクレジットカード(デビット、クレジット系プリペイド)に紐付けて使うものなので今回は除外。

こちらも先にお金チャージして、その残高の範囲内でお金を支払う方式である。
そして、このタッチ決済のもう1つの代表格が「交通系ICカード」である。

交通系ICカードのメリット

前置きとして、この交通系ICカードにはモバイルSuicaやモバイルPASMOといったスマホアプリを利用したものは除外する。
チャージに本人のクレジットカードしか利用できないのと、確か小児用ICカードの設定が無かったはず。

幅広い年齢層の人が持てる

先述したとおり、クレジットカードは審査が非常に厳しい
子どもは年齢制限があって持てないし、老人は職業・年収あたりが引っかかる。
子どもと老人にとって、バスは地域の足である。必要な交通手段である。
すべてをクレジット決済にすると、地域の足を必要とする子どもや老人の利用が見込めなくなる

そこで、クレジットに頼らない決済方法が求められる。
先述したQRコード決済やタッチ決済は確かに未成年向きではあるが、まだ交通機関には浸透していない。
となると、子どもや老人向けのキャッシュレス決済として、自然と交通系ICカードが候補に上がってくる。

交通系ICカードはカードの場合、2,000円支払えば10年間放置しない限りほぼ永続的に持つことができる。
(2,000円の内訳は残高1,500円+デポジット500円)

不要になれば、その時点で入金されている残高とデポジットが返金される(手数料は引かれるが)。
SuicaとかPASMOとか色々あるが、相互利用できる10社(以下「10カード」)のどれか1枚でも持っていれば交通系ICの決済ができる場所ならどこでも使える。

交通系ICカードなら定期券を発行すればデポジット500円だけで残高なしの交通系ICが手に入る。
あとはそこに非常用に1,000円くらい残高を入れておくだけだ。

チャージが比較的手軽

残高がなくなっても、バスの場合は千円札1枚を持って運転手に言えばチャージできる。(いい加減他の札にも対応してほしい)
電車の場合は券売機か、出口の改札付近にあるチャージする機械でチャージすれば良い。
なんならコンビニでもチャージできるとのこと。これは知らなかった。

そしてこのカードは子どもでも老人でも持てる
審査がいらないからクレカが持てない人たちでも持てる。
これはクレカにはない大きなメリットだと思う。

使える場所の幅が広い

交通系ICカードは定期としても使えるが、れっきとした電子マネーである。

例えばSuica1枚これだけのサービスを享受できる。
・JR東(+一部私鉄)の定期券
・電車賃やバス賃の支払い(交通費決済)
電子マネー

主な利用は定期券や交通費決済だが、この電子マネーの機能も使えるのは魅力的である。
先程、私は「非常用に1,000円くらい残高を入れておく」と書いた。

乗り越し・乗り過ごしなど定期区間外での利用、定期券の期限切れ、熱中症対策での自販機利用…と、やむを得ずお金を使わざるを得ないタイミングが発生する。
10カードなら、駅の自販機でも使えるし、それ以外でも全国のコンビニやスーパーなどでも利用できる。

なんしようと、熊本!

そんな「10カード」での決済を廃止しようとしているヤベー都市がある。

そう、熊本である。
台湾ナントカとかいう半導体工場が進出して来たあの熊本である。

熊本都市圏を走るバスや私鉄を運営する5社が10カードの利用を廃止するというニュース。
代わりにクレジット決済が導入されるようだ。

個人的には猛反対である。12億くらい出せよと思う。

更新機器のコストは確かにかかる。それは仕方ない。

でも、熊本にもJR九州が走っていて、そこでSUGOCA(10カードの1つ)が利用できるなら、バスや私鉄も利用できるようにして決済方法を一貫させるべきだと思う。

くまモンのICカードというものが熊本にはある。
一応交通系ICの一種ではあるが、相互利用ができない使える店舗が限られていること、県外では全く使えないことは大きなデメリットである。
県外に需要は全く無いとはっきり言い切ってもよい。

県内でも定期の購入に必要か、よほどのくまモンファンか、ICカードコレクター以外に需要思いつかない。

10カードで十分賄える
ことをわざわざ地元ローカルでやってるのだ。全く意味が不明である。

また、先述したとおり、交通系ICカードはクレジットカードとは違い、子どもや老人といういわゆる「交通弱者と呼ばれる人たちでも利用できる決済方法である。
路線バスや私鉄のメインターゲットはあくまでも地元の人間であることは忘れてはいけない。

クレジット決済の導入にはてぃーえすナンタラの進出によるインバウンド招致の目的もあるだろう。
が、そもそもここは日本である。

日本ではSuicaやPASMOを始めとした相互利用できる交通系IC(10カード)が老若男女使える決済方法として浸透しているのだから、日本人に合わせるべきである。郷に入れば、というヤツである。

そもそもインバウンドを招致したいならまず日本人が行きたい、行きやすい街づくりが必要なのではないか。
だから「交通系決済の一貫化」が必要である。それができなければ地元の客も日本人観光客ももちろん減るし、誰もいないガラガラの交通機関を見て乗りたい!と思う変人はいないだろう。

ここは日本なのだから、まずは自国民のニーズに合わせてから、外国人をいかにして誘致していくかを考えるべきではなかろうか。

そこまで外国人にこだわりたいなら、外国人に日本のICカードを買ってもらって、日本のお土産にしてもらえばいいのではないだろうか。
日本が誇る「デザイン性」のPRにもなるだろう。
そしてそのICカードで電車に乗るというリピーター効果も生まれる。

クレジットカードではそういう面白みがなくなるのではないだろうか。

一部の店舗は現金しか使えない

とはいえども、熊本の気持ちもわからなくもない。

実は小さな個人商店などでは、キャッシュレス決済を嫌うところも少なくない。

「なんでキャッシュレス使えないの?」
「今更クレジット使えないなんて…」
という声もあるかもしれない。

というのも、キャッシュレス決済をした場合、売上の約3%決済手数料として引かれてしまうからだ。

例えばキャッシュレス決済で100万円売り上げたとしたら、決済手数料3万円を引かれて、実際にお店に入るのは97万円である。

そこから更に銀行の振込手数料も数百円引かれるし、売上の振込も月3回などと決まっていることがある。
現金と違って、せっかく売上を上げてもそれがそっくりそのまま振り込まれるわけではない

キャッシュレス決済端末の最大手エアペイにもその旨が大きく書かれている。

この約3%が問題である。

イオンやセブンイレブンといった大手であればこの3%は微々たるものであるが、個人商店からしたら大きな3%なのだ。
だから個人商店からしたら、導入したくても決済手数料というコストが大きな障壁になる。
客を集めるためには安価で良質なサービスをしなくてはならない、でもキャッシュレス決済をしたら商売上がったり、と双方の板挟みとなる。

ちなみに過去に決済系サービスの説明をする仕事をしていたことがあったが、いかんせんこの決済手数料が障壁になる自営業さんは少なからずいた。

一番酷かったのはこちらの話を遮って、「決済手数料をなんでうちが払わなあかんのや?それ払うのはお客さんの方やろ!」と怒鳴りつけて電話をガチャ切りしたオッサン(おそらく店長)。
たぶんこのオッサンの店はしばらくしたら潰れるだろう。てか潰れろ。

客側から「なんでキャッシュレス決済使えないんですか?」と言うのは個人的にはあまり良いことではない。
不便だという気持ちはわかる。
でも店側も何でも高騰、高騰で苦しむ中、コストを抑えるのに精一杯である。
そこは汲み取って欲しい。特にお気に入りのお店であれば。

結局「現金」が最強なのよ

ここまでキャッシュレス決済について一通り解説したが、結局、どこでも使える「現金決済」が一番なのかもしれない。
誰にでもわかりやすくて、コストも掛からなくて、残高不足にもならなくて、災害やシステム不具合にも強い。

確かに重いしかさばるし、不便である。
でも、それでも残っている理由、日銀が新札を作り続けるはそこにあると思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?