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【ショートショート】 とある女子高校生の悩み

 植物を育てるとき、優しい言葉をかけたり良い音楽を聞かせたりすると、そうしなかったものよりも綺麗な花が咲くらしい。それが嘘か本当か、私はよく知らないけど、「言葉を使わない生き物」ですら、言葉の影響を受けるのかと衝撃を受けたものである。
 それなら、人間みたいに「言葉を使う生き物」が誰かの些細な一言で、傷ついたり喜んだりするのは当たり前だよなあとも思った。

 「いいね、あんたは。何も悩みなさそうだもんね。」

 休み時間にみんなで話していたとき、不意にクラスメイトに笑いながら言われた。あまりに突然だったものだから、リアクションに困ってしまい、ついふざけて「いいでしょー。」なんて答えてしまった。

 私にだって、悩みの一つや二つや、何なら三つ四つくらいある。例えば、言われたように「悩みがないように見えること」とか、「急に話しを振られるとおどけてしまうこと」とか…。こういうのって悩みには入れてもらえないようなことなのだろうか。

 ごうっ、と風が吹く。自前のくせ毛がかき乱されて、せっかく学校を出る前にセットしたのにもうぐちゃぐちゃだ。ほら、また悩みが増えた。

 「悩みないわけないじゃん。」思わず口に出てしまう。ああ、これも悩みの一つだ。ふと思ったことをついすぐに口にしてしまう…。

 悩みのない人間なんて、きっといない。目の前を歩いているあの人も、今すれ違ったこの人も。ここまで考えて、ああ私は悩みがなさそうだと言われたとき、傷ついていたのかと自覚した。あの子には途方もない悩みがあったのかもしれない。100%の悪意を持って言ったつもりもないだろう。事情はわからないけど、私は少なくともいい気がしなかったわけだ。

 「なるほど。」

 言葉というものは、本当に難しい。私に至っては、自分の気持ちを理解することも難しい……。

 ふと、ポケットで携帯が震えていることに気がつく。画面を見ると、お姉ちゃんからの着信で、どきどきしながら通話に応じる。新色のリップをこっそり使ったことがバレたか…?

 「もうすぐ家?」
 「う、うん。」
 「じゃあ早く帰っておいで。」
 「なんで?」
 「いいもの買ってきたから。」電話口で、お姉ちゃんがふふ、と笑う。いいものってなんだろう…?

 「クリームの入ったたい焼き。」
 「!」

 その一言は、私を今日一番喜ばせ、全力で走って帰ることにした。リップのことは少し黙っておこうという決意と共に…。


(996文字)


=自分用メモ=
1000文字以下にまとめてみたくて、今回はそこを目標にした。ゴールを内容におかないと、書き切るのになかなか苦労するということがわかった…!

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