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【ショートショート】 帳尻合わせ

 今日は何も頑張れない。別に普段から何かを頑張っているタイプではないけれど、今日は何となく、特に頑張れない。そう思いながら窓の方に目を向けると、ちょうど風がわあっと吹いてカーテンを揺らし、散らかった机上のノートのページを強引にめくった。

 宿題のやる場所を間違えたことに気がついたのがほんの数分前。「やるの忘れたから見せてー!」と言って、私に、図らずも過ちを知らせてくれた友人は、脇目も振らずにせっせと他の友人のノートを写している。それを横目に、私も急ぎ自力でやろうとはしてみたけれど、数分で片付くようなものではないことを悟った瞬間、無情にも授業開始のチャイムが鳴った。
 いつもこんな感じだ。私はいつも何か少し間違えて、いつも何となくタイミングが悪い。ああもう何も頑張れない。諦めてノートを閉じ、また窓の方に目を向けた。

 これから先も、私はこんな感じなのだろうか。ずっと、何となく噛み合わない歯車を強引に回すような、しっくりこないパズルを無理に空白に押し込むような、もどかしさを抱えて生きていくのだろうか。宿題、きちんとやったんだけどな。いや、すべきところはできてないんだけど。口うるさい母の「あんたはいつもどこか抜けてるんだから。」という小言が聞こえた気がした。
 友人のノートを写していたあの子は、しっかり写し終えうまく帳尻を合わせて自分の席で周りの子たちと笑いながら話している。うまく生きられるのは、多分ああいう子なのだろうなと小さく息を吐く。

 気がつくと先生が黒板の前に立っていて、いつものように授業が始まろうとしている。そっと黒板を確認、今日の日付を見るに出席番号で私が当てられるようなことはなさそうだけど・・・と、思っていたら、端から順番に答えていくスタイルで否応なしに宿題のことを考え続けなくてはいけなくなった。本当にツイてない。

 窓の外は心とは裏腹にとても明るい。風に煽られて開いたカーテンの隙間から、抜けるように青い空が見える。

 無限に続くわけでもないこの時間の、何と長くつまらないことか。きっとこういう日もいつか思い出みたいになるんだろうなと、遠い「いつか」のことを妄想をしかけて慌てて我に帰り、自分にどの問題が回ってくるかを心の中で数え、仕方なく今を乗り切るために「帳尻を合わせる側」に回ることにした。

 今日はもう何も、頑張れない。
 窓の外の眩しさに左頬を照らされながら、私は無理に合わせた帳尻のために人の何倍も急いでシャーペンを動かすことに必死になった。

(1037文字)


=自分メモ=
推敲も入れて60分で1000字チャレンジ。書きたい風景をスタートにしてしまうと着地点が見つからなくて苦労するということがよくわかった・・・。

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