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【後編】人も動物も共に幸福な社会を目指して

前編では、代田さんが富岡町で「栖」を設立するまでや、実際の保護活動についてお話をお聞きしました。
後編では、「小さな命を育てる」ということへの責任、代田さんが考える動物と共存する社会についておうかがいします。

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飼い主さんのもとに猫を返すために

—猫ちゃんを保護してから譲渡に至るまで、どういったお世話が必要なんでしょうか?

代田さん:どんな病気を持っているのか分からないので、保護して最初の2週間は隔離します。寄生虫がいたり、人間にもうつってしまうような感染症もありますので。隔離して2週間ほど経つと、ワクチンも打てるようになります。人間にも徐々に慣れてくる頃ですね。爪切りなどもさせてくれるように少しずつ慣らしていくんですけど、なかなか切らせてくれない子も多いですね。

—うちの猫も爪切り嫌いです(笑)

代田さん:伸びたままだと、爪がどんどん太くなって巻き爪になって肉球に刺さったりしちゃうんですよね。でも、歳をとると爪とぎをしなくなる子もいて。だから爪切りはとても大切です。慣れてなくて捕まらない子も年に数回はやらなくてはならないので、可哀そうですがその時は大捕り物になります。

—保護活動で一番大変なことは?

代田さん:実は、保護の現場がゴミ屋敷ということが多いんです。猫はキレイ好きな動物なのに、なんでこんな場所に……と思うと悲しくなります。でも、そこで暮らしていた人も、きっと苦しんでいたんですよね。そういう現場で片付けをしながら猫を保護するのは、やり場のない悲しみでいっぱいになって辛いですね。

—今まで活動されてきた中で嬉しかったことや、思い出に残っていることはありますか?

代田さん:やっぱり、保護した子の飼い主さんが見つかったときは嬉しいですね。

夜ノ森にあるヘアサロンさんで飼っていた三毛猫ちゃんを2011年の12月に保護して。保護した時点では、そのヘアサロンさんの猫ちゃんだということは知らなかったのですが、とても人馴れしているし、誰かに飼われていたのかも? とは思いました。

役場にそのお宅の方と繋げてもらいましたら「うちの子です」ってお返事をいただいて。それまで、何度自宅に戻って探しても見つからなかったそうなんです。私が地域を見て回ったときに、たまたま保護することができて。その一度の出会いを逃してしまったら、もう二度とその猫ちゃんには会うことはかったかもしれないから、本当によかったです。今では飼い主さんのもとに戻って暮らせています。たまにその方のお家に伺うんです。一緒にいる姿を見れると幸せな気持ちになります。

里親さんが見つかって幸せになっていく猫を見るのも嬉しいですけど、震災で離れ離れになった元の飼い主さんのところに戻ることができた三毛猫ちゃんのことが一番印象に残っていますね。

—保護する猫と地域猫として見守っていく猫と、どう分けてらっしゃるんですか?

代田さん:安心できる餌場があるような猫は、TNRをしてから地域猫として見守っていきます。「猫が増えるから餌をやらないでください」と言われるような地域もあるんですけど、猫が増えるのは特定の誰かのせいではなくて、その地域全体の問題です。

すべての猫を保護することはできないので、TNRをしっかりすれば徐々に頭数は減っていきますということを根気よく説明して、地域の方々に理解していただき、地域猫として見守ってくれるようお願いしています。

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猫の里親になるための心構え


—このコロナ禍で自宅にいる時間が増え、保護猫の里親になりたいという人もいらっしゃると思うのですが、里親になる上での心構えを教えてください。

代田さん:厳しいことを言うようですが、この後の人生で自分に起きうることを想像できていない人が多くいらっしゃいます。例えば、破産するかもしれないとか、離婚するかもしれないとか、病気になるかもしれないとか。そういうことを想像しないままに猫を飼ってしまって、結果何か起きたときに飼えなくなって手放してしまう。そういう人から猫を保護するということが本当に多いんです。

だから、「自分には絶対何も起きない」と思うんじゃなくて、「もしかしたら飼えなくなるようなことが起こるかもしれない」と想像して、それでもこの子を最期まで看取るんだという責任をもってから飼って欲しいですね。最期まで飼えないのなら、自分で他に里親を探すとか、信頼できる人に託すとか、そういう先のことまでしっかり考えておいて欲しいです。

ペットショップで見かけて、子供も欲しいって言ってるし、かわいいし、と軽い気持ちで飼うのは本当にやめていただきたいなと思います。飼えなくなって保健所や愛護センターに持ち込まれる子も多いです。

今まで自分や家族に寄り添ってくれた小さな命を、急に事情が変わったからといって捨ててしまうような軽々しい行動はしないでください。飼うと決めた時は、自分はそんなことするわけないって誰でも思います。でも、コロナで生活が苦しくなって、飼い続けられなくなる人たちも実際にいるわけです。

最期まで必ず面倒を見る、それができないのなら託せる人を見つけておく。しっかり責任を持つということが里親になるための基本です。

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—里親として譲渡する前に審査をされると思うのですが。

代田さん:はい、最初はアンケートに答えていただいています。そこで里親候補さんの情報をつかんで、その後に必ずご自宅を訪問します。遠方で事前の訪問ができない時は、譲渡するときにご自宅まで私が猫ちゃんを送り届けて、家の中を見させてもらいます。お家に一度も行かないまま譲渡するのは絶対NGなんです。お家の情報を改竄して伝える人もいるので。

メールや電話でのやりとりも重要です。そのやりとりの中でちょっとおかしいな、と感じることもあります。そういう場合は譲渡をお断りさせていただいています。やはり、里親で一番気をつけなければいけないのは虐待です。以前は男性が多いと言われていたんですけど、最近では女性で虐待する人も増えてきています。私たちが判断を誤ると、猫たちがまた不幸になってしまう。なのでとても神経を使いますね。ここの猫ちゃんたちを二度と不幸にさせたくないので。

小さな命を大切にする社会を目指して


—動物と人間が幸せに共存していける社会ってどんなものだと思われますか?

代田さん:人間の勝手な判断で殺されてしまう猫や犬、動物ってとてもまだまだ立場が低いと感じています。けれど、一方ではアニマルセラピーなど、人の役に立ち、癒しを与えてくれる存在でもあるんです。そういった存在意義が、動物の立場を向上させると思うんですね。

昔は、生まれた子猫を川に流すというようなことも普通にありました。でも今はそういうことはめったにありませんよね。時代や世代というものがあるんだと思うんです。だから、子供の教育ってすごく大事だなって。早いうちから子供たちに命の教育をして、子供たちが命を捨てようとする大人を叱るぐらいになって欲しいです。

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—震災後からずっと富岡町で保護活動をされている代田さんから見て、富岡町はどう変わってきましたか?

代田さん:震災直後はもう本当に無法地帯で、避妊去勢もほとんどしなかったはずです。たくさん増えてしまって、すごい数の猫がいました。でも、人間がいない町で増えても、餌がなくて死んでいくんです。徐々に数も減ってきました。猫がまったくいない町というのも不自然ですよね。元は地域に普通にいたんですから。これから避難解除される地域も広がっていくと思いますが、ちゃんとした地域猫としてみんなに認められて生きていける子ができればいいなぁと思います。

震災から10年経って、町は大きく様変わりしました。また同じことの繰り返しにならないように、問題を放置せず、地域の人たちと話し合いながら、動物も人間も幸せに暮らせるような町にしていきたいです。富岡町に保護活動をしている人がいるんだ、シェルターがあるんだ、ということを知ってもらい、命を見捨てる前に相談して欲しいなと思います。

これからも保護活動を続けていきますが、今はコロナでなかなか譲渡会を開催できていません。コロナが落ち着いたら、もっと本格的に活動していきたいです。猫を飼おうと思っている方には、ペットショップだけでなく、保護猫の里親になるという選択肢も考えて欲しい。みんなが小さな命を大切にする社会になっていって欲しいですね。


撮影:白圡亮次
特定非営利活動法人  栖
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