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論文紹介: # climatechangeに付随する10年間、200万枚以上の画像を調べた

気候変動は現在世界で最も大きな問題の一つですが、その解決のために特に必要なのは人々の理解を科学的コンセンサスと一致させることです。

その目的のために各ステークホルダーがどのように気候変動について発信を行っているかを知ること重要であり、ソーシャルメディア分析はその有効な手段だと考えられます。

今回紹介する研究は2011-2021年の10年間の"#climatechange"というハッシュタグを含むTweetを全て収集し、そこに含まれる約200万枚の画像を分析しました。一般的に画像の投稿は直感的で、多くのインプレッションを生み出しやすいことでも知られており、現代のソーシャルメディアでは特に重要なコミュニケーションツールとなっています。

(Social) Media Logics and Visualizing Climate Change: 10 Years of #climatechange Images on Twitter (Social Media + Society 2023)
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/20563051231164310

結果

画像のカテゴリーは8種類

著者たちは、半自動的な方法で200万枚の画像を分類しました(詳細は論文参照: CNNの最終層をk-means法で5,000クラスタに分け、マニュアルでラベル付けをして、クラスタをさらに統合しています)。
一番大きなカテゴリでは8種類に分類できたそうです:

  1. 気候変動の結末

  2. 会議/ワークショップ

  3. その他

  4. 自然/動物

  5. 人物

  6. 抗議活動

  7. 技術(ソーラーパネルなど)

  8. 様々なビジュアリゼーション(テキスト/引用や漫画、グラフなど)

画像の例: 8.ビジュアリゼーション(1行目)、5.人物、2.会議/ワークショップ、6.抗議活動(2行目)、4.自然/動物、1.気候変動の結末(3行目)、7.技術(4行目)

画像の多くはビジュアリゼーション、それもテキスト/引用系が多い

カテゴリ別に画像の分量を見たのが下図です。まず、画像の半分はビジュアリゼーション系であり、その2/3がテキスト/引用系となっています。2番目に多いカテゴリーは人物(画像の15%)で、政治家や有名人の写真などが含まれていました。3番目に多いのは「自然·動物」(9%)でした。
これは従来のニュースメディアで気候変動の結末や著名人の画像が最も多いことを明らかにした先行研究とは異なる結果だったそうです。

画像の分類。内側が親カテゴリーの8個を示す

画像の増減は周期的、特に大きなイベントに合わせて増える

気候変動報道のパターンは「イシュー·アテンション·サイクル」(Brossard et al. 2004)を辿っており、持続的ではなく、周期的であるという批判があります。
著者らは、Twitter上でもその周期性があることを確認しました(下図)。これを見ると、#climatechangeツイートの量は毎年後半に繰り返し急上昇していることがわかります。これらの国連気候変動会議(COP)の開催やFridays for Futureなどの世界的な運動、その他の主要な政策と重なっているようです。
一方で、2020年初めからは顕著に減少していることも確認できます。これは米国が政権交代やCOVID-19の出現が影響していると考えられます。
(この論文のデータ外でしたが、COP26が開かれた2021年後半のデータも気になります。)

画像を多く投稿したステークホルダーは7種類

「誰が」投稿しているかも知るために、100枚以上の画像を投稿した約2,000アカウントの分類も手動で行ったそうです:

  1. アドボカシー・アクター(例:非政府組織、資金調達者、慈善団体、利益団体、個人活動家)

  2. ボット(例:短時間に同じツイートを複数回公開するなど、自動化した行動を示すアカウント)

  3. ビジネス・アクター(例:企業やブランド、または主にビジネス活動やネットワークの宣伝を行った個人)

  4. ジャーナリスト・アクター(例、 政治的アクター(政治・行政機関やプロジェクト、政治家やそのキャンペーンメンバーなど)

  5. 科学的アクター(研究機関やプロジェクト、研究者や気候変動専門家など)

  6. 個人(個人的な理由や意見を述べるためにアカウントを使用している個人など)

  7. その他

Botのアクティブな活動が目立つ。また、ビジュアリゼーション系の画像の投稿具合に差が見られた

ステークホルダー別に画像投稿割合を示したものが下図です。まず、アカウント数で見ると個人やアドボカシー、ビジネスが多いですが、一方でBotは比較的アカウント数は少ないにも関わらず、投稿量は群を抜いて多かったことがわかりました。一方でジャーナリストや科学的アクターは顕著に遅れていることがわかります。この研究ではBotの良し悪しについては深掘りしていませんが、少なくともTwitter上の気候変動の議論においてBotの影響は無視できなさそうです。

また、投稿された画像の内容を見ると、Botは殆どがビジュアリゼーション系であり、その多くがツイートのスクリーンショット、インスピレーションを与える引用、ミームなどのテキストや引用を取り入れた画像(78%)だったそうです。科学的なアクターも全体的にビジュアライゼーションを好みますが(画像の55%)、グラフや図の画像を配布する傾向が最も高かったそうです(18%)。ジャーナリストのビジュアリゼーション系の使用は最も低かったそうです。

アカウント数と投稿量は左側に付記されている

最もエンゲージメントを得た画像は抗議活動系

最後に、Twitterから得れる4つのエンゲージメント(like, RT, QT, Reply)の量を見たのが下図です。これを見ると、抗議活動系はどのエンゲージメントもかなり多く得れていることがわかります。次に人物、自然/動物系の画像が続きます。最も量が多かったビジュアリゼーション系は、一番エンゲージメントを得れていませんでした。それでもビジュアリゼーションは、作成が比較的容易であるため、多く使われているのだろうと考察されています。

所感

ソーシャルメディア分析者としては、5,000クラスタのラベルをマニュアルでつけたのはすごいなと思いました。所謂根性マイニングというやつですね。
Botの存在感や、抗議活動画像へのエンゲージメントの多さ、なども印象的で、興味深い論文でした。

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