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論文紹介: イーロン・マスクによる買収後、ヘイトスピーチとBotは増えた

イーロン・マスクによるTwitter買収による影響を確かめる論文が出ました。
著者たちのTweetによると、ソーシャルメディアのトップ会議ICWSMに採択された模様です(ショートペーパーのようです)。

ご存知のようにTwitter社は2022年10月末にイーロン・マスクに買収されました。その際の公約に「コンテンツモデレーションを減らす」ことと「スパムボットを減らすこと」がありました。

コンテンツモデレーションとは要は投稿内容に関する制限と規制のことで、例えば極端なヘイトスピーチを行うユーザは、ban(アカウントが使えなくなること)の対象になっていました。

しかし、イーロン・マスクはFree Speech(表現の自由)を求めるとし、このコンテンツモデレーションを減らすことを宣言しました。その結果、例えば既にbanされていたトランプ大統領のアカウントは復活しています。

一方でイーロン・マスクもヘイトスピーチ対策のアピールはしており、2022年11月23日、ヘイトスピーチのインプレッション(ユーザに見られた回数)は、1/3まで減ったことを宣言しています。しかし、その手法やデータについては公開されていません。

スパムボットについては知っている方も多いでしょう。Twitterには自動投稿のためのアカウントを作る機能があり、それをbotと呼びます。これにより例えば広報の便利ツールなどが作れますが、一方でフェイクの拡散や、他社への悪質な攻撃、軍事目的にも使えることが示唆されてきました。(トータルでbotの割合は9-15%と言われているようです。)

悪質なbotが減った方がいいのはその通りですが、実際にイーロン・マスクの買収後にbotの数はどうなったのでしょうか。本研究では買収前後のツイートを広範に収集し、実際に定量的な調査を行いました。

買収後にヘイトスピーチを行うユーザが増加する

著者らは、ヘイトスピーチを収集したあと、そのユーザのツイートを買収1ヶ月前から1ヶ月後までの全てのtweetを収集しました。その結果、彼らのtweetのうち、ヘイトを含むtweetの割合は、買収後に4倍になったそうです。しかも、その傾向は買収から1ヶ月経っても続いたそうです。

ヘイトスピーチの総量も増加している

次に、著者らはtweetのランダムサンプルから、ヘイトを含むtweet数を収集しました。その結果、買収後にヘイトを含むtweetは急激に増え、その傾向が年明けまで続いていることがわかります。ベースライン(オレンジ線)のtweet数と比較しても増え方の差が明確です。

(様々なタイプの)Botが増えた

最後に買収前後でbotの数の割合を比べました。botの検出にはbotometerという有名ツールを使っています。このツールはさまざま場タイプのbot(荒らしや草の根運動、フェイクなど)の判定を行ってくれます。
買収前後の比較の結果、殆どのタイプのbotで増加、もしくは無変化という結果になりました。唯一ベースライン(非ヘイトツイート)におけるAstroturf(草の根運動)のみが減っているようですが、多くの場合でbotが減ったという証拠は見つからず、むしろ増えていました

議論と所感

議論では、いくつかの研究の限界を述べていました(因果関係を見ていないことや今回見れなかった影響の要因の可能性など、細かいので割愛)。

個人的には、イーロン・マスクによる買収後にヘイトスピーチが増えたことは、他にも様々な速報がありましたので、今回もその結果を裏付ける論文になっていると思います。
一方で気になっているのはイーロン・マスク自身がヘイトスピーチの「インプレションが減った」と報告していることです。ヘイトスピーチの実数が増えても、何かしらのアルゴリズムによりヘイトスピーチのインプレッションを減らす手立てを取っているのかもしれませんが、以前公開された推薦アルゴリズムの詳細には、ヘイトに関する記述はなかったように思います(違ったらすいません)。
とはいえヘイトの数事態が増えているのは確かでしょうし、アルゴリズムによってヘイトのインプレションを減らすのは、それは今のモデレーションと何が違うのかなど、説明がほしいところではあります。

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