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Chromebookを文房具に!主体的・対話的で深い学びを目指した八雲町の取り組み【教員研修編】

「北海道の先生」連載第4回は、前回に引き続き八雲町のGIGAスクール構想に焦点を当てます。ぜひ前回の記事と併せてお読みください!

1人1台端末がChromebookに決まり、それを学習で活用するために八雲町が力を入れたのは教員研修です。
前回の記事にも登場いただいた八雲町立落部中学校の池田 忠寛教頭へのインタビューをもとに、効果的な教員研修の在り方について考察していきます。

GIGAスクール構想と教員研修

八雲町の事例をご紹介する前に、国家としての教育政策であるGIGAスクール構想について、教員研修の視点から確認してみたいと思います。
GIGAスクール構想の推進にあたっては、文部科学省から2019年12月に「実現パッケージ」※1として支援策が出されていました。
その、実現パッケージに含まれる施策の役割を大まかな図に整理してみました。

GIGAスクール構想の実現パッケージによる支援(緑の丸は追補版によるもの)

前回記事で取り上げたような学習環境整備に関する支援は、主に自治体向けの物的支援に相当すると考えます。学校に付帯する設備ではありますが、学校ごと独自予算で整備するものではなく、自治体教育委員会が予算を立てて整備するものです。

学校や教員向けの支援策で具体的な授業の内容に触れると考えられるものには、情報提供としての授業ノウハウ集※2の提供と、企業などが総合的な学習の時間のカリキュラム編成や実施に協力するみらプロ※3があります。

指導者養成研修※4は、指導主事や学校管理職向けに実施されるもので、主に学校情報化におけるマネジメントに関する内容となっています。
基本的に研修については、教育公務員特例法 第四章 研修の項、二十条にある通り、教育公務員の任命権者(都道府県)や学校を設置する自治体教育委員会が研修のための環境や条件を整えることを義務付けられており、GIGAスクール構想実現パッケージなどの支援も活用しながら、自治体独自に企画・実施します。

また、教員自身も教育公務員特例法 二十一条で「教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない。」とされており、校内研修に参加したり、自己研修を行ったりして指導力向上を目指す必要があります。

まとめると、自治体、教育委員会や学校管理職は、教員がGIGAスクール構想で求められている指導力を身につけられるよう、文科省などからの情報を基に研修の機会を提供する義務があるということです。

八雲町の教員研修プログラム【2020年度】

2020年5月に八雲町が1人1台端末をChromebookにすると決めてから、八雲町確かな学び推進会議を中心に教員研修の企画が行われました。
八雲町確かな学び推進会議については、前回記事をご参照ください。
池田教頭(当時は八雲中学校教諭)は、八雲町確かな学び推進会議のICT活用力向上推進チームに所属し、研修企画の中心となりました。
研修が進んでいくプロセスを、池田教頭のインタビューをもとに振り返っていきます。

研修を企画するための準備

池田教頭は1人1台端末選定にも関わったそうですが、その際にモデルとなったのが前任校である北海道教育大学附属函館中学校の取り組みでした。
研修を企画するにあたり、まずは池田教頭自身が情報収集のために積極的に動いていました。

附属中学校に視察に行って、chromeを使った授業を見せていただいたり、セキュリティについていろいろ。(中略)
ホワイトリストとかその辺りを細かく聞いてきました。どういうふうにセキュリティを組むのか?例えば八雲町全部で、教委の方で組むのか、それとも学校で組むのかっていう、そういうあたりがちょっと自分もあんまり詳しく無かったので。活用の方はだいたいイメージをわいていたんですけど、その辺を中心に話を聞いてきました。

インタビュー(2023年5月31日実施)録音の書き起こしより

筆者が関わった自治体の事例との比較ですが、スムーズに導入が進んでいった自治体ほど「モデルケースを見つける」ということに対する意識が働いています。
端的に言うと、端末選定前にこの「モデルケース」を発見できているか否かで結果は大きく変わるのではないでしょうか。

八雲町はGIGAスクール構想の整備が始まった時点でかなり先行している自治体のひとつでしたが、それでも他に参考にすることのできるモデルケースは身近にありました。
「それは附属中だからできること」として、北海道教育大学附属函館中学校はモデルケースにはならないと考えるか、条件が完全一致ではなくても、モデルケースとして自分たちに当てはめられる部分を見つけるかによって、大きく状況は変わってきます。

八雲町の場合は、モデルケースとなる学校での実践を経験した池田教頭が、教育委員会と連携して動いたことが大きく推進に寄与したと考えられます。

7月からChromebook40台セットで借りれるって約束しまして、それを借りてきたり返したり借りてきたり返したり繰り返すんですが。(中略)定期的に借りて、また返して。

インタビュー(2023年5月31日実施)録音の書き起こしより

池田教頭の話から、モデルケースとなる北海道教育大学附属函館中学校には情報収集以外にも端末を借りるために何度も足を運んでいることがわかります。
これは、池田教頭が北海道教育大学附属函館中学校に在籍していた経緯により、コミュニケーションの素地がすでにできあがっていたことからできたことでしょう。

北海道教育大学附属函館中学校が、時代の変化に応じた教育方法の研究を通じ地域の教育を先導する姿勢も、八雲町を始めとする北海道内の教育に大きく貢献した一つの要素として考えるべきだと思います。
改めて地域の教員養成大学やその附属学校の役割に気付かされたエピソードでした。

集合研修をきっかけに校内研修の流れをつくる

2020年8月には八雲町確かな学び推進会議とICT教育担当者会議が主催する「活用力向上研修」が2日間、延べ6時間にわたってまずは各校でICT活用推進を担う教員向けに行われ、Google for Educationに含まれるアプリケーションを実際に操作し、利用する方法を学びました。

研修プログラムの検討段階では、当時一般職だった池田教頭が中心となり、周りの協力を得てボトムアップで計画を推進してきた様子がインタビューから伺えます。

ICT推進の方(小・中学校各校から)1人ずつ基本的に選んでもらって、そのICTのメンバーがまず理解する、理解してもらったら、次にその方中心に広げてもらうっていう動きをしました。

インタビュー(2023年5月31日実施)録音の書き起こしより
()内は筆者補足

研修講師は池田教頭が務めたそうですが、その研修資料はアプリケーションの手順書に近いものになっています。

何がなんだかわからないっていう感じがあったと思うんですけども、とにかく、この資料さえあれば、使い方がわかるっていうところも、ちょっと目指したので。

インタビュー(2023年5月31日実施)録音の書き起こしより

この研修の位置付けは「次に各学校が何に取り組んでいくか見通しを持つため」のものでした。

そこで、研修の後半では「いつまで」に「どんな」教師スキルと生徒スキルを身に着けていくのかを検討し、ロードマップに示して各学校で共有することを求めました。
ロードマップを各学校で作成する必要性について、池田教頭はこのように語っています。

これ(教員研修で使う資料)を見たいと伝えていくためには、どういう風に学校で進めていかなきゃいけないっていうロードマップを作ってくださいっていうのがこの(活用力向上研修での)一番大事な話だったんです。
皆さんが理解しても学校で使えるようにならないので、ロードマップをいかに作るかっていうところはポイントで(中略)何月から先生方は何月までにどういう技術を得なきゃない、で生徒は何月までどうしなきゃない。で、そのためにはその(GIGAスクール)導入委員会がどんな活動していかなきゃない。っていうのを、ロードマップを作っていかないと学校は進んでいきません

インタビュー(2023年5月31日実施)録音の書き起こしより
()内は筆者補足

池田教頭がまずは手本としてロードマップを作り、それに倣って他の学校の担当者がロードマップを作成するように促しました。当時勤務していた八雲中学校で先行してGIGAスクール導入委員会を立ち上げた事例も紹介し、各校にもGIGAスクール導入委員会を設置して今後の推進を図ることを提案しました。

池田教頭が八雲中学校勤務時に作成したロードマップの一部

このロードマップは必要に応じて修正を重ね、その時の状況に合わせた柔軟な対応を心がけていたそうです。

この研修に参加している先生方には、ロードマップを示すことにより「この研修がゴールではない」ということが伝わったと思います。ICTを授業で活用していくための行動として、以下のことが明確になりました。

  • 八雲町確かな学び推進会議が主導する今回の研修は「導入」の位置付けである

    • 本格的な活用に向けた取り組みは各学校で推進するというメッセージ

  • 学校単位で役割を決めて計画的に進めていく必要がある

    • ロードマップや指導計画の作成

    • セキュリティポリシーの策定

    • キッティング補助などの作業

    • 保護者への周知に向けた作業

    • 校内研修の準備

  • 生徒の活用と先生方の活用の両軸で進めていく必要がある

  • まず何ができるようになっていたら良いのか、優先順位がある

授業での活用イメージを広げる授業公開

2020年11月には、八雲中学校での授業公開が行われました。
池田教頭は当時理科の教員として自ら授業公開を行っています。この授業を通じてどんな場面でどんなアプリケーションを使い、生徒がどのような動きを見せるのか、参加者に知ってもらうことがねらいとなっています。

この授業公開に先駆けて、前述した8月の研修やそれに続く校内研修の体制作りなどが行われており、参加した先生方はGoogle for Educationに含まれるアプリケーションとその個別の使い方はある程度理解している状況でこの授業を見ることになります。

自分が工夫したのは、この50分の授業の中にどれだけのことができるかっていうことで、(指導案に)カラーで印をつけたんですけども、一般のgoogle検索を使ったシーン、そしてスプレッドシートで共有しながら同時にみんなが打ち込むシーン。あとドキュメントを使って、その一つのシートに子どもたちが相談しながら打ち込むシーン。そして、このChromebookに動画をアップして子どもたちの目の前で、1人1台端末で動画が見れるんだよっていうシーン。で、あとはまあスライドを見せて、スライドがこう動いていくことで、この理科の海陸風という授業だったんですけど、これを説明できるんだよっていうこと。そして最後にフォームのアンケートで、理解度チェックをして、そしたら90何パーセントなんですけどね。(理解度チェックフォームに)みんながバーって打ち込むじゃないですか。じゃあ正解率は何パーセントだとドン!っていうことが授業できるんだよっていうような授業を見ていただきました。

インタビュー(2023年5月31日実施)録音の書き起こしより
()内は筆者補足
池田教頭が当時公開した授業の指導案

この授業公開が行われた後2020年12月に、いよいよ八雲町の各学校には1人1台端末が配布されました。

ここまで非常にスムーズに進んだように思える八雲町のICT活用ですが、実際に1人1台端末が配布された時の町内の先生方の反応に、池田教頭も苦悩した様子がインタビューから伝わってきました。

子どもに1人ずつ1台与えるんですけど、結局は学校に充電ボックスを全部用意してもらって、そこの中に入っている学校もあったんです。最初は。八雲中学校も最初はそうで。授業で使うよって言ったら、その充電の箱を持ってきて、そこを開けて1人ずつ配って使って、使い終わったらまたそこにしまって、で充電しておいて、いつでも満タンの状態というところだったんですけど、それだと活用がなかなか進まないんです。そこから持ち帰りにもって行くまでも、例えば学校の中でも学年ごと差をつけてみたりだとか。(中学校)3年生はもうあと何ヶ月しかないから、もう持ち帰りはしない。でも1、2年生はこれから使っていくんだから持ち帰る、と。小学校では、例えば低学年は持ち帰るのは重たい、壊したりする。で持ち帰らせても、家での活用があるのか。そういうような問題がすごく大きくて。もう非常に反対される方も沢山いました。
こんな悪魔のような機械を、なんで子どもたちに与えるんですか?っていう意見もありました。

インタビュー(2023年5月31日実施)録音の書き起こしより
()内は筆者補足

八雲町の教員研修プログラム【2021年度】

丁寧な段取りを踏んで1人1台端末の導入までこぎつけた1年目でしたが、前述した通りまだ現場の先生方の中には不安や警戒感が根強くありました。それでも、次に向かうための仕掛けは着々と進んでいきます。

先生方の異動もあって迎えた4月、池田教頭が目にする反応は厳しいものだったそうです。

「先生は得意だからいいですけどね。」「そう言う先生がいるから八雲中はいいですけど。」って。「私たちにそんなね、みんなで使ってくださいってどうすんですか?」って。すごいクレーム。

インタビュー(2023年5月31日実施)録音の書き起こしより

それでも前年度に引き続き、各校のGIGAスクール導入委員会がロードマップに従い活用を進めていきます。

各校の事例を持ち寄る集合研修

4月に池田教頭が目の当たりにした先生方の反応は、夏休みの集合研修の時には大きく変化していました。

ところが夏休みに集まっていただいて、では事例をご紹介くださいったらもう。うちではこんなことやこんなことやこんなことに使うようになりましたみたいな。もうガラッと空気が変わってて。(中略)
もう自慢大会になって。2時間かかったんです。皆さんの話を全部聞くまで。自分は、(活用が推進されるように)どうやって落とそうか、どうやって説得しようかって言うスライドを作ったんですけど、使いませんでした。

インタビュー(2023年5月31日実施)録音の書き起こしより
()内は筆者補足

なぜそのような変化が起きたのか?という問いに対しては、池田教頭から「やっぱり使えたと。」とひと言。
それまでは机上の空論として警戒されていたものが、学校ごと、先生ごとの実践を通して「やっぱり使えた」という実感に変わったことが変化が起きた原因のようでした。

そして、先生方の警戒感が払しょくされて行った時に活用を後押ししたのが「Wi-Fi」であったと池田教頭は振り返ります。

何よりもすごかったのがですね。やっぱり。八雲町教育委員会、八雲町ですかね。がすごかったのが、もう本当に使えるWi-Fi環境ですよ。用意してくれたのが。数百人が同時に使っても使えるWi-Fi。(中略)
あとはSIMカードを入れてくださった。これは本当に大きくて。

インタビュー(2023年5月31日実施)録音の書き起こしより

成果アウトプットによる研修促進

2年目の活用の成果は「ICT活用実践事例報告集」「Google for Education活用マップ」という形にまとめ、町内の教員に共有されました。
先生方が自分では気付けなかった活用の仕方に気付いたり、他学年の活用の様子を把握したりすることは、自己研修の助けになるのではないでしょうか。

また中学校区ごとに「情報活用能力指標」を作成し、小学校から中学校までの9年間を見通したスキル育成に役立てられることになりました。

2年目の活用成果は3つのアウトプットとしてまとめられた

ICT活用のその先へ

1年目の端末や個別のアプリケーションの使い方を知る段階、2年目の授業で実践を深める段階を経て、3年目は総合的な学習の時間をターゲットに主体的・対話的で深い学びを目指した実践が目指されました。

前回の記事で、八雲町確かな学び推進会議の目指すところはICTを活用することではなく個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実させ、主体的・対話的で深い学びを実現することがゴールという認識を伺っていました。
2年間、ICT活用の土台作りをしっかり行った上で、現在は本来の目的に向かうための取り組みが進められています。

八雲町の現在地について、池田教頭はこのように語っています。

今までこの(令和)2年からは、最初から立ち上げて3年、4年はこんなことができるんだよって交流を中心に(研修を)やってったんですけど、もう令和5年度はもうそれはいいと。結局、そこの学校はどんな活用とかって、もう要らないぐらい根付いてるんで、おそらく自分がいなくなっても全くこの後問題ない。

インタビュー(2023年5月31日実施)録音の書き起こしより
()内は筆者補足

2023年度からはGoogleのパートナー自治体プログラムに参加し、中学校の総合的な学習の時間で企業の協力を得て更なる深い学びにつなげていこうと試行を始めています。

また、先生方の授業実践をGoogleサイトで町内の先生方向けに公開していく取り組みも進めていくそうです。
ここで、筆者から「なぜ一般公開しないのですか?」と質問を投げかけてみたところ、前回の記事に登場いただいた八雲町教育委員会の小林参事からは、以下のようなコメントがありました。

教育実践の発表会って、大きな研究会があったりとか、何かしらの研究協議会に参加して紹介したりというようなイメージなので、そういった機会がないと(実践に触れることが難しい)感じになってしまいますが、ICTの利点を生かすのであれば、リアルタイムに情報発信受信ということも可能かもしれないですね。

インタビュー(2023年5月31日実施)録音の書き起こしより
()内は筆者補足

ICT活用が根付いていくことで、児童・生徒の学習環境だけでなく、教員研修などの在り方も変わっていくことを、この対話を通じて改めて確認しました。

これからの八雲町の教育がどのように変化していくのか、非常に楽しみです。ぜひこれからも注目していきたいと思います。

参考資料

※1 文部科学省「GIGAスクール構想の実現パッケージ」および「(リーフレット:追補版)GIGAスクール構想の実現へ(令和2年度補正)」
※2 文部科学省『「教育の情報科に関する手引」について』
※3 文部科学省「みらプロ」
※4 独立行政法人教職員支援機構「学校教育の情報化指導者養成研修」


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