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続・イルカ展示の将来(非飼育)

Q.なんでペンギンの話のはずだったのにイルカの部分がどんどん膨らんでるんですか?

A.不手際で。

の記事に対して

という反応がありまして。

あっ、「イルカを紹介する展示」っていうところで「飼育せずに」っていうニュアンスを強調すればよかった。ぬかった。っていう。

ご指摘のとおり大半のイルカ飼育展示はつまらないわけですが、それなら往生際悪く生体を付き合わせてないで縮小しちゃえというのがイルカ・ペンギン交代説の論旨の半分なわけです。

とある私が最高だと思ってる水族館でも、イルカのところを見ると「この店で一つだけ気に食わねえのは……、あの写真を外さねえことだ……」みたいな気持ちになったりします。

それから「地域性」で「イルカ>ペンギン」になっている理由ですが、ふじのくに地球環境史ミュージアムの記事

で書いたとおり、地域の自然を紹介することが博物館および博物館相当施設の重要な役割であると考えたためです。

その地域に「いるもの」と「いないもの」どちらを紹介すべきか、自分とは異なった基準からご指摘いただいたのはありがたいことです。

しかし、野外での観察と水族館は必ずしも互いに同じ役割を果たさないないという主張を続けさせていただきたいと思います。(ご指摘のツイートに限らずかなりよく聞かれる主張なのでここで改めて論じておきたいのです。)

それは、イルカウォッチングに出かけられるかたにはめっちゃイルカ見たいという明確な主体性があるのに対して、水族館に訪れるかたの大半が「なんとなく」来るためです。

水族館プロデューサーの中村元氏は「水族館に魚を見に来る人はいない」と発言し、魚を見に水族館に行く皆様の顰蹙を買いました。私も問題発言だと考えております。

中村氏はこの発言を通して何を言いたかったのでしょう。それはやはり、大半の来館者が「なんとなく」来ているということではないでしょうか。

この発言を端緒とする「水塊理論」とはつまるところ、映画で個々のキャラクターの魅力ではなく世界観や映像美から宣伝を始めるように、水族館でも個々の生物の魅力ではなく全体の風景や雰囲気から宣伝を始めるべきだという広告戦略にすぎないというのが私の解釈ですが、そのことについて詳しくはまたの機会に。

実際、水族館にいると、他の来館者のかたは皆「なんとなく」必ずしもどの生き物が目当てというほどでもなくやって来たふうなのです。

巻き貝という生き物がヤドカリとは別にいるという意識もないかたが多いのです。生き物に対する関心の強いかたからすると信じられないことかもしれませんがマジです。すみだ水族館のチンアナゴの水槽のそばに数分いれば分かります。

このくらい認識がうすぼんやりしたかたが水族館のメインターゲットであるという点については、中村氏の言うとおりだと認めざるを得ないと思います。

野外のイルカウォッチングが完璧な代替にならないと私が考える理由はここにあります。

イルカウォッチングに行かれるかたはその海にイルカが生息しているということをすでによくご存知のはずです。

しかし、日本国内の自然への認識の薄さから考えると、大半のかたはイルカなんて御大層なものが近くの海にいるとは夢にも思わないのではないでしょうか。

なお、その「魚を見に来たというわけでもない」かたがたが始終水槽をただ風景としてボーッと眺めているかというとそうではありません。

中村氏ご自慢の「水塊」であるはずのサンシャインラグーンで、ヒョウモンオトメエイの巨大な顔面(背腹どっちが正しい顔面なんでしょうね)に驚き、ドクウツボのうねりにおののき、トラフザメの顔立ちの愛らしさと尾の優雅さに注目し、タカサゴの色変わりに驚きます。

来館者の皆様も、お金を払って水族館にやって来るくらいですから、生き物に対する関心はお金を払うくらいにはあるわけです。

基本的な知識を蓄えたり野外に特定の生き物を見に出かけていったりする主体性を生むほど固まっていないけれども水族館にはお金を払う程度の、生き物に対する関心があるかたが、水族館のメインターゲットであるということです。

こうしたかたがたに対して色々な生き物をひとつの「皿」に載せて出すのが水族館です。メインだけでなく想像もしなかったようなものまで味わってもらうのです。

この皿に「日本近海で活発に泳ぎ回って狩りをする大型捕食者」であるところのイルカを載せること自体には意義があると考えます。

しかし先の記事と最初のほうで述べたとおり、生体展示はもはや「不味い料理」です。これを回避しつつ、野外観察のような「美味い料理」としてイルカを出さなくてはなりません。

ここは実際に展示を行う施設が各自の条件に合わせて工夫すべきところなのですが、近海の生態系とその高次捕食者を紹介するという役目がある以上、野生個体の様子を詳しく見せるのがよいでしょう。昨今の映像技術の向上が物を言う場面です。

手を振ると愛想よく反応してくれるCGのイルカだとかのアトラクションでは展示の意義から外れてしまいます。そんなことをしていたらそのうち100mのザトウクジラだの実際より目がぱっちりしたピンクのハンドウイルカだのが出てくるのは目に見えています。

案外、琵琶湖博物館の「マイクロアクアリウム」が参考になるかもしれません。マイクロアクアリウムは、琵琶湖の微生物を展示するエリアです。

模型、映像、アートに至るまで、見えないはずの微生物を見せるために琵琶湖博物館は手段を選びません。

館内にいないイルカがすぐそこの海にいることを見せるために、水族館も手を尽くすべきでしょう。


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