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動物という本をちゃんと開け

この記事なんですけれどもね。ああ、開かなくてもいいのです。

動物園、実は役に立っていない?─研究によると「生きた動物を見ることは教育に良いわけでもない」

我田引水が過ぎるので同じ議論に乗っかることはしません。議論するに足る内容であるというメッセージを発するわけにはいきませんので。

この記事の詳細な内容より、なぜこういう記事が出てしまうかという背景を踏まえて話をしたいと思います。(より重い我田引水で殴るとも言う)

私をはじめ動物園や水族館を楽しいと思っている人間がなぜ楽しいと思っているのか。その理由をきちんと認識した上でそれを広めるという話をしてこなかったのではないかと思います。

なので今回は、主に私がなぜ動物園や水族館を楽しいと思うのか、その姿勢についてのお話です。

そもそもですね、

自然物は人間に見られるために生まれたのではないのですから、お客様気分でボーッと見ていても何も得られないのは当たり前です。

そのことを無視して「よく分かりませんでしたー」とか言っててもしょうがないのです。

(図はただの岩です。と見せかけて、化石が密集しています。)

こうやって楽しませようという指針なくして生まれた自然物と対峙するには、予想外のものが現れたら受け止めてやろうという主体性、好奇心が必要です。

見せる側は予想外の球を投げ、見る側は好奇心のグローブをはめとくべきです。

ですが、見る側にその気さえあれば見せる側が普通のことをしててもなんとかなりますし、なければなんともなりません。

実例を挙げましょう。

とある動物園で、カピバラの浸かっている水槽にカピバラの糞が浮いているのに子供が気付きましたが、親は「野生なんだからどこででもするだろ」と言って子供を連れて去ってしまいました。

はい今取りこぼしました。そこにしっかり立ってる「カピバラは水中でしか糞をしません」と書かれた看板という良い球取りこぼしました。

(この個体のいるところではないです。)

今のがなんともなんなかった例です。動物園にボーッとしに来たタイプです。なんかもう明らかにボーッとするのが目的なんでこの議論をする上でもほっといちゃおうかなと思うくらい極端な例でしたが。

なんとかなった例を挙げましょう。

「けいおん!」っていうアニメがありましたね。もはや最近の作品とはいえないと思いますが、あれでスッポンモドキを知ったかたも多いようです。軽音部の部室でスッポンモドキの幼体を「トンちゃん」と名付けて飼っていたという……まあ危ない設定ですが。

ある動物園の爬虫類館でのことです。スッポンモドキの水槽の前でこう叫んだカップルがいました。

「トンちゃんこんなデカくなんの!?」

これがしっかり受け止めた瞬間です。スッポンモドキ(成体)という動物園側はとしては何気なく放った球が、カップルの「幼体のスッポンモドキしか知らない」というピンポイントな真芯に突き刺さり、カップルはスッポンモドキという生き物に驚きそして知ったのです。

私自身の例に移りましょう。

noteではペンギンの話ばっかりしているのでペンギン激推しの人だと思われているかもしれませんが、今回もやはりペンギンです。

関東でオウサマペンギンやジェンツーペンギンといった大型のペンギンがガンガン泳いでいるのが見られるところといえば、そう、八景島シーパラダイスですね。ガチ勢の皆様からはエンターテイメント寄りすぎると見なされているあの八景島です。

(僕もフォレストリウムのコーナーあたりは支離滅裂に見えて好みではないです。関東でカピバラなら大宮公園小動物園、コツメカワウソなら埼玉動か智光山公園ですよ。)

八景島のペンギンコーナーにしても氷のイメージを出しすぎたりしているのは難アリですし、ケープやアデリー、ことによってはジェンツーまでオウサマの子供と勘違いされがちなのも課題なのですが、私自身が見たくて来たものに集中していれば観察はきちんとできます。

元々大型のペンギンが主な目当てだったのでオウサマやジェンツーがたっぷり見られたことには満足しつつあったのですが、羽数が少なく隅に隠れがちなミナミイワトビペンギンの姿がなかなか現れませんでした。

見ればいいことがあるかもしれません。何しろイワトビペンギンはオウサマやジェンツーとはクチバシの形が違います。あのクチバシを改めて見れば、何か分かることがあるかもしれないのです。私は少しそのあたりで粘ることにしました。

その甲斐あって、ミナミイワトビペンギンはふとした瞬間に水中に現れました。そこで私は、自分が失念していた重要なことに気が付いたのです。

ミナミイワトビペンギンは、クチバシの長いオウサマやジェンツーよりはるかに小さく、同じように翼の力で潜るクチバシの短い鳥である、エトピリカとさして変わらない大きさなのです。

全く当たり前のことなのですが、ペンギンが5種も集まっている八景島のペンギン水槽まで来ないと気付かなかったことでした。

首の動きや筋力によるものか、大きな海鳥も小さな海鳥も海で同じ餌に出会って捕まえる以上小さいペンギンにはクチバシに強度が必要なせいか、ともかく、小さな海鳥には短いクチバシが、大きな海鳥には長いクチバシが有用であろうということが推測できました。そしてこのことは、コウテイペンギンより大きな化石の海鳥にも通用すると思われるのです。

この1週間前に葛西でエトピリカを見ていたこと、それ以前から海鳥のクチバシの形があまり一様でなくいくつかのタイプに分かれるのに気付いて気にしていたことなどが下地となった気付きでした。

そういえばスッポンモドキの成体に驚いたカップルにもトンちゃんという下地がありましたね。

私の古生物飼育小説がこうした下地を皆様に増やせていることを願っていますし、次の第六十四話、そして第九集はそれを狙った内容となる予定です。

こうした下地を増やすために動物園や水族館自身、そしてそれらのみならず我々ファンが頑張るべきところです。

そして、動物をボーッとではなくきちんと見て驚くというのは、以前一人旅に関する記事でお話した、動物園や水族館をあたかも図書館のように利用するというお話に通じます。

図書館はお昼寝をするところではありません。置いてある本を開きましょう。背表紙に書かれたタイトルくらいきちんと見ましょう。

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