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パラサウロロフスの特徴と私

冒頭から正装(アットゥシ)した私がしそちょう島の皆に囲まれて号泣していますね。

マモルの誕生日のお知らせ以降、ここに記さなくてはならない素敵なことがあつ森の上でたくさんあったのですが、今はともかくこの写真で完璧な姿となって私の後ろにたたずんでいる骨格、パラサウロロフスのことを書き留めたいと思います。

この写真はもちろんパニーのスタジオに皆を呼んで撮影したものです。いつも組み立て骨格が完成したり1パーツだけの化石が見付かったりするとスタジオで記念撮影をしてきたのですが、このときは特別でした。

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これが最後の化石発見の記念撮影だった上に、最後まで残っていた化石は私の(必ずしも一番ではありませんでしたが)数十年来の推し恐竜、パラサウロロフスのしっぽだったのですから。

自分の博物館を作るという古生物ファンの夢をささやかな形ながらも叶える締めくくりとして、あまりにふさわしい化石だったのです。

そのことがひどく嬉しく感じられるくらい、あつ森の中の化石はきちんと作られています。ある程度、本当の「博物館の展示標本」として「観察」が行えるのではないかと思い、それを試す機会が作れないかと思っていました。

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そこで今回は、あつ森の中の化石を本当に展示標本として役立てるテストとして、パラサウロロフスのことを私事を交えてお話ししてみたいと思います。

フータの解説

まずはフータの解説を聞いてみましょう。

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恐竜全体におけるパラサウロロフスの大まかな立ち位置と、最も目立つ特徴であるトサカの有力な仮説についての解説ですね。これでパラサウロロフスというものを充分記憶にとどめておけることでしょう。なにしろ化石に残りようもない鳴き声なるものが再現されようとしているというのは恐竜では大変珍しい特徴です。

ただパラサウロロフスとその仲間達は、トサカ以外は地味な恐竜と見なされがちでもあります。

数十年来推し続けてきた私から見たら、まあトサカが美しいのは言うまでもないのですが、トサカ以外も流麗で精妙で、とてもトサカだけだなんて言えないのですけれどもね……!!

では、フータの解説にある特徴・ない特徴ともに詳しく見ていきましょう。

分類とトサカのシルエット

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先程パラサウロロフスの「仲間達」と言いましたので分類について。

あつ森の博物館の中ではステゴ・アンキロ・イグアノ・パラサウロ・トリケラ・パキケファロと並んでトリケラとティラノが対峙しています。このステゴからパキケファロまでが、口の先端だけがクチバシになっていて骨盤の座骨後方と恥骨が平行に後下方に伸びていて……という特徴を共有しています。これを鳥盤類といい、恐竜の2大または3大グループのひとつです。

そしてその中でも、上の写真のようにイグアノドンとパラサウロロフスというトサカ以外はよく似たもの同士がごく近くに並んでいます。鳥盤類をさらに細分したグループのひとつ、「鳥脚類」に含まれるもの同士というわけです。あつ森の博物館では鳥盤類の恐竜が、このような大グループの中を細分したグループ同士で並んでいます。(他のグループは細分したグループがはっきりするほど展示されている種類が多くないのです)

ただし、「鳥脚類」の中でもまたさらに細かい分類、そのまたさらに細かい分類……があり、

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それが、これまた推し博物館である豊橋市自然史博物館の展示で確かめることができます。

寝転がっているのと、壁にかかっている一番左の頭骨はエドモントサウルスです。一見イグアノドンに似た恐竜ですが、スペアの歯が多いなど様々な特徴から、鳥脚類をさらに細分してもイグアノドンより一層パラサウロロフスに近いグループに含まれます。

このグループがまたさらに細分されると主に空洞のトサカの有無で樹状図の大きな枝のとおりに区別され、右の枝の中ではパラサウロロフスがやや孤立しているのです。一番右のランベオサウルスやその隣のコリトサウルスが上向きの幅広いトサカを持っていることが分かるでしょうか。

このパラサウロロフス~ランベオサウルスが含まれる枝を「ランベオサウルス類」といい、その中で弧を描いて後方に伸びる特別に流麗なトサカを持つパラサウロロフスに、幼少の頃とても心惹かれたのです。だって一番綺麗でしょうが。

様々なトサカを持つンベオサウルス類が集まって思い思いのポーズで水辺に集まっているイラストが、80年代ごろからよく図鑑に掲載されています。そのようなイラストを見ると、幼少時のシンプルな憧れが喚起され、ちょっとときめいてしまいます。

生息年代

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この写真はなになのかというと、私の手元にある1990年の恐竜博のパンフレットに残されている落書きの再現です。パラサウロロフスはあくまでティラノサウルスの獲物の草食恐竜として描かれていたんですが、当時の私がきちんと対抗できてる風にしたくて火花を書き加えたんですね。

ただし、実際にはパラサウロロフスを狩っていたのは恐竜時代の本当に最後に現れたティラノサウルスではなく、その少し前に現れた近縁種達だったようです。

フータが「恐竜時代の最後「のほう」」と言ったとおり、パラサウロロフスは恐竜時代の本当に最後の1段階前……江戸時代で言ったら「慶応」の前の「元治」……?に当たる時代の恐竜なのです。フータ偉い。ちなみに意外といろんな生き物がこの時代に生息していました。プテラノドンとか。

トサカの構造と働き

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改めて、トサカをよく見てみましょう。(ちゃんとアップで見るとさすがに細部がアレだな……)

頭骨の一番前にある水滴状の穴が鼻の穴で、トサカはその周りから続いて後頭部へ飛び出ています。トサカの正体は鼻筋の発達したもので、フータの解説にあった空洞とは鼻の中の気道だったんですね。それが先端でUターンすることでさらに長さを増しています。

また私の幼少の頃に読んだ本の話なのですが、当時は古い内容の児童書がまだたくさん出回っており、その中ではこのトサカが水中に身を潜めたときにシュノーケルまたは空気ボンベとして働くという説が紹介されていました。ランベオサウルス類が半水生だと考えられていた頃に出た説ですが、先端に穴はないのでシュノーケルにはならず、体積は大したことないので空気ボンベには頼りないということになりました。

現在最も有力な説はフータの言うとおり鳴き声を響かせていたというものです。ランベオサウルス類を含む鳥脚類は群れを成して生活していたと考えられ、鳴き声は仲間との通信に役立つというわけです。

実際にトサカの中の空洞を再現してそこで響かせられる音を解析する研究も行われていて、トロンボーンやチューバのような大きな金管楽器の音色に似た低く野太い声だったようです。

さらに、パラサウロロフスも子供の頃はトサカが小さく、高い声しか出せなかったので、群れの中で年齢を区別するのにも役立ったことになります。

ただ、トサカは鳴き声を出すこと以外にも役立てられるはずなので、他にも鼻腔を広くして嗅覚を高めるのに役立ったとか、形に個体や種、年齢による差があったので視覚的にそれらを見分けるのに役立ったとも言われています。おそらく複数のことに役立ったでしょう。

シュノーケル説からトロンボーン説への移り変わりを私自身はあまりまめにリアルタイムに追えていなかったのですが、より実際の証拠に即した説に移り変わっていく改良の過程もまた恐竜の楽しみです。

口の構造

顔のアップを写したので口も見てみましょう。鳥脚類の生態を考える上で口は重要です。

口の先端は幅広いクチバシになっていて、このためランベオサウルス類やエドモントサウルスの仲間をかつてはカモノハシ恐竜と呼んでいました。これも古い説ではカモのように水草を集めるものとされていましたが、今では陸の植物を効率よく集めるものと考えられています。エドモントサウルスのクチバシは特に大きく、一度にたくさん集める傾向がより強かったようです。

クチバシより奥にある歯は一見目立たないのですがこれは一度に使われる歯だけが見えている状態で、

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「恐竜博2016」のときのエドモントサウルスのものですが、下顎を内側から見るとこんなです。小さな歯が予備としてタイルのようにびっしりと並んでいて、先端の歯がすり減るのに合わせて下から押し出されていきました。

サメが歯の切れ味を保つシステムに似ているといえば似ていますがもっと堅牢で、固い植物をしっかり噛みしめて食べ続けることで歯がすり減っても問題ないようになっていたのです。こんな話つい最近もしたな。

この構造をデンタルバッテリーといい、同じ恐竜の中ではトリケラトプスなどの角竜類も備えていましたが、パラサウロロフスのような鳥脚類の歯は噛みしめること、角竜の歯は植物繊維を噛み切ることに向いていたようです。

他にも顎の筋肉の力を受け止める丈夫な後頭部や、複雑な動きをする顎関節、おそらく食物を受け止めるしっかりした頬があったことなど、植物を消化するためによく噛んで食べることに適した特徴が備わっています。

トサカ以外は一見地味に見える鳥脚類ですが、実は恐竜の中でも特に繁栄したグループでもあり、それは食べづらい種類の植物でもよく噛んで消化することができたためとも言われています。

目立つ角や牙や首などに目が行きがちですが、こんな見えづらいところにこんな重大な秘密が隠されているというのもまた恐竜……というか生き物一般の面白いところです。

四肢と胴体

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地味だ地味だと言われている胴体のほうに話を移していきますよ。トサカみたいな華やかさも歯みたいな重大な工夫もないように見えるでしょうか。しかし……パラサウロロフスに限らないのですが……、鳥脚類の運動能力はきちんと見ていかなくてはなりません。

前半身を深くかがめたような腕の姿勢になっていることにお気付きでしょうか。前肢が後肢と比べてずいぶん短いのです。

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ちょっと同じ鳥脚類であるイグアノドンのポーズも見てみましょう。うわパラサウロばっかり見た後だと頭でかいなイグアノ。

イグアノドンのほうは手を浮かせて体を起こしていますね。何十年も前はもっと体を起こして尻尾を引きずって歩いていたと言われていたのですが別にそのポーズというわけではなく。

これらはどちらにしろ前肢のほうにはあまり体重をかけていないのです。恐竜の重心は基本的に腰に近いところにあり、四足歩行の恐竜でもそれは同様です。

これらのような大型の鳥脚類が四足歩行と二足歩行どちらがメインだったかには議論の余地があるのですが、止まってかがむときやゆっくり歩くときだけ手をつき、速く歩くときや走るときは二足歩行したようです。前肢には後肢ほど速く歩いたり走ったりする特徴がないですからね。

先程の骨格を見ると棘突起(背筋のでっぱりの部分)が高くなっていますが、この部分は腱でがっちり固定されていたことが分かっていて、腰を中心に体重を支えるのに適していました。

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それでは歩いたり走ったりする能力を見るために後肢、特に大腿骨(太ももの骨)を見てみましょう。小型で俊敏な動物の大腿骨は地面を蹴る力を重視して曲がっているのですが、パラサウロロフスの大腿骨は真っ直ぐです。これは体重を支えることを重視した特徴ですが、あつ森のモデルでは見づらいディティールを実際の博物館の標本で補うと……、

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これはいわき石炭化石館ほるるという博物館のパラサウロロフスの膝の裏です。でっぱりが発達していて、でっぱりの間が溝状になっています。ここには生前、脚を動かす筋肉の腱の部分が収まっていたようです。

この溝が発達していると腱が骨に沿って動きやすいので脚が速く動かせることになるのですが、鳥脚類のこの溝は特によく発達しています。種類によっては溝どころかパイプ状になっています。(逆にブラキオサウルスなどではほとんどでっぱりがありません。)

鳥脚類の後肢には大きな体重を支えるのに良い特徴も、速く走るのに良い特徴もあったことになります。膝から下はそう長くないので、普段はゆっくりでいざというときは走れるという感じでしょうか。

どうでしょうか、トサカや歯と同じような秘密が隠されていたとお思いいただけたでしょうか。私がパラサウロロフスを好きになった幼少の頃には首から後ろの特徴には気を払っていなかったのですが、その後動物の移動能力に関心を抱くようになってからも、パラサウロロフスは味わいどころを隠していたのです。

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ところで胴体の形をしっかり見るために前からも撮ってみました。横幅が狭くてなんだかスリムなのが分かるでしょうか。肉が付いたらもっと太いと思いますが、案外特徴的な胴体をしているのです。植物を消化するためのスペースは高さで確保しているんだと思います。

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今回この記事を書くきっかけになった、しそちょう島自然史博物館最後の化石、尾です。

先のほうで書いたとおり鳥脚類が半水生だと思われていたのは、この尾が縦に平べったくて尾鰭のように見えるというのも一因なんですね。

しかし背中のでっぱりの続きでここも腱でがっちり固められていて、泳ぐのにそこまで役立つほどくねくね曲がることはありませんでした。これも腰を中心にして体重を支えることに役立ったようです。

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一番有名な化石だと尾はほとんど欠けていたりします。これは「たまがわ恐竜大図鑑展」という小粒ながらコンセプトが明確で素晴らしかったイベントのときに展示されたレプリカです。

鳥脚類の半水生説について思い出すとき、私は幼少の頃に描いたパラサウロロフスの絵に「水陸両用」とモビルスーツみたいな用語を書き添えていたことを思い出します。パラサウロロフスは私の恐竜ファンとして過ごしてきた時間の中にとても深く根を下ろしています。

やっぱりパラサウロが好き

「古生物飼育連作短編小説 Lv100」にパラサウロロフスを登場させたとき(サイト掲載版 カクヨム掲載版)にはあくまで牧場で食肉用として育てるのに適した成長の早く食物に問題のない恐竜としてドライに選んだつもりでしたが、今回がっつりパラサウロロフスの骨格モデルを見て撮って話してみて、やはりとても思い入れのある恐竜であることを自覚しました。最後の化石がパラサウロロフスのしっぽだったことは幸運だったのでしょう。

ただ結果としてあつ森の骨格モデルだけでは追いきれない特徴にまで踏み込んでしまった感もあります。

今後はもうちょっと軽いネタを扱うのではないかと思います。ネタにされがちなコプロライト(ウンコのかせき)なんかがいいかな。

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