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古生物飼育小説Lv100 第八十話をサイトに掲載しました

第七十九話からギリギリ半年経っていないようですがともかく大変お待たせいたしました!通常の短編は第六十九話以来です。今回もよろしくお願いいたします。

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カクヨム

以下はネタバレ込みの解説です。

前回までの長編でみっちりと「飼うのが明らかにものすごくきつそうなものに関して綿密に綿密を重ねたような準備をして最終的に本当に飼う」というのをやっていました。

しかし飼育を正しく実現するのが偉業であるいっぽう、飼育を断念するのは英断であるわけです。いくら飼いたくても無理ならば飼わないというのは、当たり前のことではあるものの、現実には明らかに飼えない・飼うのが難しい生き物が出回ったり、それをメディアが煽ったりしているのが現状であり、飼わないという選択をもっと尊重する必要が出ています。

これはのんほいパークできちんと飼われているコツメカワウソ。

とはいえ、飼いたいと思ってから真剣に考えた末に飼わない選択に行き着くのは、誉められるべきこととされはしますが、行動の主体そのものが見えなくなるのでその機会は現実にはなかなかありません。そこで物語として書き表してしまえばその主体があることになるわけです。飼わないなら飼わないなりにどうするかまで書けば完璧です。

というわけで今回も含め「逆に飼わない」というのが今後ちょいちょい出てくる予定です。第五集あたりから個人飼育があんまり出て来なくなったのも古生物が個人の手に負えると思えなくなってきたからではありますが。

さて、いつも好き放題してはいるもののしばらく本当に好きなものが出せていなくてもどかしい思いをしていました。飛ぶ生き物です。

昔から「飛ばないものより飛ぶもののほうが常にかっこいい」と思い続けており、Lv100の中でも飛ぶ生き物の回は特別な思い入れを持って書いています。オロチ編で現生の鳥やトンボがが通りかかったり翼竜の映像が出たりと姿だけはあったのですが、やはり主役で出せてこそです。

とはいえ飛ぶ生き物を飛べるように飼うって大変なことですよね。そこで先に述べた飼えるか飼えないかの判断もからんできます。今回のお話もまさにシャロヴィプテリクスに関してその大変さに直面している真っ最中というわけです。

飛ぶといっても今回登場したのはどれも羽ばたいて持続的な動力飛行を行うのではなく木から木へ滑空で飛び移るものです。以前はあまり注目してこなかったのですが、動力飛行を行う動物が鳥、コウモリ、翼竜、昆虫、トビイカ(水噴射を動力とするので)しかいないのに対して滑空する動物はもっといろいろなグループに存在するのできちんと見ていったほうが面白そう、と思うようになったのです。なにしろ滑空比1:1(進む距離と同じだけの高さを落ちる)という低い性能であっても滑空動物自身にとっては生活に役立つ大事な能力ですから。

モモンガやムササビは有名ですが同じ哺乳類の中にもウロコオリス、ヒヨケザル、フクロモモンガというように色々な滑空性のものがいて、爬虫類の中にも現生だけでトビトカゲ、トビヤモリ、トビヘビの3つがいます。

これは国立科学博物館の「大地のハンター」展のトビヤモリとトビトカゲです。

絶滅したものに目を向けるとまだまだ出てくる上にちょっと面白いことが分かります。哺乳類には一貫してモモンガのように四肢と脇腹の間に皮膜を張っているのが別々に現れているのに対して、爬虫類にはトビトカゲのように小骨で支えられた羽が四肢とは別に生えているものが別々に現れているのです。トビトカゲのやりかたって今は変に見える割に過去まで含めるとけっこう普遍的なんですね。

調べた限りは時代順にこんな感じで現れています。〇がモモンガ方式かそれに近いもので★がトビトカゲ方式です。

ペルム紀
爬虫類:主竜形類ウェイゲルティサウルス科★

三畳紀
爬虫類:主竜形類シャロヴィプテリクス科〇、主竜形類メキストトラケロス★、鱗竜形類クエネオサウルス科★

ジュラ紀
爬虫類:恐竜類デイノニコサウルス上科(羽毛による翼)
哺乳類:真三錐歯類ヴォラティコテリウム〇、ハラミヤ類マイオパタジウム〇

白亜紀
爬虫類:恐竜類エピデンドロサウルス科(手指と手首からの軟骨に支えられた皮膜)、鱗竜形類シャンロン★

中新世
哺乳類:フクロモモンガ〇

哺乳類と爬虫類の歩きかたの違いや肋骨の構造と動きの違いが関係あるのかな……?と思っています。

で爬虫類のトビトカゲ方式のものにはトビトカゲが直接参考になりそうですね。トビトカゲは単純に脇腹の羽を広げて飛ぶと信じられてきたのですが、数年前に脇腹の羽の前縁を手でつかんで腕で羽を支えて飛ぶことが分かりました。小骨で形を保ってるだけの翼では体重を支えられないですからね。

こちらの論文に図示されている上に、すでにイカロサウルスやコエルロサウラヴス(ウェイゲルティサウルス科です)、メキストトラケロスも同様だったかもしれないと指摘しています。

こちらの動画(1:15以降)でも分かります。

というわけでトビトカゲ方式の羽を持っていた化石爬虫類達がどのようにして飛んでいたかはかなり見当が付くわけですね。樹上で昆虫を捕えていただろうということも推定できます。

問題はトビトカゲとも他の動物とも全然違う造りの翼を持っていたシャロヴィプテリクスです。今回のお話は元々このシャロヴィプテリクスを登場させたくて書き始めたのですが……、

これは去年のミネラルショーで購入したシャロヴィプテリクスのレプリカです。ミネラルショーとは国内外から化石鉱物の販売業者がたくさん集まるイベントです。これを買っている時点で今回の準備なのですが、この特異なスタイルがお分かりでしょうか。小さかったであろう前肢はおそらく化石になる前になくなっていて、やたら長い後肢に皮膜の跡が付いています。

シャロヴィプテリクスは、後肢が主な翼となっているあまりに珍しい滑空性爬虫類なのです。しかも前肢は短かったと考えられていますから、一体どうやって離着陸したのでしょうか。飛べば洗練された姿だったようですが、飛ぶ前と飛んでからのことがトビトカゲ方式のものと違って全く分かりません。飛び立つときは長い後肢で飛び跳ねたのかもしれませんが、着地しようにもちょっと長い首を短い前肢で守れるのでしょうか。

というわけで、飼育下のシャロヴィプテリクスが飛べるように工夫する話にしよう……という最初の思い付きから、最終的には結局誰も飛ぶところを見たことがなくて長い道のりの途中にあり、素人では手が付けられない、という段階の話になったのです。

で勝手に試行錯誤して勝手に挫折する役になった主人公ふたりですが、Twitterで受動喫煙したひとの推しをモデルにするとよく動くキャラになって楽しいですね。なんだか久しぶりにこれをやった気がします。

ペーパーグライダーで滑空動物の能力をテストさせたのはほぼ自分の趣味ですが、ペーパーグライダーはかつての、カタパルトの制御システムは今の雑誌「子供の科学」の内容を彷彿とさせます。いろはは思い込みが強い奴ですが、実際に手を動かしてものを作ることにかけては一流なので、「子供の科学」の「いやこれ九割九分九厘の読者には無理だろ」みたいな工作例を苦もなくやってのけそうです。そのいっぽうで歩羽が本当に知性を発揮しており、どっちが本当に主導権があるのか。

ラストシーンでカエデの羽の生えた種、つまり翼果が登場しますが、翼果も非常に面白いのでこれはこれでLv100以外の記事でも単独で語りたいと思っております。

しばらく「飼えないなりにどうするか」というお話、飛ぶものが登場するお話が続くと思います。

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