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アクアマリンふくしまですよ

「アクアマリンふくしまの潮目の大水槽にバショウカジキがやってきた」この一報は衝撃を持って迎えられ、アクアマリンふくしま(以下AMF)に全国の水族館ファンを集めています。

AMFは日本最高の水族館のひとつです。AMFが見せてくれるのはダイナミックなイルカショーでも煌びやかに照明されたクラゲの水槽でもなく、大自然の中で生きる生き物の在り方です。

AMFのシンボル「潮目の大水槽」は、福島沖で黒潮と親潮がぶつかって豊かな漁場を形成することにちなんだ水槽です。大きな水槽が2つに分割され、三角形のトンネルの一方はキハダマグロやマイワシが群れ泳ぐ黒潮水槽、もう一方は海藻が茂り様々な北国の魚が潜む親潮水槽です。この黒潮水槽で、マグロに並ぶ海原のハンターでありAMFのすぐそばにある小名浜港を代表する魚でもあるカジキの仲間を展示することがAMFの悲願なのです。

そもそもAMFに限らずカジキの仲間自体飼育がとても難しく、水族館ファンにとっても憧れの魚といえます。

私にとって、AMFのあるいわき市はとても思い出深い町です。震災からそんなに経っていない頃、「古生物飼育連作短編小説Lv100」の第十二話(フタバスズキリュウのお話)を書くに当たってフタバスズキリュウの産出地のことを知ろうと、初めて取材旅行らしい取材旅行に行ったのがいわき市なのでした。以来、いわき市で見学した中で主な3つの施設、石炭化石館、アンモナイトセンター、そしてAMFは私の中で特別な施設となっています。

実はそのうちの1ヶ所だけなら私の住んでいるところから日帰りでもなんとかなるのですが、きっかけがなければ踏ん切りがつかないくらいには遠いのも確かです。

バショウカジキならそのきっかけには充分すぎるくらいだ……ということで昨日(10/17)に行ってまいりました。

今回本当に久しぶりに水族館で撮った写真を載せるので、以前にもまして撮影の腕が落ちているようなのですが……。

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おそらく地域の子供達が描いたであろう賑やかな旗が出迎えてくれます。

順路的には少し進まないとバショウカジキには会えないのですが今回はもう先にバショウカジキのことを載せてしまいましょう。

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マイワシがほとんど隙間なく群れを成しているここは黒潮水槽の水面近くです。この大群の向こうに……、

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バショウカジキです!

このバショウカジキはごく若くて小柄で、展示開始後の事故により上顎は途中で折れてしまっています。しかし実際に見てみて初めて、バショウカジキの体を構成する面が見え、体を波打たせて進む様子が見え、深みを泳ぐキハダマグロやカツオの仲間と比べてずいぶんふわふわと静かなことを知ることができました。

それだけだと頼りない存在のようですが、決してそうだとばかりは言えないことも知れました。

「おっ、イワシ食った!」親子連れの父親が声を上げました。目を凝らすと、狩りはすでに終わって口を二度三度と激しく閉じるところが見えました。

写真に収められなかったのが惜しいですが、バショウカジキは自発的に狩りをしてイワシを食べようと行動しているのです。

希少な魚が水族館にやってきても弱々しく浮かんでいるだけということはよくあります。このバショウカジキはそんなものでは全くなく、自分の判断と行動をして暮らそうとしているのです。

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黒潮側と親潮側を分ける三角トンネルからの写真です。一度だけ少し降りて見やすい位置に現れました。

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下からは撮影しづらいですが、イワシに隠れることはないので観察はしやすいです。高い背鰭を広げているところも見られました。

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この水槽でも特に印象的なカラスエイと並んでいるところです。「AMFの黒潮水槽にバショウカジキがいる」ということを実感させてくれます。

私の写真の腕と忍耐ではこの程度の写真しか撮れないのですが、ともかくこのバショウカジキのふわふわとしつつも生きて行動しているところがしっかりと見られました。いつも激しく泳ぎ回っているキハダマグロとの対比にもなり、カジキのイメージが変わる体験でした。

AMFは最初から最後まで見どころだらけなので、久しぶりに訪れた私にとってはバショウカジキにだけ時間を費やすということはとてもできませんでした。ひととおりご紹介したいと思います。

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入ってすぐこのように緑いっぱいのエリアが広がり、タヌキやアナグマが元気に駆ける姿を見ることになります。これは「縄文の森」エリアです。こうした小動物の展示は水族館の枠を越えているどころか、動物園でもなかなか見られないほど活き活きとしてコンセプチュアルです。

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それはこの、本館の直前にあるユーラシアカワウソの施設で最大限に発揮されます。絶滅したニホンカワウソにごく近縁なユーラシアカワウソが群れ遊ぶ姿に、ある種の理想が表現されています。

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おや、1つ前の記事のトップバッターが。本館の始まりは海の生き物の進化に関する展示です。たくさんの化石が発掘されているいわきの水族館なだけに、化石や進化に関する展示を綿密に行っています。

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現生の古いタイプの魚類(写真はスポッテッドラットフィッシュ)、魚類だけでなく様々な化石、さらにはここで熱心に研究を行っているシーラカンス2種の標本と、濃密な内容がコンパクトにまとまっています。

以前来たときはとても雰囲気のあるシーラカンスコーナーがあったのですがそれがここにまとめられたということで少し不安だったのですが、とてもまとまりのよい展示になってかえってありがたかったです。

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ちょっとマニアックな話を。ここのリニューアルで一番嬉しかったのがナメクジウオ(魚類の祖先のヒントになるとされる生き物)の水槽が立派になったことでした。何しろ以前は簡単なシャーレで……なんかしらんおっさんに動かないと言われて指でシャーレをつつかれたりしていたもので。なにすんだおっさん。未だにこうして書かれてるぞおっさん。

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エスカレーターを上がると地底の化石の世界から福島の山の上です。館内にも緑があふれているのがAMFの最も目立つ特徴です。

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もちろん渓流や池の魚達が緑の合間に仕込まれた水槽で暮らしています。

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そうして上流から下流まで下っていくと最初のほうでマイワシに出会ったとおり、海の水面近くに出るというわけです。これは親潮水槽のギンザケ。鮭には毎日のようにお世話になっております。ありがたや。

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続いて海獣・海鳥ゾーンなのですがここは私の好みでトドを。顔ばかり見ているとただ可愛いかもしれませんが、この暗く深い……ように見える水槽に野生の彼らの暮らしが垣間見える気がするのです。

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いきなり何かというと博物館風のゾーンの展示です。よく見るとなにもアジだけが海の恵みというわけではないみたいですね。そもそも塩分高そうですし。

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いわき近辺の化石の展示です。たっぷり語りたいところですがきりがなくなるので、残念ながら今回はこれで。

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ウナギをはじめとする漁業資源の保全を訴えるエリアで務めている若いニホンウナギです。かわいいですね。失いたくないですね。

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再びやってきましたのは熱帯雨林やマングローブのエリアです。

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ここを最も見応えがあると評する人もいるくらい作り込まれたエリアです。マングローブの木が種から育ったりもしています。

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マングローブからさらに珊瑚礁を通じまして……、

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水族館に、寿司屋!?

これは潮目の大水槽を見つめながら、資源として健全な魚種の寿司をいただくことで持続的な魚の利用を考える食育コーナーなのです。

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寿司とはこのくらい特別な体験であっていいくらい贅沢なものであるべきなのでしょうねえ……。あ、もちろんとても美味しいのです。

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寿司屋のあるフロアから潮目の大水槽のすぐそばまで降りる間にある「アイボックス」は、見づらくて上等と言わんばかりの怒涛の深海生物・北国の生き物ラッシュです。ものすごく珍しいものも潜んでいて、一つずつ覗き込まずにいられなくなります。

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黒潮水槽のほうがダイナミックで目立つのですが親潮水槽もきちんと見ておきましょう。ホヤや海藻の合間、あるいは水底の砂で魚達が何かしているのが見られるかもしれません。

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暗がりでせわしなく身をくねらせているのは、なんと若いサンマです。意外にも展示しているのはAMFだけなのです。誰もが食べたことがある魚ですが、ここで初めて生きて泳ぐ姿を見ることになります。

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あまりに大きいので千円札と並べてしまったミズダコです。

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採ってきた魚を並べるだけでなく卵から育てる取り組みも行っている、という特別展示で、サンマの仔稚魚を見ることができました。消しゴムのカスみたいなひよひよがそれです。お世辞にも丈夫そうに見えないこんな魚を育て上げる技術に感服です。

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キッズコーナーでは様々な特徴ある生き物が色々な角度から見られます。これはピラニアの生息地を再現するため少し濁らせてある水槽。

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この真っ白いイモリはなんだか分かりますか?ウーパールーパー(メキシコサラマンダー)をある一定の条件に置き、他の両生類でいう大人に当たる姿に変化させたものです。

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以前ユーラシアカワウソがいたところにはウミウがいました。そういえば最寄り駅にウミウの銅像が建てられるくらい、重要なウミウの繁殖地があるのでした。

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以前別の建物にいたフェネックもキッズコーナーに来ていました。動物園でもなかなかという充実した施設になっています。

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浜辺や小川の生き物が見られる巨大ビオトープもここの特徴なのですが、今回は雨なのもあってさらっと散歩するにとどまりました。

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展望台から見下ろすと、敷地内をカモメが何食わぬ顔で飛んでいました。AMFで表現されている大自然の世界は間違いなく外とつながっているのです。

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最後の展示は金魚館です。地域で親しまれている金魚達の可憐な姿を純粋に楽しんで、人間の世界に帰るとしましょう。

4年ぶりに訪れたAMFはやはり日本最高の水族館のひとつでした。ちょっと無理してでも訪れるきっかけをくれたバショウカジキに、また元気で出会いたいものです。

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