見出し画像

ふじのくに地球環境史ミュージアムですよ

先月、6月23~24日に静岡大学で開かれた日本古生物学会例会の2~3日目の講演を聞いてきたんですが、3日目である24日は午前中までなので、午後に静岡大学の近くにある「ふじのくに地球環境史ミュージアム」を見学してきました。

常から「地域が何もない田舎などと呼ばれてそこにしかないものが失われるのに対抗するには、地域のものを推す博物館が必要だ」と思っているのですが、ふじのくにはそのお手本になるべき博物館だと考えます。

静岡のもの、特に静岡の自然と静岡の人々の関わりを堂々と自信を持って良いものとして展示し、またリーズナブルかつ説得力があり美しい展示を行っているためです。地元のものを、贅沢をすることなくこれだけかっこよく見せられるのであれば、地域の自然にとって頼もしい存在となるでしょう。

静岡大学からはしばらく歩きますが、まあ静岡駅からバスで行くのがよいでしょう。

野山の緑に囲まれた建物は高校の校舎だったものを流用したものです。こじんまりとしていて教室の並ぶ数がさほど多くないためか、いかにも校舎~という姿には見えません。

登校、いや入館してみると……いややっぱり登校でよかったようです。この机と椅子が、博物館を「観光」として「鑑賞」するのではなく、素直に学ぶという姿勢を喚起させます。正面に映るのはそもそも環境考古学とは何でありどのように役立てていくのかということを表現したアニメーションです。

書かれていくべき教科書。

左右には環境考古学を象徴する標本が並びます。

授業を受けてみましょう。

自然の二面性、災害と恵みを紹介する教室です。特に富士山の噴火の危険と環境の利用が語られます。ところで「ちびまる子ちゃん」の初期を代表する洪水の回って1974年の「七夕洪水」が基になっているんですね。

廊下には地球史を辿っていく小さな標本たちが掲示されています。

海洋生物の教室です。標本棚が机で出来ているのが分かるでしょうか。校舎であったこの建物でたくさん手に入った机を有効活用して、わざと本来でない置き方をすることで異質感を出しています。また引き続き学ぶ姿勢を後押しします。

そしてお気付きでしょうか、この教室では全体の上下が青と白に塗り分けられ、青い部分の高さにのみ海洋生物の標本があるのです。まるで自分も海水に浸かって海で生き物を見ているかのようです。

陸のごく近くとは思えないほどの深海を含みつつ、そのおかげでもある恵みをもたらしてくれるのが駿河湾です。

廊下にあるオンデンザメのコーナーです。まさに駿河湾の主ですね。それにしても鰭の小さいサメです。

これは陸の生き物の教室ですが、この林っぽさにご注意ください。

ちょっと棚のデザインを工夫しただけなのにまるで木々が立ち並んでいるかのようです。こうしたちょっとしたデザイン上の工夫があちこちにあります。

中央のテーブルに表されているのは田んぼをはじめとした環境の食物網です。辿っていくのが楽しくなる展示ですが、

特に目を見張るのはイネまわりのこれです。

そう、ヒトも水田という環境における消費者なのです。このときこのラベルが示しているヒトとは、このご飯に対峙する私自身なのです。環境におけるヒトとはどんな動物であるか端的に示した、非常にスマートでユーモアに富んだ「ヒトの展示」です。

これは日本列島にヒトが現れてからの森と町のバランスを表した教室です。見るからに非常にダイレクトなメッセージを発していますね。

いくつかの教室は展示室ともバックヤードとも言い切れない「ミドルヤード」と位置付けられ、展示が生まれるところを示しています。ここはアンモナイトをはじめとした化石に関するミドルヤードなので、化石をクリーニングする作業場などもあります。

案外詳細なうえに、とぼけたような味わいの模型などもあるのです。

昆虫に関するミドルヤードではやはり標本作成の様子が見られます。

ここでは机の上に横たわった静岡県の地質を観察できます。

静岡の各地域に歩いていって地質標本を観察するという動きができます。

トラとナウマンゾウの化石も。

その教室の隣にもナウマンゾウの頭骨があるんですが、

バックショット珍しくないですか。

静岡の色々な生き物達の教室です。目立つ動物だけでなく植物や菌類も網羅していますよ。

はい、モロに教室ですね。

座席表もあるからあからさまに教室ですね。

……

が、がっこうぐらし!ワタシターチハココニイマスー

というわけで骨格の皆さんがお行儀よく机についている教室です。教室であり机と椅子がたくさんあるということを非常にシンプルに活かしていますね。席順はヒトと近縁かどうかで決まっているようです。

しかも標本自体が非常に良いものです。アンコウにも釣り竿がしっかり残っていますよ。

ミミズハゼの分類が非常に進んだことにちなむ特別展示です。ミミズハゼは磯のちょっとした隙間を利用して小柄な捕食者としてとても多様化しているようです。

伊豆半島に着目した特別展です。伊豆半島はインド亜大陸のように独立した島が北上して本州にぶつかることで半島になった地域なので地質や生物相がとても独特なようです。

海藻の種類がとても豊富とのこと。そういえば下田海中水族館でもこのアカモクがあえて大水槽に繁茂したままになっていました。

これは伊豆半島に「いない」チョウです。独立した島だったからこそですね。

伊豆半島唯一のサンショウウオ、ハコネサンショウウオです。これも独立した島だったので種類が限られるんですね。

ワサビの特別展もありました。確かに静岡といえばお茶だけでなくワサビもありますね。栽培には地の利だけではなく工夫も必要だったようです。

高校だった頃をとどめた展示もあります。

アウストラロピテクスのルーシーさんです。胸骨などの補われた部分が真鍮なのが印象的です。

未来は僕らの手の中。

ふと中庭を見ると、私の一番好きなトンボ、オオシオカラトンボが池で産卵していました。黄色いメスが水面を腹の先で叩き、青いオスが周りを警戒しています。

時間がもっとあったら図書がたくさんそろったカフェなども楽しめたので、またゆっくり見にきたいところです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?