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LIBRARIAN|川野芽生の小部屋

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モーヴ・アブサン・ブック・クラブの司書、川野芽生の小部屋。小説家・歌人・文学研究者。
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記事一覧

LEO & MEGUMI|詩と短篇小説のZine『黎明通信』

 こんにちは。歌人・小説家の川野芽生です。  詩人・翻訳者の高田怜央さんと一緒にZineを作成しました。  造本・デザインは霧とリボンさんにお願いした、トリプルコラボ本です。  内容は詩と短篇小説(怜央さんとわたし、おのおの詩5篇、小説1篇)。  怜央さんが小説を発表するのははじめて。  わたしが詩をまとまったかたちで発表するのははじめてです。 発端 発端はおそらく約一年前、怜央さんの詩集『SAPERE ROMANTIKA』の刊行記念の高田怜央×永井玲衣トークイベント(代

MEGUMI|ご挨拶—幻想と言語—

 モーヴ街3番地、MAUVE ABSINTHE BOOK CLUBの司書として新たに就任しました、川野芽生と申します。司書とは申せ、一歩踏み入れば迷宮のごときこの菫色の庭をご案内することはわたしの手に余ります。いえ、モーヴ街を探検し尽くした者などいまだかつていないに相違ありません。  わたしがどういう者かというと、歌人・作家・文学研究者といったところでしょうか。ものごころついた頃から物語を書き始め、その後短歌を作るようになり、その間様々な文学形式に寄り道しながら今に至ります

Belle des Poupee|永遠になくならないデザートを

 「妖精にお願いするものは決めた?」  「食べたらお菓子がなくなってしまうのが悲しくて泣いたことはなかった? あたしは泣いたわ。あんなにきれいで、かわいらしくて、胸踊るようなものが、口に入れるとほろほろと溶けて甘い思い出に変わってしまう、その悲しみを言葉にできなくて。  だからね、あたしは、永遠になくならないデザートをくださいってお願いするつもり」  「たとえば、どんな?」  「たとえば、そうね。凝ったお菓子もいいけれど。  毎年春になるのを待ちわびて、あたしたちはこの森

Miss Moppet Dolls|パティスリーの天使たち

 内緒の話をしてあげる。  あのお菓子屋さん、菫色の壁紙の、かわいいパティスリー、あそこにはお菓子の天使が住んでいるの。  昼間はお人形のふりをしているけれど、こっそり目配せしあっているのを見たわ。  ほら、お店のテーブルの上にお行儀よく座っているお人形、覚えているでしょう?  片方は、きっとショートケーキの天使ね。  だって、ショートケーキがドレスを着ていたらこんなだろうって、想像していた通りだもの。  ふんわりした生地のスカートに、銀のアラザンみたいなビーズをちりば