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LIBRARIAN|維月 楓の小部屋

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モーヴ・アブサン・ブック・クラブの司書、維月楓の小部屋。詩人・研究者・翻訳家。古今東西の女性/クィア詩人の作品を読み解くことを通して、新たな生の軌跡に敬愛を捧げている。
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#絵画

くるはらきみ|くすしき花の香り

 聖書の伝統を踏襲しながら新たな解釈をもたらす、くるはらきみさまの宗教画。本イベントでは、降臨節を祝うにふさわしい二作が届きました。  くるはらさまの作品に特徴的な、まあるい瞳。聖母マリアの半ば閉じられた目は、生まれたばかりの幼子であり、神秘的な花のように神の言葉を身にまとうイエスを見つめます。  エサイの根より生いいでたる救い主。背景の絡まりあう蔦は、純なる出自とともに繁栄を暗示する。天使が慎ましく祝福に訪れ、白く可憐な花を差し出します。花はかぐわしい香りを放ち、世に遍

二人展《空はシトリン》|影山多栄子&永井健一|青い明滅――人も山猫もこっぱのこも

 宮沢賢治が生前唯一出版した詩集『春と修羅』の序詩として、賢治の詩観のみならず宇宙観をも示した作品「序」が、遊び心の溢れる2作品として新たな灯をきらめかせます。  むっつりしたり、微笑んだり、重なったりと、楽し気に弾けている。黄水晶(シトリン)色の小さな人形たちが8体!   それぞれ見た目は違っても、「あらゆる透明な幽霊の複合体」として存在している。現次元も別次元の世界も行き来できる不思議な力を秘めていそうな「こっぱのこ」たちは、「現象」として捉えられる「わたし」を具現化

二人展《空はシトリン》|永井健一&影山多栄子|夜汽車の希求

 「青森挽歌」の対照的な2つの声、亡妹トシへの願いと遺された者の哀嘆が、永井さまの2作に響き渡ります。影山さまの人形1点は、私たちをトシの無邪気な面影へと誘います。  夜の静けさが、遠くから聞こえるさまざまな声を総動員して、心にのしかかってくる。風景がびゅんびゅんと通りすぎる汽車の中、トシの姿が詩人の頭の中に往来する。  水族館のように光る窓は、焦点を集めるように降り注ぐ光として描かれている。苹果の香気が漂うガラスに閉じ込められているのは「わたし」。  たおやかな花咲く

二人展《空はシトリン》|永井健一|光彩を纏う空

 淡い色合いを用い、風景にきらめく生命の瞬きを描く永井健一さまの作品が、宮沢賢治の詩群と溶け合います。  最初の作品は、企画展のタイトルともなった「空はシトリン」が含まれた詩に捧げる一作。何度も口ずさみたくなるような繰り返しによるリズムが楽しくもせつないこの詩を、絵画の中の幾層もの重なりが連想させます。  シトリンが降り注ぐ空。地平線が幾重にも交わり、すれ違い、繰り返していく。動物、人間、植物がそれぞれ運命に揺れながら生きる。それぞれ異なる地平を生きながらも、安らぎに満ち

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|かぐわしき草原の奇跡 

 植物学の祖ともいわれるヒルデガルトは、修道院の庭でどのように植物と対峙していたのでしょうか。今回は、自然の息吹を感じる土地で季節の花を愛でる、くるはらきみさまの暖かい眼差しを感じる3作をご紹介いたします。  集まった信者たちに炎の舌が降り、異国の言葉を話し始めたと伝えられるペンテコステ(聖霊降臨)。本作品では、炎に代わり色とりどりの花が降り注ぎます。  復活祭から50日、全ての生命を持ったものが目覚める季節。香気に満ちた大気のうねりを感じる淡い緑色のグラデーションが、天と

ヒルデガルトの小径|金田アツ子|花と十字架の祈り

 今回ご紹介する金田アツ子さまの絵画作品には、ヒルデガルト・フォン・ビンゲンにゆかりのハーブが描かれています。目に美しいだけでなく、自然療法に利用される効能を持つ、植物の新たな魅力を伝える作品をお楽しみください。  ひとつ目の作品は、少女時代のヒルデガルトを描いた人物像です。  8歳で修道院に入り、16歳で永久誓願のヴェールを受け修道女となったヒルデガルト。幻視を見ながらも、世には語らなかった少女時代。顔の回りに優しく垂れるヴェールが、内に潜む情熱を柔らかく守るよう。

ヒルデガルトの小径|こうのかなえ|花園の秘密は少女の手の中に

 霧とリボン企画に初参加となる、こうのかなえ様の作品は、鮮やかな植物と幾層にも重なる暗色の背景が織りなす作品世界から物語が溢れ出てくるようです。  少女時代から幻視が視え、8歳で修道院に入ることを決意したヒルデガルドが後世に遺した薬草学の知恵と、その秘密を受け継ぐ少女たちを繋ぐような作品をどうぞご堪能ください。  一人花束を手にたたずむ少女。その周りを可憐なヒナゲシが囲み、純粋さを表すスズランがひっそりと揺れている。庭の影は、少女時代の絡まりあった感情の目覚めを思い出させ

スクリプトリウムvol.3|永井健一《2》|詩作するオーランドー

Text霧とリボン  秋風がカーテンを揺らし、スクリプトリウムにひらかれた一冊の書物のページの上を過ぎりました。  月桂樹、楢の木、サンザシ、シダ——夏の追憶と共に、ページから、様々な植物の青々しい香りが漂ってきます。  ひとりの少年が詩作する風景を、ひとりの画家が描きました。  本ドローイング・シリーズの題材は、ヴァージニア・ウルフの小説『オーランドー』。  本展にてローンチする霧とリボンのポプリブランドとのコラボで発表する、オリジナルのトワル・ド・ジュイのため

Du Vert au Violet|架空のアブサン酒〜Paper Sachetシリーズ《植物画ラベル》

TextKIRI to RIBBON  「架空のアブサン酒」とは、リキュールに様々な薬草が調合されているように、「文学・アート・モードを調合したコンセプト作品」のこと。本イベントでは昨日までにと《小壜シリーズ》をご紹介してきました。 上写真架空のアブサン酒 上写真架空のアブサン酒 *  本日ご紹介するのは、画家・金田アツ子さまの香り高い植物画がラベルとカードに配された《架空のアブサン酒〜Paper Sachetシリーズ》全2種。オリジナルのペーパーサシェにポプリが封

温室の別扉《2》|新訳付作品集『Emily’s Herbarium』

 温室の馨しい風景を植物標本のように綴じた箱入アートブック、新訳付作品集『Emily’s Herbarium』を限定刊行いたします。  ウィリアム・モリスのケルムスコット・プレスに憧れて、1999年プライベート・プレス「Club Noohl」を設立、これまで限定版アートブックや蔵書票を制作発表してきました。今回は2018年以来、久しぶりの刊行となります。    アンティークの植物標本をイメージして、全ページ手切り紙を使用。別刷り作品ページは押し花をするように一枚一枚手貼りし

金田アツ子&Belle des Poupee二人展|DAY 1

 本日、画家・金田アツ子さまとアクセサリーブランドBelle des Poupee様の二人展《エミリー・ディキンソンの温室》が開幕しました。  秋の一日、温室を訪れて下さいました皆様に、心より深くお礼申し上げます。  19世紀アメリカに生きた詩人エミリー・ディキンソンと、現代日本に生きる画家、アクセサリー作家、翻訳家が出会う本展。温室には、四人の女性たちが育てた花々がひそやかに咲き乱れています。皆様、お楽しみ頂けましたでしょうか。  同時刊行の新訳付作品集『Emily

金田アツ子&Belle des Poupee二人展|温室の風景|DAY 1

 19世紀アメリカ——ひとりの女性が大切に花々を育て、サンクチュアリとして慈しんだ温室。そこからひそやかに花ひらいた、朝露のごとき詩篇の数々。  紙片に遺された一篇一篇に、画家・金田アツ子さまとアクセサリーブランドBelle des Poupee様が出会い、それぞれの花を育て、新しい温室が生まれました。詩人との馨しい対話の軌跡をここにお届けいたします。  エミリー・ディキンソンの温室へ、ようこそ—— * * * * * 作家名金田アツ子 作品名|花が咲く 油彩・シ