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LIBRARIAN|維月 楓の小部屋

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モーヴ・アブサン・ブック・クラブの司書、維月楓の小部屋。詩人・研究者・翻訳家。古今東西の女性/クィア詩人の作品を読み解くことを通して、新たな生の軌跡に敬愛を捧げている。
運営しているクリエイター

#エミリー・ディキンソン

レース模様の図書室、再訪|維月 楓&霧とリボン|架空のアブサン酒《F203》

TextKIRI to RIBBON  菫色の図書室への再訪も今日が最後——もうすぐ閉じられる扉を想いながら、新緑の中を歩いてゆきます。  どこからともなく、花々の香りが漂ってきました。香りは風に乗って消えてはまた現れ、図書室への道を一緒に楽しんでいるかのよう。  厳かな気持ちで扉を開け、入室します。花々の香りはいったん古い書物の匂いの中に消えてゆきましたが、ある書架の前で、ふたたびその香気を濃く深くするのでした。 * * *   アメリカの詩人の詩集が並んだ書

佐分利史子|ライラックの海のうえ[1368]

TextKIRI to RIBBON  英仏文学を題材としたカリグラフィ作品を発表する7番地・スクリプトリウム内。本イベント《モーヴ街のクリスマス》では2点の新作をお届け致します。  最初にご紹介するのは、アメリカの詩人エミリー・ディキンソン「ライラックの海の上[1368]」。モーヴ街図書館司書・維月 楓さまによるエミリーの息遣いに寄り添う翻訳と共にどうぞお楽しみ下さい。 *  印象的な初行「ライラックの海の上」が最初の大文字「O」に写され、聖夜を迎えようとする今

新訳付作品集『Emily’s Herbarium』のご紹介|クリスマスに寄せて

Text|Kaede Itsuki  一段と冬の寒さも深まり、クリスマスソングの聞こえる季節となりました。クリスマスといえば、愛情に満ちた人々が輪になって集まるような暖かい気持ちと、どこか心の芯に凍てつく孤独に気付かされるような少しの寂しさを感じます。年の瀬の高揚感と終焉への身に沁みる冷たさという両極端の気持ちがせめぎあう季節。19世紀に生きたエミリー・ディキンソンの詩のなかにも同じように二つの感情が揺らぎ、さまよい歩くような詩が多くあります。  今秋に開催された「金

温室の別扉《2》|新訳付作品集『Emily’s Herbarium』

 温室の馨しい風景を植物標本のように綴じた箱入アートブック、新訳付作品集『Emily’s Herbarium』を限定刊行いたします。  ウィリアム・モリスのケルムスコット・プレスに憧れて、1999年プライベート・プレス「Club Noohl」を設立、これまで限定版アートブックや蔵書票を制作発表してきました。今回は2018年以来、久しぶりの刊行となります。    アンティークの植物標本をイメージして、全ページ手切り紙を使用。別刷り作品ページは押し花をするように一枚一枚手貼りし

金田アツ子&Belle des Poupee二人展|DAY 1

 本日、画家・金田アツ子さまとアクセサリーブランドBelle des Poupee様の二人展《エミリー・ディキンソンの温室》が開幕しました。  秋の一日、温室を訪れて下さいました皆様に、心より深くお礼申し上げます。  19世紀アメリカに生きた詩人エミリー・ディキンソンと、現代日本に生きる画家、アクセサリー作家、翻訳家が出会う本展。温室には、四人の女性たちが育てた花々がひそやかに咲き乱れています。皆様、お楽しみ頂けましたでしょうか。  同時刊行の新訳付作品集『Emily

金田アツ子&Belle des Poupee二人展|温室の風景|DAY 1

 19世紀アメリカ——ひとりの女性が大切に花々を育て、サンクチュアリとして慈しんだ温室。そこからひそやかに花ひらいた、朝露のごとき詩篇の数々。  紙片に遺された一篇一篇に、画家・金田アツ子さまとアクセサリーブランドBelle des Poupee様が出会い、それぞれの花を育て、新しい温室が生まれました。詩人との馨しい対話の軌跡をここにお届けいたします。  エミリー・ディキンソンの温室へ、ようこそ—— * * * * * 作家名金田アツ子 作品名|花が咲く 油彩・シ

佐分利史子・カリグラフィ作品|気高きは、小さきもの、[55]

 ここはカリグラファ佐分利史子の写字室。主に英米文学とフランス文学を題材にして制作したカリグラフィ作品を展示する小部屋です。  モーヴ街3番地の図書館「モーヴ・アブサン・ブック・クラブ」とも連携し、ふたりの司書が題材となる文学作品の新訳と解説などを担当。文字で遺されてきた過去の文学に敬愛を込めて、カリグラフィと新訳で新しい息吹きを注いだ一篇をどうぞゆっくりご高覧下さい。 佐分利史子 Fumiko Saburi | カリグラファ →HP 伝統的なカリグラフィ文字を基調とした作

エミリー・ディキンソン|気高きは、小さきもの、[55]

TextKaede Itsuki Emily Dickinson エミリー・ディキンソン|詩 維月 楓|訳 By Chivalries as tiny, A Blossom, or a Book, The seeds of smiles are planted--- Which blossom in the dark. 気高きは、小さきもの、 一本の花、一冊の本も、 ほほえみの種は宿され――― 暗闇において花開く。 エミリー・ディキンソン| Emily Elizab

KAEDE|ご挨拶―敬愛するアメリカ詩人たち―

維月 楓 Kaede Itsuki|詩人・英米文学修士課程在籍・翻訳家 →Twitter 幼少期より言葉が織りなす世界に魅了され、詩作を行いながら、英米文学の研究を行う。古今東西の女性詩人の作品を読み解くことを通して、彼女たちの人生の軌跡に敬愛を捧げている。  オンライン上のモーヴ街3番地にて司書を務めさせていただきます維月 楓(いつき かえで)と申します。ここでは、優美なモーヴ、頽廃的なアブサンというテーマを軸にしながら、主に英米文学について詩の新訳、紹介、エッセイなどを