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LIBRARIAN|嶋田青磁の小部屋

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モーヴ・アブサン・ブック・クラブの司書、嶋田青磁の小部屋。詩人・フランス文学修士課程在籍。専門は19世紀フランス詩。学部在学中にピエール・ルイス『ビリティスの歌』に出会い、詩の魅… もっと読む
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記事一覧

ruff個展《菫色少年秘密倶楽部》|巻頭詩|嶋田青磁|菫色の領域

* * * * * * 作家名|ruff 作品名|菫色の少年たち インクジェットプリント・箔押し 作品サイズ|24cm×14cm 額込みサイズ|32.4cm×22.4cm 制作年|2022年(新作) * 作家名|ruff 作品名|花と占術 インクジェットプリント・箔押し 作品サイズ|24cm×14cm 額込みサイズ|32.4cm×22.4cm 制作年|2022年(新作) * 作家名|ruff 作品名|薬草室の秘密 インクジェットプリント・箔押し 作品サイズ|24

ruff個展《菫色少年秘密倶楽部》|薬草室の秘密

 箱庭、それは大人の手がけっしてとどくことのない秘密の場所。そこに棲まうのは、人形のように美しい少年たち。ruff氏の描く彼らは、みな菫色の憂いをヴェールのごとく纏っているように見える。彼らを結びつけているのは〈秘密〉。菫色少年秘密倶楽部 (Mauve Boys Secret Club)のメンバーは、学園という城の中で、彼らだけの聖域をつくりあげているのだ。  ところで、ご存知だろうか。わたしたちが花を見つめるとき、花もまたこちらを見つめているということを。花々は、箱庭に踏

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |嶋田青磁|ぼくらが羽ばたける場所はどこか?

Text嶋田青磁  ぼくらが羽ばたける場所、そこは天使たちの棲まう場所。  生も死も、男も女も、なにもかもが曖昧に揺らめく菫色の領域——  このたび、鳩山郁子先生のコミック『羽ばたき Ein Märchen』に捧げるエッセイ・詩の小品集を制作させていただくという大変に光栄な機会をいただきました。鳩山郁子先生の作品、とりわけ『羽ばたき』には、について読者に深く考えさせるようなきっかけが散りばめられています。  皆さんは、できることならずっと夢の世界に住みたい、と思った

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |永井健一|夢と現実のあわいにて

Text|嶋田青磁  どこからか羽音が聞こえる。遠くなったかと思えばまた近くなる。  これは夢——なのだろうか?  堀辰雄の小説を原作とするコミック、鳩山郁子『羽ばたき Ein märchen』に捧ぐ本展。永井健一氏による作品がやわらかな秋風とともに菫色の塔へと舞い降りました。その絵画世界は、わたしたちに夢の残り香を伝えながら、そっと語りかけてきます。  ジジの閉じた瞳の奥に広がるのは、どんな風景なのでしょうか。遠い少年少女時代に置いてきたはずの景色が、雲間からのぞ

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |鳩山郁子《2》|小さな夢の痕跡

Text|嶋田青磁  暗闇に浮かび上がるのは、小さな夢の痕跡。  少年はたしかにそこにゐて、夢を見ていたのです。  今秋の『羽ばたき Ein märchen』オマージュ展に際し、鳩山郁子氏による4点のイラスト作品が発表されます。菫色の小部屋には、まるでジジ扮する怪盗ジゴマが残していったかのような、アイテム(手がかり)の数々。不在の少年たち、その輪郭を、これらの”証拠品”を頼りに解き明かしたくなりませんか。  夢を駆け抜ける少年のポケットには、いつもさまざまな宝物が入

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |鳩山郁子《4》|純白の少女が見る夢は

Text|嶋田青磁  真っ白なレースとフリルをなびかせて、軽やかに街路をゆくのは  ひとりの少年によってつくられた架空の少女——  『羽ばたき Ein Märchen』において、怪盗の時間たる夜を生きることを余儀なくされたジジ。そんな彼が、明るい日の下で堂々と街をゆくために思いついたのが、少女装でした。怪盗ジゴマはなんにだってなれます。たとえかつての友だちでも、今しがたすれ違った涼やかな目元の少女がジジだとは気づきません。  今回、鳩山郁子先生が新たにイラスト化され

三人展《シェイクスピアの妹たちの部屋》|ティルーム|花モト・トモコ

 お茶をする時間、というのは特別なものだ。それがお気に入りのティセットや調度品に囲まれたわたしだけのティルームであればなおさら。まるでカフェ・ラテにのったミルクのように、日常からふわりと浮いたひとときである。  花モト・トモコ氏による優雅で可憐な作品は、午後のやさしい陽光に照らされたティータイムを思わせる。《Favorite Sweets》は、まるでパティスリーの華やかなショーケースを覗いているかのよう。色とりどりのスイーツをひとりじめするのももちろん素敵だけれど、なんだか

三人展《シェイクスピアの妹たちの部屋》|書斎|Miss Moppet Dolls

 書斎とは、わたしたちにとってどんな場所か。隠れ家、仕事部屋、あるいは読書室? なんにせよ、書斎という場所と〈孤独〉の間には決して解けないリボンの結び目が存在する。書物を愛するわたしたちが理想とする書斎、そこにあるべきものは、例えば重厚なヴィクトリアン・スタイルの書棚、カーテンの向こうから聞こえる風の音、書き心地のよい筆記具——など、挙げはじめたらきりがない。  でもきっと、いちばん必要なのは、静けさだ。室内に漂う菫色の憂いと、思考をやさしくかき混ぜる静けさ。ヴァージニア・

二人展《空はシトリン》|永井健一&影山多栄子|春から生まれしもの

 初夏は幻のように過ぎ去り——まるで生きとし生けるものすべてがじっとわたしたちを見つめているような暑さのなか、本展は幕を上げる。  この熱暑はまぎれもなく、今は遠き〈春〉が産み落としたものである。春は、冬の間ねむっていた生命がいちどきに噴出する季節であって、そこで生まれた命は一直線に、だが静かに夏へと向かってゆく。  本展メインヴィジュアルのひとつ《私の知らない林》に描かれている、煙る記憶のなかに通り過ぎる子どもたち。その幻想は、汽車の窓から眺める景色のように、あっという

二人展《空はシトリン》|影山多栄子|白く、やさしい幻想

 日常を生きていて、ふと「ここにはいない誰かさん」を思うことがある。  その「誰かさん」がほんとうに存在するのか、何者なのか——そういった問いはたぶん、あまり意味がない。でも、小さいとき「誰かさん」はいつも側にいて、もっと身近に実感していた気がする。  宮沢賢治『小岩井農場 パート9』は、こうした精神世界の友だちを唄った詩ではないかとわたしは思う。  影山多栄子氏はこの詩に現れる「ともだち」ユリアとペムペルを、人形作品としてみごとに表現されている。初夏に差し掛かる頃に降る

嶋田青磁|ある聖域について

*  わたしが初めて「霧とリボン」の店舗を訪れたのは、もう5年前になるだろうか。美しいものについて語ることすらできない環境、どうしようもない孤独の中、すがるような気持ちで硝子戸をくぐったのを今でも覚えている。  あれから、ウイルスの流行を経て、街中にある「実店舗」の多くが様変わりしてしまった。今まで当たり前のように立ち寄っていた書店、カフェ、服屋が、いつの間にか空きテナントあるいは見知らぬ店に入れ替わっていた。特にフランス語書籍専門の欧明社撤退などは、大ショックであった。

monomerone|聖夜にまたたく真珠の星

Text嶋田青磁  まるで夢見るように閉じられた天使の瞳。  まっしろな翼は、道しるべとなる祝福星をそっといだいています。  モーヴ街のクリスマスに、monomeroneさまによるスペシャルなペンダントブローチが、初雪のように舞い降りました。聖なる日の到来を、そのやさしいベルの音で知らせながら。  作家さま自身によって撮影された作品写真は、まるで異国のアンティークショップの品物の陳列棚に、小さな天使がペンダントをそっと紛れ込ませたかのよう。身につければ、いつかの、誰かの

Belle des Poupee|菫の香る花園にて

Text|嶋田青磁  シックな菫色に、繊細なレースとフリル。あしらわれたヴィオレの花。  甘やかな少女の夢をそのままフィギュール——かたどったかのようなボンネットが、モーヴ街のクリスマスにあわせてBelle des Poupeeさまよりお披露目されました。  作家さまご自身による麗しい作品写真からは、パウダリーな菫の香りが漂い出でてくるかのようです。少女はそんな菫香る花園で、ボンネットのかげから花々を愛で、きっと永遠なる美しい夢を見るのでしょう……  わたしたちは作品から

Under the rose個展|薔薇の花影でワルツを

 あたたかな光に包まれた薔薇のつぼみが、次々にほころび始める季節。  花影に耳を澄ますと、小さなワルツの調べが聴こえてくる……  アクセサリーブランド・Under the rose様の新作が、このたびオンライン個展《Hidden Garden Waltz》にて発表されます。  そして、本展はUnder the rose様の記念すべき初個展。ここヴィヴィアンズ百貨店において、作品と皆さまを繋ぐ「リボン」として、わたくし青磁にによる案内が、少しでもお役に立ちましたら光栄です。