ヘドウィグアンドアングリーインチの舞台レポと考察もどき

このレポはネタバレしかしません!







まさか今生で丸山さんのドラァグ姿が拝めるなんて、夢にも思わなかった。彼はしっかりと成人男性の骨格で、お顔立ちもどちらかと言えば雄々しいのに、メイクとウィッグを被った姿は紛れもなくヘドウィグだった。

少し話が脱線するけれど、彼の演技は憑依というより自分の中から役の要素を引っ張り出して、混ざり合いながらその役を構築していく印象がある。だから今回のヘドウィグもアドリブの突拍子もなさとか、笑い方とかで丸山隆平を感じてしまった。

まずはヘドウィグのキュートさから話していきたい。可愛いじゃなくてキュート。それが彼女に抱いた印象。ステージ用メイクで際立つ瞳は、後ろの席からでもその輝きがわかったし、本当に白目が綺麗な人だと改めて実感した。なんで青いラメなのか不思議だったけど、トミーの瞳の中にあった悲しみの青とリンクしているのかもしれない。ライブの表情や仕草、冒頭いきなりの下ネタも生々しいというよりかは、思わず笑ってしまう滑稽さに満ちていた。あとこれはこういう役なんだから当たり前だろと言われてしまうかもしれないけれど、飲み物やマイクに綺麗に添えられた指には見惚れてしまった。ステージの上でのお着替えも様になっていた。あと走り方!トミーのライブに怒って扉を閉めるために走っていたけど、あの時は怒っているのに少女みたいに可憐だった。はっきりとした年齢は言わなかったけれど、おそらく彼女は30代なのだろう。女盛りではあるけれど、依然として見つからないカタワレへの焦燥、奔放なようで繊細な彼女はご機嫌かと思えばちょっとしたことで怒りを爆発させる。細身に見える彼が場面によっては筋肉が隆々としていたり、少女みたいなか弱さを発していたのも素晴らしかった。(この演じ分けにはエネルギー使いそうだなと思いながら見ていた)

「笑うのは、笑わないと泣いちゃうから」このセリフも自嘲気味ではなく、言い聞かせるように放っていたのが記憶に残っている。笑いと悲しみ、相反する感情を演じさせるとこんなに映える人はなかなかいない。

歌も素晴らしかった。元々美声で有名な彼だけど、近年ますます歌に磨きがかかっている。特に今回は低音の太さ、力強さが顕著で、イツハクのハイトーンと美しいハーモニーを奏でていた。演技中はいつもより高い声で、歌も低音だけでなく、甘ったるい声のものもあったりしたのに、難なくこなす丸山さん……。「Wicked Little Town」はヘドウィグとトミーで歌い方変えていたんだろうか。そこをチェックする余裕がなかったのが悔やまれる。


さて、ここからはトンデモ考察である。ただの一オタクが感じて、書き連ねていくのでもの好きな方はどうぞ。


私の結論は「ヘドウィグはトミーの中にいたのでは?」である。カタワレ云々全ての前提をぶち壊しているのは重々承知している。でも私は観劇後そうとしか思えなかったのだ。

1.舞台のセット

「HEDWIG`S BLAIN INSIDE」と書かれた板。直訳すればヘドウィグの頭の中。あのステージ自体トミーの中にいるヘドウィグの住処なのではないだろうか。ただの飾りと言われればそうなんだけども…にしては下手側の板には「FRANGLE」壊れやすい、もろいを意味する単語が書かれているのが引っかかる。スターとして脚光を浴びるトミーの誰にも明かせない弱さが具現化したのが、あのステージなんじゃないだろうか。


2.ヘドウィグが全てを脱ぎ去り、トミー視点になるラスト

「Exquisite Corpse」自体和訳すると完全体である。タイトルだけ聞けばカタワレを見つけ、幸せになるような曲のように思えるのに、実際はヘドウィグの怒り、悲しみがノイズとなって爆発しているカオスな曲だ。全てを脱ぎ去ったヘドウィグの存在は何も触れぬまま、トミー視点へ変わる。「みんなが静かにしていたら彼女にも届くかもしれない」というセリフも、真横でライブをしているヘドウィグに向けたなら変なセリフだ。だって扉を開ければ、嫌でもトミーの声は流れ込んできたのに。そうして歌い終えた後、イツハクがウィッグをトミーにかぶせようとすると、彼はその手を制す。あの無言のやり取りの中で「もう僕にはいらないから」と微笑んでいるように感じられるのだ。


ヘドウィグがトミーの中にいたと仮定してしまうと、イツハクの存在は未来だったのかもしれない。空っぽのままスターになったトミーの中に生まれたヘドウィグ、イツハクたちが役目を終えるまでの物語的な…まあこの仮定自体カタワレの存在意義がなくなってしまうし、本当にただの一オタクの戯言だ。いろんな人のレポや考察や聞きたい。

最後に。ヘドウィグアンドアングリーインチというミュージカルはいい意味でラフで、初めて舞台を見る人に全力で勧めたい。このご時世でなければもっと客席いじりもあったのかな?きっとキャストによってもまた雰囲気が変わるのだろう。こんな素敵な作品に出会えて幸せだ。どうか最後まで幕が上がり、無事千秋楽を迎えられますように。

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