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映画『偶然と想像』を見て


誰にも言えなかったこと。
あの時こう言いたかったという経験。

それを偶然と想像で自分の外に出す。あるいは内に留める。

もしこれが現実だったら、それはかなり変だけど、でも理屈だけではどうにもいかない私たちのココロには、そういったヘンテコな体験が本当は必要だったのだ、ということ。でも実際のところ現実にはないよね、で終わりがちなこと。もしあったら見てみたいけど、みたいなこと。

それらをフィクションの世界で本当に描いてくれた、夢なのか現実なのか偶然なのか想像なのか、まさに「驚きと戸惑いの映画体験」で、ドキドキして、脳みそも心もつかってすごく面白い時間でした。


ちょっと何言ってるかわからないって方は、下で詳しく書いていますので、このまま続けて読んでいただけるとあ、この感じわかるかもってなるかもしれないのでぜひ^ ^

まずあらすじを説明します。この映画は、短編3話のオムニバス構成となっています。

第1話
「魔法(よりもっと不確か)」
撮影帰りのタクシーの中、モデルの芽衣子は、仲の良いヘアスタイルのつぐみから、彼女が最近会った気になる男性との惚気話を聞かされる。つぐみが先に下車したあと、ひとり車内に残った芽衣子が運転手に告げた行き先はー。
第2話
「扉は開けたままで」
作家で大学教授の瀬川は、出席日数の足りないゼミ生・佐々木の単位取得を認めず、佐々木の就職内定は取り消しに。逆恨みした彼は、同級生の奈緒に色仕掛けの共謀をもちかけ、瀬川にスキャンダルを起こさせようとする。
第3話
「もう一度」
高校の同窓会に参加するため仙台へやってきた夏子は、仙台駅のエスカレーターであやとすれ違う。お互いを見返し、あわてて駆け寄る夏子とあや。20年ぶりの再会に興奮を隠しきれず話し込むふたりの関係性に、やがて想像し得なかった変化が訪れる。
『偶然と想像』公式HPより
<https://guzen-sozo.incline.life>


ここでは、私が特に心に残った第2話を取り上げたいと思います。


第2話では、結婚し子どもを持ちながらも、セフレ(佐々木)との関係を持ち続けてしまう奈緒。佐々木から、大学教授・瀬川のスキャンダルを起こすための"色仕掛けの共謀"を持ちかけられた奈緒は、瀬川のゼミ室で扉を閉めて瀬川と2人きりになります。2人きりで話す中で、セフレとの関係をやめられないことを瀬川に告げた奈緒はこう言います。(セリフ、私が覚えている限りでここに書いているから、少し違うところがあると思う🥺)

「わたし、性欲が強いか、意志が弱いんです。」
それに対して、瀬川はこう答えました。
「あなたの意志は強いと思います。あなたは先ほど自分のことを『意志が弱い』と言いましたが、そう思うあなたこそ逆に意志が強いと思います。その意志をあなたが抱きしめてあげてください。そうやって守ってきた"人には言えないこと"がのちに誰かの励みになったりするんです。」


どういうことかというと、

これ言うと絶対人に嫌われるだろうなってこと。
自分おかしいなって思うこと。
欲張りだけど抑えられない欲望。
自分クズだなって思うこと。


そして周りも、意味わかんない、あいつクズだなって思って、それで危うく自分でも捨てたいと願ってしまうような感情。

みなさんは、こういう感情、心当たりありますか?

うーん、補足するなら、年越し前に偶然流れてきたツイートで、これ映画で見たような感情だなってものがありました。

「ときめく、ときめかない、で物を捨ててると、ときめいてないけど愛してる、ときめいているけどうすうすクズだと思っている、みたいな感情に直面しませんか?」
@W7u8NXx595mJBux  
柚木麻子さんのツイートより


普通持ったら非難されるであろう感情、だから心の中に隠してしまいがちな気持ちや欲望。でも決して捨てることは出来なくて、それを抱えている自分が嫌になる。そういう感情の流れに照明をあてて、それを持っていていい、抱えていていいと、掬い上げてくれるような物語でした。


瀬川との対話を受けて、奈緒がどんな行動をとるのか。気になった方はぜひ映画を見てみてください♪

私は、この映画をみて励まされました。

面白いのが、監督がこのフィクションのメッセージ(自分が守ってきた"人には言えないこと"が後に誰かの励みになる)を現実で体現してくれているというところです。監督自身が守ってきた感情を映画を通して外に出すことで誰かが励まされた。

2話だけでなく、1話も3話も、そういった自分の中で抑えていた感情(1話はまったく逆の流れかな?)を作品として繊細に昇華させていました。偶然と想像が人を救うあたたかい映画でした。



くぅぅーーっ映画って良いなぁ、、、!!!!とその喜びを噛み締めるとともに、こう感じるのも私の想像か?いやそもそもこの映画を見たのも偶然か?とか遡って疑い出したらもう訳わからなくなってきて、わからないんだけどその摩訶不思議な力に、まるでマジックを見ているときのような興奮を覚え、見事に濱口ワールドへと迷い込んでしまいました。迷うことすらも楽しいと思わせてくれるのだから、この作品が持つ力は本当に奇妙なものですね。


わたしはどちらかと言うと外に出せないタイプだから、映画みたいに、なにかの偶然がきっかけで上記のような心の外に出せない感情を誰かと共有できたら、あるいは時に芽衣子みたいに意識して留めるような経験ができたら、いろんな意味で面白いだろうなぁと想像してニヤけております。

心地よい緊張感とユーモアで背中を押してくれる、なんとも不思議な映画体験でした。

読んでくださって、ありがとうございました。

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