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かんたん日本仏教史

この記事は、2022年4月15日に『大阪歴史倶楽部』に投稿したものを少し編集してここに転載したものです。

九條です。

日本の伝統仏教(伝統的な仏教宗派)の歴史について、その主なものをごくごく簡単にカード型の箇条かじょう書きの形式でまとめてみました。歴史を学ばれる皆さまのお役にたてれば嬉しく思います。

それでは、古い時代から順に見て行きたいと思います。皆さまのおうちの宗派は、これからご紹介させていただく中にあるでしょうか?

※見出し画像は奈良・興福寺の中金堂ちゅうこんどう(奈良時代の手法で奈良時代の姿を復元して建築されました。2018年落成)


【奈良仏教】(飛鳥・白鳳・奈良時代)

特徴
奈良時代以前に日本に伝わりひろまった宗派で「南都六宗なんとろくしゅう」と言われている6つの宗派があります。その特徴は「学問仏教」と言われ、仏教と仏教に関連する様々な思想・哲学を研究・実践します。それと同時に、道路を整備したり、橋を架けたり、池を掘ったりという社会事業も民衆救済のためにおこなっていました。


三論宗さんろんしゅう

開祖
開祖は中国(隋代)の吉蔵きちぞう(称号:嘉祥大師かじょうだいし)とされています。

宗派名の由来
中論ちゅうろん』『十二門論じゅうにもんろん』『百論ひゃくろん』という3つの仏教の教えを宗派の根本にしているからです。

特色
飛鳥時代に最初に日本に伝わった宗派です。聖徳太子もこの三論宗の信仰をしていたと考えられています。現存しない宗派です。

おもな寺院
古代の四天王寺してんのうじ、古代の飛鳥寺あすかでら、古代の法隆寺ほうりゅうじなど

隆盛した時代
飛鳥あすか時代・白鳳はくほう時代

影響を与えた文化
飛鳥あすか文化


成実宗じょうじつしゅう

開祖
開祖は中国(後秦こうしん)時代の鳩摩羅什くまらじゅうとされています。鳩摩羅什は、たくさんの経典を古代インド語から古代中国語に翻訳したお坊さんです。

宗派名の由来
成実論じょうじつろん』という仏教の教えを宗派の根本にしているからです。

特色
日本では三論宗の付宗ふしゅう(三論宗とセットになっていた宗派)です。現存しない宗派です。


法相宗ほっそうしゅう

開祖
開祖は中国(隋代)の玄奘三蔵げんじょうさんぞう(通称:三蔵法師さんぞうほうし)とされています(『仏祖統紀』)。中国からインドへ経典を求めて旅をした時の紀行文である『大唐西域記だいとうさいいきき』をあらわしたお坊さんです。また架空の物語である孫悟空が登場する『西遊記』の三蔵法師のモデルとなったお坊さんでもあります。法相宗は現存する日本最古の仏教宗派です。

宗派名の由来
「相=この世のありとあらゆる物・心・現象」から「法=その存在が存在している根本的な原因と本質」を解き明かす事を重視し、これを研究・実践している宗派だからです。

特色
白鳳時代に日本に伝わった宗派です。その教えは「唯識教学ゆいしききょうがく」という、この世のあらゆる物・心・現象の存在意義や人の深層心理を解き明かすための複雑で精緻で哲学的な理論体系を持っています。このことから別名「唯識宗ゆいしきしゅう」とも言われます。

おもな寺院
興福寺こうふくじ(奈良市)、薬師寺やくしじ(奈良市)

隆盛した時代
白鳳はくほう時代・奈良時代

影響を与えた文化
白鳳はくほう文化・天平てんぴょう文化


倶舎宗くしゃしゅう

開祖
開祖は中国(南北朝時代)の真諦しんたいとされています。

宗派名の由来
倶舎論くしゃろん』という仏教の教えを宗派の根本にしているからです。

特色
日本では法相宗の付宗ふしゅう(法相宗とセットになっていた宗派)です。現存しない宗派です。


華厳宗けごんしゅう

開祖
開祖は中国(唐代)の杜順とじゅんとされています。

宗派名の由来
華厳経けごんぎょう』(正式名『大方広仏華厳経だいほうこうぶつけごんぎょう』)という仏教経典を宗派の根本にしているからです。

特色
奈良時代に日本に伝わった宗派です。その教えは、人の心と森羅万象の法則とを関連付ける哲学的で非常に美しくてダイナミックな理論の「華厳教学けごんきょうがく」を展開しています。奈良の大仏さん(東大寺)は、この華厳宗のお寺です。

おもな寺院
東大寺とうだいじ(奈良市)

隆盛した時代
奈良時代

影響を与えた文化
天平てんぴょう文化


律宗りっしゅう

開祖
開祖は中国(唐代)の道宣どうせんとされています。

宗派名の由来
仏教の戒律かいりつの研究と実践を宗派の根本にしているからです。

特色
仏教における(とくに僧侶が守らなければならない)決まり(戒律かいりつ)を研究・実践します。日本に伝えたのは奈良時代に中国(唐)から日本に渡ってきた鑑真和上がんじんわじょうです。

おもな寺院
唐招提寺とうしょうだいじ(奈良市)

隆盛した時代
奈良時代

影響を与えた文化
天平てんぴょう文化


【平安仏教】(平安時代)

特徴
平安仏教には「平安二宗へいあんにしゅう」と言われている2つの宗派(天台てんだい宗と真言しんごん宗)があります。加持祈祷かじきとうを行う密教みっきょうがその特徴で、皇族や貴族などの上流階級にひろまりました。またこれらとは別に平安時代の中頃には念仏(浄土教じょうどきょう)も始まりました。


天台宗てんだいしゅう

開祖
開祖は最澄さいちょう(称号:伝教大師でんぎょうだいし)です。

宗派名の由来
中国(隋)の高僧である智顗ちぎ(称号:天台大師てんだいだいし)が始めた宗派だからです。天台大師の名前の由来は、智顗ちぎ天台山てんだいさんに住んでいたからです。

特色
平安時代のはじめ頃に最澄が遣唐使けんとうしの一員として中国へ渡って学び、日本に持ち帰ってひろめた宗派です。顕教けんぎょう密教みっきょうの両方を実践します。

おもな寺院
比叡山延暦寺ひえいざんえんりゃくじ(滋賀県大津市)

隆盛した時代
平安時代


真言宗しんごんしゅう

開祖
開祖は空海くうかい(称号:弘法大師こうぼうだいし)です。

宗派名の由来
密教みっきょう真言陀羅尼しんごんだらにの教えを根本としている宗派だからです。

特色
平安時代のはじめ頃に空海が遣唐使けんとうしの一員として中国へ渡って学び、日本に持ち帰ってひろめた宗派です。密教みっきょうのみを実践します。

おもな寺院
高野山金剛峯寺こうやさんこんごうぶじ(和歌山県)、教王護国寺きょうおうごこくじ(東寺)(京都市)

隆盛した時代
平安時代


浄土教じょうどきょう

開祖
開祖は空也くうや(称号:空也聖くうやひじり)などとされています。

宗派名の由来
極楽浄土ごくらくじょうど往生おうじょうすることを目指す教えだからです。

特色
平安時代の中頃に日本ではじめて「南無阿弥陀仏」という念仏を称えた教えです。鎌倉時代の浄土宗じょうどしゅうと区別するために平安時代の念仏の教えは「浄土教じょうどきょう」と呼ばれています。

おもな寺院
六波羅蜜寺ろくはらみつじ(京都市)

隆盛した時代
平安時代


【鎌倉仏教】(平安時代末期〜鎌倉時代)

特徴
現在でも多くの人たちが信仰している「お念仏」「お題目」や「坐禅ざぜん」などを実践する宗派がおこりました。日本全国の社会の隅々すみずみにまで多くの人たちの間にひろまったので「民衆仏教」と言われています。


浄土宗じょうどしゅう

開祖
開祖は法然ほうねんです。

宗派名の由来
極楽浄土ごくらくじょうど往生おうじょうすることを目指す宗派だからです。

特色
「南無阿弥陀仏」の念仏を称えます。平安時代の空也の浄土教は、念仏の他にも奈良仏教的な要素や密教的な要素も含まれていたのですが、法然上人の教えはより純粋に念仏を称えることを重要視します。

おもな寺院
知恩院ちおんいん(京都市)

隆盛した時代
鎌倉時代~現代


浄土真宗じょうどしんしゅう

開祖
開祖は親鸞しんらんとされています。

宗派名の由来
法然上人が始めた浄土宗じょうどしゅうの教えをさらに深めた「真の浄土宗」という意味です。

特色
「南無阿弥陀仏」の念仏のみを称えます。法然上人の教えをより深めて、念仏のみをひたすら称えることを重要視します。

おもな寺院
東本願寺ひがしほんがんじ(京都市)、西本願寺にしほんがんじ(京都市)

隆盛した時代
鎌倉時代~現代


時宗じしゅう

開祖
開祖は一遍いっぺんです。

宗派名の由来
中国の浄土宗じょうどしゅうの開祖善導ぜんどうが、一定の時間ごとに交代して念仏を称える弟子たちを「時衆じしゅう」と呼んだことから、これにならったものです。日本で「時衆」が「時宗」に変わったのは江戸時代です。

特色
踊りながら念仏を称える宗派です。その念仏を「踊り念仏」と言い、盆踊りの起源となった宗派だと言われています。

おもな寺院
清浄光寺しょうじょうこうじ(神奈川県藤沢市)

隆盛した時代
鎌倉時代


日蓮宗にちれんしゅう

開祖
開祖は日蓮にちれんです。

宗派名の由来
日蓮にちれんが始めた宗派だからです。また日蓮宗の別名(もしくは別派)の「法華宗ほっけしゅう」は、『法華経ほけきょう』(正式名『妙法蓮華経みょうほうれんげきょう』)を教えの根本としているからです。

特色
「南無妙法蓮華経」の題目を唱えます。『法華経ほけきょう』(正式名称:『妙法蓮華経みょうほうれんげきょう』)の教えのみを学び実践し、他の宗教の教えは拒否する傾向にあります。

おもな寺院
身延山久遠時みのぶさんくおんじ(山梨県身延みのぶ町)

隆盛した時代
鎌倉時代~現代


臨済宗りんざいしゅう

開祖
開祖は栄西えいさい/ようさいです。

宗派名の由来
中国の臨済宗りんざいしゅうの開祖臨済義玄りんざいぎげんの名前によります。

特色
坐禅ざぜんをしながら師匠から出された仏教上の様々な問題(公案)の答えを考えることによって悟りの境地へ近づこうとする教えです。坐禅中に気持ちがゆるんできたら警策けいさく(臨済宗では「けいさく」と読みます)という細長い木の板で肩を3回叩いて集中力を維持します。

おもな寺院
建仁寺けんにじ(京都市)※正式な読み方は「けんにんじ」ではなくて「けんにじ」です。

隆盛した時代
鎌倉時代~現代


曹洞宗そうとうしゅう

開祖
開祖は道元どうげんです。

宗派名の由来
中国の曹洞宗そうとうしゅうの名前によります。中国における曹洞宗の名前の由来は、中国で禅の教えを大成した慧能えのう曹渓そうけいという所に住み、またこの慧能えのうの系譜に連なる弟子の良价りょうかい洞山とうざんという所に住んでいました。この曹渓そうけい洞山とうざんとを合わせて「曹洞宗そうとうしゅう」としました。

特色
何も考えずにひたすら坐禅ざぜんをすることによって悟りの境地へ近づこうとする教えです。坐禅中に気持ちがゆるんできたら警策きょうさく(曹洞宗では「きょうさく」と読みます)という細長い木の板で肩を1回だけ叩いて集中力を維持します。

おもな寺院
永平寺えいへいじ(福井県永平寺町)

隆盛した時代
鎌倉時代~現代


おわりに


どうでしょうか。皆さまのおうちの宗派は、この中にありましたでしょうか?

ちなみに、この記事を書いている私(九條正博)は、南都六宗のうちの法相宗(現存する日本最古の仏教宗派)の信者です。^_^


【おもな参考文献】
◎論集『日本仏教史』「(1)飛鳥時代」雄山閣 1989年
◎論集『日本仏教史』「(2)奈良時代」雄山閣 1986年
◎論集『日本仏教史』「(3)平安時代」雄山閣 1986年
◎中村元ほか『岩波 仏教辞典』岩波書店 1989年

など。

©2022 九條正博(Masahiro Kujoh)
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