見出し画像

【読書記録】2024年7月

暑い。とにかく暑い。
地球が全力で人類を殺しにかかってきている。
我々は絶滅期に入ったのかもしれない。
……などという、悪態はここら辺にして、今月の読書記録に入ろう。
2024年7月は、17冊
この17冊の中から、面白かった作品を3作ご紹介していく。


『全員がサラダバーに行っている時に全部のカバンを見てる役割』岡本雄矢

何かと不幸な芸人、岡本雄矢さんによる短歌&エッセイ集。物悲しいがどこかクスっとしてしまう日常のエッセイに、短歌が挟まれている構成なのだが、その短歌たちが独特で面白い。

「了解です!よきタイミングで出ていきます!」
井戸の底から貞子の返事

『全員がサラダバーに行っている時に全部のカバンを見てる役割』岡本雄矢

そして、短歌からじわりじわりと滲み出る岡本さんの人の良さと優しさが何ともいえない。

全米は君のことでは泣かないが僕が全米分泣いてやる

『全員がサラダバーに行っている時に全部のカバンを見てる役割』岡本雄矢

何か嫌なことがあったとしても、「そのことをネタにしてしまえ」というのが岡本さんのスタンスである。僕も岡本さんと同じで、自分の身に起こった何とも言えない出来事はネタにして消化するようにしている。大体の出来事はそうすることでどうにか処理できるのだが、それでも「何だかなあ」とモヤモヤしてしまうことがある。岡本さんはどうなのだろうか。

作品に昇華したって傷ついた部分が消えているわけじゃない

『全員がサラダバーに行っている時に全部のカバンを見てる役割』岡本雄矢

……ですよね(苦笑)

『一握の砂・悲しき玩具』石川啄木

読もう読もうと思いながら、積み続けていた石川啄木の『一握の砂』にようやく着手した。仕事での人間関係に嫌気がさしていた僕は、突発的に石川啄木の口の悪さに縋りたくなったのだ。

いろいろの人の思はく
はかりかねて、
今日もおとなしく暮らしたるかな。

『一握の砂・悲しき玩具』石川啄木

先日、「品場くんは積極的に人に絡んでいかない」と職場で言われた。「いや、僕だけじゃなくて、そっちも絡んでこないじゃん!」と相手に言い返したいところなのだが、僕は小さく首をすくめるに止めた。僕が人に対して積極的になれないことは、事実だからだ。「この人、今どういう状況なんだろう」とか「話しかけられて嫌じゃないかな」とか「何考えているんだろう」とか、そんなことを考えているうちに、話しかけるタイミングを失い、日が暮れている。

こころよく
我にはたらく仕事あれ
それを仕遂げて死なむと思ふ

『一握の砂・悲しき玩具』石川啄木

仕事は楽しい。もっと色々勉強はしたい。もっともっと色々なことができるようになりたい。そのためには、周りの人から色んな技術を吸収する必要がある。
でも、職場の人がわからない。怖い。声が出ない。
結果、家に帰る時間がくることを、どこか待ち構えている自分がいる。情けない。

家にかへる時間となるを、
ただ一つの待つことにして、
今日も働けり。

『一握の砂・悲しき玩具』石川啄木

人から返す当てのない金を借りる。その癖、世話になっている人に対して悪態を吐く。そんなエピソードで有名な石川啄木とは絶対に友達にはなりたくないけど、でもその豪胆さというか慇懃無礼さというか厚顔無恥さというかが、少し羨ましく思えてしまう。石川啄木に爪の垢を煎じてもらって、1パーセントくらい石川啄木の要素が取り入れられれば、僕ももう少し生きやすくなるんじゃないだろうか。石川啄木に「爪の垢を煎じてください」とかお願いしたら、「いいけど、いくら払える?」とか言われそうだよな……なんてね。

『平熱のまま、この世界に熱狂したい』宮崎智之

フリーライターである宮崎智之さんによるエッセイ集。文庫版を書店で見かけて、まずその表紙の絵の美しさに目を奪われた。そして、吉本ばななさんよる「真の意味で優しい人が書いた、読んでいるだけで気持ちがどんどん落ち着いていく本です。」という帯文に惹かれて、ジャケ買いしてしまった。宮崎さんはエッセイの中で、自らの「弱さ」を直視し、「何者か」になろうともがく自分に疑問を抱き、最終的に「すでにあるものをありのままに感じることが人生を豊かにする」という結論に至る。

一足飛びに世界を掴もうとするのではなく、身近なことへの執着を積み重ね、想像することをやめないことによって、身近ではない世界や多様な他者への実感を掴むことができるのではないか。

『平熱のまま、この世界に熱狂したい』宮崎智之

中でも、僕の心に刺さったのは、宮崎さんが吉田健一さんの随筆を引用した部分だ。

もしかしたらこれからなしとげられる〈かもしれない〉といった不確かな未来の仮定からくる若さゆえの居心地の悪さによって、人は身動きが取れなくなる。だから、過去を足がかりにして現在を歩むのが大人なのだ、と。

『平熱のまま、この世界に熱狂したい』宮崎智之

僕の尊敬する年上の人は落ち着いた方が多く、その人たちと比べてジタバタしてぎこちない自分がカッコ悪くて仕方がなかった。早く落ち着きたいと思い、毎日焦ってばかりいる。しかしこの本の中では、この若さ特有のぎこちなさを「(できることが)限定されないがゆえの焦燥からくるもの」としている。僕が今抱えるこの「焦り」は、ある意味、若さゆえの「チャームポイント」なのかもしれない。そう思えると多少は気が楽になるし、何となくジタバタする自分を誇れる気がする。できることが限定されてくる未来を迎えるのも怖いけれど、そうなるまでもうちょっと自分の可能性に溺れてみてもいいのかもしれない。


暑さでバテかけてはいるが、何かと変化の多い月だった。
ボクシングジムに通い始めたり。
仕事の研鑽として、半年間の講座を受けはじめたり。
おかげで今後、本を読む時間はグッと減りそうである。
まあ、でもそういう時期があってもいいのかもしれない。
読書と長くお付き合いするためにも、これを機に焦らずゆっくり読み込むことを覚えていきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?