見出し画像

【読書記録】2023年11月

何歳になったって、新しい環境は怖い。
いや、学生だったころはまだマシだったかもしれない。
なぜなら、みんなが「よーい、どんっ!」で新生活をスタートさせるからだ。
だが、社会人になると勝手が違う。
転職ともなれば、たった一人で新しい環境に挑むことになる。
僕は現在、新しい職場で、誰がどんな人か見極めるのに四苦八苦している。
そんな11月の読書記録は計34冊
12月からはフルタイムで労働をするので、冊数は減る予定。
さらば、愛しの読書時間。



『エクソフォニー』 多和田葉子

「エクソフォニー」とは、母語の外に出た状態一般を指す。
作者の多和田葉子さんは、日本語を母語としながら、ドイツ語でも小説を書く奇才。言語の狭間で生きることの面白さと難しさを見せてくれる珠玉のエッセイである。

わたしはバイリンガルで育ったわけではないが、頭の中にある二つの言語が互いに邪魔しあって、何もしないでいると、日本語が歪み、ドイツ語がほつれてくる危機感を絶えず感じながら生きている。(…)毎日両方の言語を意識的かつ情熱的に耕していると、相互刺激のおかげかどちらの言語でも、単言語時代とは比較ならない精密さと表現力を獲得していくことが分かった。

『エクソフォニー』多和田葉子

多和田葉子さんの持つこの言語観に対して、簡単に「分かる」と言ってはいけないことは承知している。だが、何もしないでいると言語が歪み、ほつれてしまう感覚には、ほんの少しだけ覚えがあった。僕の場合、日本語とフランス語だったけど。

『夜を着こなせたなら』 山階基

これは完全に表紙に買い。表紙に施された箔押し加工がたまらない。メタリック調でありながらも、ピンクからグリーンへと光彩変化するトラストカラー箔というらしい。
そして、最初は顔(=表紙)で選んだものの、何と性格(=中身)も大変素晴らしかった。日常に潜む仄暗さが、三十一文字に込められていて、愛おしい。

助手らしいことは座席にねむるだけ
目を覚ましたら唄いだすだけ

『夜を着こなせたなら』山階基

ともだちとお酒を飲めば起き抜けの
肝臓に言葉がつっかえている

『夜を着こなせたなら』山階基

もちろん、読み終わったその足で、第一歌集『風にあたる』も購入した。こちらも大変良かった。

『杉森くんを殺すには』 長谷川まりる

今月のフィクションNo.1は間違いなくこの作品。読了後、自分と人との関わり方を、とことんまで考える羽目になった。少し重いテーマの作品だが、一読の価値はあると思う。あまり話しすぎてしまうと、読書時の衝撃が薄れてしまうので、オススメしたいのに何も言えない。とにかく読んでくれ。そして、一緒に苦悶してくれ。

わたしは良子さんに、わたしの精神安定剤になってほしくない。杉森くんがわたしを、自分の精神安定剤にしようとしたみたいには、したくない。

『杉森くんを殺すには』長谷川まりる

『「自分らしさ」と日本語』 中村桃子

こちらは社会言語学者の中村桃子さんによる、ジェンダーと言語にまつわる新書。この本を読んだ結果、しばらく僕は自分の使う言葉や自分が選ぶものについて、大いに悩むこととなった。

(事前に)何の説明もなく、ある言語イデオロギーをそのまま反映したことばの使い方をすることは、説明がある場合よりも、より強力にその言語イデオロギーを当たり前の考え方にする。なぜならば、説明しないことによって、女子が「わたし」を使い、男子が「ぼく」を使うことは、説明する必要もないぐらい自然なことだとすることができるからだ。

『「自分らしさ」と日本語』中村桃子

例えば、親子向けの商品のプレゼン資料で、家族の写真を使うとする。そこで僕がどんな写真を選ぶか。選んだ写真によっては、あるイデオロギーを植え付けることになってしまうのではないか。プレゼン原稿で使う単語ひとつとってもそうだ。気をつけないと、僕が意図しないステレオタイプを、聴き手に押し付けてしまうことになるのではないか。自意識過剰にも、そんなことを考えてしまうのであった。

『ぼくの死体をよろしくたのむ』 川上弘美

(あれは死体のポーズだ)
ヨガの教室で、わたしがいちばん好きなポーズである。静かに腹式呼吸をしながら、できるだけぼんやりした心もちになるポーズ。

『ぼくの死体をよろしくたのむ』川上弘美

初っ端の短編でこの文章を見つけた瞬間、「この著者とは気が合うな」とにっこりしてしまった。なぜなら、ぼくもこの死体のポーズ(「シャバーサナ」という)が大好きだからだ。
シャバーサナは、辛いヨガのレッスンの最後に待っている至福のポーズ。肢体を床に投げ出し、ゆっくり呼吸をしているうちに、さっきまでの苦しさが全部どうでも良くなってきてしまう。だけど「シャバーサナが一番好きです」とヨガのインストラクターに言った日には、苦笑されるのでご注意を。
ちなみに『ぼくの死体をよろしくたのむ」は短編集なのだが、一番好きなのは、歳の離れた男二人が仲良く旅行する「憎い二人」という短編。男友達同士で弁当を律儀に半分こする姿が、とても微笑ましく羨ましかった。


今月はこんな感じ。
12月から今までのように時間は確保できない。
だけど、通勤時間とかお昼休みとか、隙間時間を見つけつつ、読書時間の確保に励みたいところだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?