小説「苦くて甘い」
「良いよ」
窓の外で銀杏の葉がはらりと落ちる音さえしそうな程の静寂が広がる、講義後の教室。その一言は、2人きりのこの空間に静かに、けれどはっきりと響いた。
僕は自分の耳を疑った。目の前に立っている彼女は今も尚、何を考えているのか分からない表情を変えずにガムを噛み続けている。
「……え?」
しばらくの沈黙の後、漸く僕の口から出てきたのはこの一言だった。彼女は呆れたように溜息を吐く。
「だからさ、『付き合っても良いよ』って言ったの」
そう言いながら、彼女は僕から目を逸らした。
そう、僕、黄和田大樹(きわだ だいき)は大学入学当初から気になっていた同じ英語学科生の木下茜(きのした あかね)に、告白をした。それはそれは呆気なく、僕の片想いは実ってしまったのだった。
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