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【エッセイ】自ら出鼻をくじく奴

4月1日。
なんとなく、新しい風が吹いてくる気がする。
新しい1年の始まり、新しい生活の始まり。

そうした視点で見渡せば、なんだかいつもより電車に真新しいスーツ姿の人が多いような。

そんな今日はエイプリルフールだ。
だからといって誰かに嘘をつくこともなく。

「会社、明日から1週間休みます!」
ぐらいの大嘘がつけたら良かっただろうか。

いや、無理に決まってる。
性格的にも、私の職場でのキャラ的にも、そして会社の雰囲気的にも。



いまの会社に入社して、ちょうど半年が経った。

無事にめでたく社畜と成り果てた私は、
毎日深夜まで残業し、
朝になれば何事も無かったかのように
出社準備をして職場に向かう。

休日だって急ぎの依頼があったら対応し、
何もなくても頭の片隅で「仕事」の2文字がウズウズウズウズ。
これは洗脳だろうか。


納期に、仕事に追われる毎日に
さすがに嫌気がさしてくる。

仕事を放り投げる度胸はないが、
どうにかして息抜きがしたい。


…そうだ、休憩時間に遊べばいいじゃない。
仕事仕事で疲弊した脳で導き出した答えはなんともシンプルなものだった。



4月。
桜の季節だ。

今年は遅咲きといわれているが、
私の住む土地にも桜の季節がやってきた。


そうだ、写真を撮ろう。


日曜深夜、ゴソゴソとしまい込んでいたカメラを探し出す。使うのは何ヶ月ぶりだろう。
そしてバッテリーを確認。
あっ充電しないと。

そうしてやってきた今日。
天気はバッチリ快晴だ。
これ以上ないほどの撮影日和。


なんとか業務を一区切りさせ、職場を出た。

リュックを背負い、
スニーカーを履き、
そして肩に掛けるのはCanonのカメラ。

とても社会人とは思えない出で立ちだ。


まあそんなことはさておき。

歩いていると桜がちらほら。
まだ満開にはなっていないからか、桜を取り囲むように群がる様子が少し滑稽にもみえる。

そこに仲間入りする訳なのだが。



桜のそばまでやってきた私は、
電源をオンにして画面を確認した。



「カードがありません」



表示をみてハッとする。
そう、SDカードが入っていなかったのだ。


結局、意気揚々と出発した私は、泣く泣く行ってきた証拠を残すべく桜をスマホに収めて職場に戻ってきた。

きっちり1時間。
良かった、なんとか間に合った。
社会人たるもの、
ルールは守らないもいけないので。

そんな悲しさを職場の人たちは知るわけもなく。
いつもよりちょっと足を伸ばしてお散歩をして戻ってきたこの滑稽っぷりを言えるわけでもなく。

この悲しさを、呆れっぷりを、
誰に言う訳でもなく自宅へと戻ってきた。
そして今、ポチポチと打ち込みながら今日のこのどうしようもない感情を吐き出している。

いや、何度思い返してもアホすぎる。
明日は晴れるだろうか。
明日こそはリベンジできるだろうか。


しっかりバッテリーとSDカードを確認した。
さて、今日も残りの仕事を始めようか。

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