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過酷な運命の歌

僕だったら手段は選ばないよ。明らかに運命の分岐点だもの。

はじめて聴いたときから、「少し悲しいメロディーだな」とは思っていた。でもまさか、そんなおそろしい曲だったなんて。

小学生のころ、家に壁掛け時計があった。ファンタジックだけどどこか無機質な人形がついた時計で、時間になるとその人形たちが踊って、曲が流れるしくみだった。

曲はありがちなクラシックとかじゃなくて、当時流行っていたJ-popだった。「浪漫飛行」とかあったような気がする。

僕はそのなかに、心がざわつく曲があった。時計から流れるのは歌詞のないインストゥルメンタルだったけれど、そのメロディーが僕の心を不安定にしていたのだ。家にひとりでいるときに流れると、落ち着かない気持ちになった。

その曲というのは、小田和正さんの「ラブ・ストーリーは突然に」だ。

いまは切なさとして受け取っているサビのメロディーも、よくよく考えると、どこか不安になる音程ではないだろうか。無機質な人形の動きと合わさると、不気味に思えたのもなんとなくわかる。

そんななか、僕が感じていた不気味さを決定づける事件が起きる。

あるとき僕はたまたま、CDから流れる「ラブ・ストーリーは突然に」を聴いた。そして衝撃的な歌詞を知ってしまったのである。当時の僕が聴いた歌詞をここに引用する。

あの日 あの時 あの場所で 君に会えなかったら
僕等は いつまでも 見知らぬ二人の ママ

「見知らぬ二人の「ママ」…!?会えなかっただけで…!?強制的に!?え、分岐点すぎない!?怖っ!!待って…見知らぬ二人って誰だ…?幽霊…?いや、孤児…?孤児的な人…?まさか…誘拐!?誘拐を暗示してる!?」

どことなくメロディーには不安を感じていたけど、まさかこんなに怖い歌詞だとは思っていなかった。小学生の僕は動揺して、頭のなかで何度も歌詞をくり返した。しかし何度思い起こしても、「見知らぬ二人の『ママ』」だった。

それからというもの、その曲がいっそうおそろしくなった。当時の僕にとって「赤い靴」や「ドナドナ」に匹敵する怖さだった。

「きっと本当はなりたくなかったのに、『会えなかった』せいで『見知らぬ二人のママ』にされてしまった人の話なんだろう…昔の国ではよく行われていたのかな…かわいそうに…」

その歌詞のほんとうの意味に気づいたとき僕が赤面したのは、想像に難くないだろう。小田和正さん、ほんとうにごめんなさい。大好きです。

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