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法律案で振り返る第204回国会(閣法編)

2021年1月から6月まで開催された第204回通常国会。150日間の会期の中で計84件の法律案が成立しました。中でも内閣が提出した法律案(閣法)は、61 / 63件が成立し、過去5年で最も高い成立率となりました。本記事では、今国会で審議された閣法についてPolityLinkを使って振り返っていきます。

今回は振り返りの軸として、開会初日に菅総理が行った施政方針演説を用いたいと思います。演説時には閣法がまだ提出されておらず、発言の細部が分からない部分もあったのですが、今改めて読むと実際に成立した法律案の内容がリンクされ、分かりやすくなっていると思います。また演説全体の流れを踏まえることで、それぞれの法律案の立ち位置がより明確になるかと思います。

本記事では演説のうち法律案に関連する部分を引用しますが、動画と全文は首相官邸のページから確認できます。そちらも是非合わせてご覧ください。

新型コロナウイルス対策

さらに、新型インフルエンザ特別措置法を改正し、罰則や支援に関して規定し、飲食店の時間短縮の実効性を高めます。議論を急ぎ、早期に国会に提出いたします。

二回目の緊急事態宣言の中、開会からおよそ2週間でスピード成立したのが新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律案です。早くも耳馴染みとなった「まん延防止等重点措置」を新たに定めたほか、時短営業や入院の拒否に罰則を定めたことが話題となりました。


災害対策

ここ数年の相次ぐ水害やこの冬の大雪、災害の激甚化の中で、災害発生時には、万全な対応を速やかに行います。

災害対策基本法等の一部を改正する法律案では「避難勧告」を「避難指示」に一本化、用語を明確化することで逃げ遅れを防ぎます。また、個別避難計画の作成を各自治体の努力義務とし、高齢者等の避難を支援します。

大雨予測の精緻化、遊水地や貯留施設の整備、ダムの事前放流、土地利用の見直しなど、ハードとソフトの対策により住民の命を守ります。

特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律案では激甚化・頻発化する水災害を防ぐため、あらゆる関係者が連携して取り組む法的枠組みを整備しました。


暮らしの安全

ストーカー規制法を改正し、違反行為をGPSによる位置情報の取得にも広げます。銃刀法を改正し、クロスボウの所持を禁止し、許可制とします。

ストーカー行為等の規制等に関する法律の一部を改正する法律案銃砲刀剣類所持等取締法の一部を改正する法律案がそれぞれ成立しました。

ネット通販トラブルの増加を踏まえ、デジタルプラットフォーム企業に対し、違法商品、危険商品の出品停止を求めます。

取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案では、アマゾンや楽天などのネット通販を運営する企業に対し、問題のある商品を規制する社会的責任を明確にしました。

このほかに、消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律案では、定期購入商法や送り付け商法、販売預託などによる消費者被害を防ぐ法整備を行いました。

SNSの誹謗中傷について、発信者情報の開示命令などの裁判手続を整備し、被害者の迅速な救済につなげます。

特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律案では、誹謗中傷を行った匿名の投稿者を特定する手続きを簡略化しています。


グリーン社会の実現

二〇五〇年カーボンニュートラルを宣言しました。

昨年の所信表明演説で菅総理が成長戦略の柱として掲げたのが、2050年までのカーボンニュートラル(=温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする)の実現です。地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案では、これを基本理念として法に明記し、その実現に向け自治体や企業を支援する制度を創設します。

もはや環境対策は経済の制約ではなく、社会経済を大きく変革し、投資を促し、生産性を向上させ、産業構造の大転換と力強い成長を生み出す、その鍵となるものです。

産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案ではグリーン社会とデジタル化を経済成長の源泉と定め、脱炭素に向けた設備投資に対し最大で10%の税額控除を行います。

CO2吸収サイクルの早い森づくりを進めます。

排出量実質ゼロを実現するには、森林によるCO2吸収量を増やすことも不可欠です。森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法の一部を改正する法律案では、間伐の支援措置を延長し、さらに再造林を促進する措置を新設しました。

また、こちらは委員会提出法案ですが、公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案という法律案も成立しています。木材利用によって森林循環を促し、森林のCO2吸収作用を強化します。


デジタル改革

この秋、デジタル庁が始動します。

グリーン社会と並ぶもう一つの経済成長の柱がデジタル改革です。デジタル社会形成基本法案ではその基本理念を明記し、デジタル庁設置法案では9月から始動するデジタル庁をその司令塔として創設しました。

全国規模のクラウド移行に向け、今後五年間で自治体のシステムも統一、標準化を進め、業務の効率化と住民サービスの向上を徹底してまいります。

各自治体が個別に行政システムを運用する現状では、自治体間の連携が困難な上、運用コストもかかります。地方公共団体情報システムの標準化に関する法律案では、5年以内に行政システムの統一化を目指します。

あらゆる手続が役所に行かなくてもオンラインでできる、引っ越した場合の住所変更がワンストップでできる、そうした仕組みをつくります。

デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案ではデジタル社会の実現に向け、個人情報保護法やマイナンバー法などの様々な関連法律を一括して改正しました。

民間企業においても、社内ソフトウェアから生産、流通、販売に至るまで、企業全体で取り組むデジタル投資を、税制によって支援します。

グリーン社会でも触れた産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案では、DXに向けた設備投資に対し最大5%の税額控除を行います。

ポスト5G、6Gを巡る国際競争が過熱化する中、官民を挙げて研究開発を進め、通信規格の国際ルールづくりを主導し、フロントランナーを目指します。

国立研究開発法人情報通信研究機構法の一部を改正する法律案ではポスト5Gに向けた研究を支援する基金を創設しています。

放送番組と同じ内容をインターネットでも同時に視聴できるよう、著作権法を改正します。

著作権法の一部を改正する法律案では、放送番組のインターネット同時配信に必要となる権利処理を円滑化したほか、インターネットを通じた図書資料へのアクセスを充実させました。

NHKについては、業務の抜本的効率化を進め、国民負担の軽減に向け放送法の改正をします。

NHKの受信料引き下げに向けた放送法の一部を改正する法律案でしたが、会期中に東北新社とフジHDの外資規制違反が発覚したことを受け、廃案となりました。政府は外資規制の見直しを盛り込んだ法案を今後の国会で再提出する見通しです。


イノベーション

十兆円規模の大学ファンドにより、若手研究人材育成などの基盤整備を行い、世界トップレベルの成果を上げる自律した大学経営を促します。

国立研究開発法人科学技術振興機構法の一部を改正する法律案では大学ファンドを創設し、その運用益で大学の研究環境の整備を進めることを目指します。


地方の活性化

農業に対する資金供給の仕組みも変えていきます。

農業法人に対する投資の円滑化に関する特別措置法の一部を改正する法律案では、輸出拡大やスマート農業の導入に向けた資金調達を事業者が行いやすくしました。

我が国には内外の観光客を惹きつける「自然、気候、文化、食」が揃っており、新型コロナを克服した上で、世界の観光大国を再び目指します。

文化財保護法の一部を改正する法律案では無形文化財及び無形民俗文化財の登録制度を新設し、地域の祭りや郷土料理などを保護することを目指します。


少子化対策・社会保障改革

幼稚園やベビーシッターの活用など、地域の子育て資源をフル活用します。

子ども・子育て支援法及び児童手当法の一部を改正する法律案では子育て支援事業者同士の連携を推進し、総合的な子育て支援を目指します。その一方で高所得世帯への児童手当の給付の廃止も決まり、子育て支援の財源を既存の支援策を削って捻出しなければならない予算構造の問題も指摘されています。

全ての企業に対し、男性が育休取得しやすい職場環境を整備することを義務付けるとともに、希望に応じて一か月以上の休業を取得できるようにしていきます。

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案では男性版の産休制度を創設したほか、企業側に育休を取得しやすい環境整備を求めています。

全国の小学校について、現在の四十人学級を四十年ぶりに人数を引き下げ、三十五人学級へと改めます。現場で子どもの状況を把握し、一人ひとりにきめ細かい教育を実現します。

公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律の一部を改正する法律案では40年ぶりとなる小学校の学級基準の一律引き下げが決まりました。

七十五歳以上の高齢者のうち、単身者の場合、年収二百万円以上の方々の窓口負担割合を二割とし、急激な負担増とならないための経過措置を設けます。これにより、現役世代の保険料負担が七百二十億円減ることになりました。

全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案では75歳以上の医療費自己負担を所得に応じて2割に引き上げることが決まりました。


外交・安全保障

安全保障上重要な防衛施設や国境離島を含め、国土の不適切な所有、利用を防ぐための新法を制定します。

重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案では、自衛隊基地などの周辺を注視区域として指定し、調査や利用規制をできるようにしました。一方で私権制限や恣意的な運用の恐れがあるとして、立憲民主党など野党は批判、成立は最終日未明までもつれこみました。


その他

ここからは演説では触れられなかったが、会期中話題となった閣法も見ていきます。

出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案は外国人の在留管理を厳格化し不法在留者を減らす目的で提出されました。しかし、入管施設収容中にスリランカ人女性が死亡した問題や国際人権法に違反しているとの批判を受け、廃案となりました。

また、昨年の通常国会で大きな話題となった国家公務員法等の一部を改正する法律案は、検察幹部の定年延長の特例規定を削除して再提出され、成立しました。




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