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なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか?

「仕事」。
誰もが、何かしらの職務や業務を負って生きている。
それゆえに仕事にまつわる心身の不調は、私たちと切っても切り離せない。

私たちはなぜ、仕事に対してナーバスになったり、燃え尽きてしまうのだろうか。

私たちの心の状態と生活はつながっている。
今回は心理ど真ん中ではなく、その周縁を覗く2冊を紹介します。


ジョナサン・マレシック『なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか』(青土社)

バーンアウト、日本では「燃え尽き症候群」と呼ばれるものに着目した1冊。

筆者は大学教員になる夢を叶えたにも関わらず、その教員としての仕事でバーンアウトして抑うつ状態に陥り退職。
なぜ自分がこうなったのか、という自己分析からこの本は始まる。

私たちが「燃え尽き」てしまう要因は大きく2つ。
1970年代以降の新自由主義の台頭と脱工業化による労働環境の悪化。
そして、私たちが仕事に対して過度な理想を抱いてしまうことだと筆者はいう。

私たちは仕事を通じて「自己実現」を果たそうとする。
それは、仕事を通じて自分の存在価値が証明できるという考え方であり、裏を返せば、仕事によって人間の価値が決まるという思想でもある。

仕事によって人間の価値が決まり、報酬や得られる尊敬も変わるはず、(尊い仕事にはそれ相応の報酬とリスペクトを)と人は考えがちになっており、そうした期待が裏切られ続ける時、人はバーンアウトする。

「働かざるもの、食うべからず」。これは新約聖書の文言だ。
実は、働くことで人の価値が決まるという考え方は、非常に文化的なものである。
例えば、社会学者のマックス・ウェーバーは、資本主義社会がプロテスタントの倫理感に支えられていることを解き明かしている。

筆者はこうした分析を通して、バーンアウトは「労働環境」の問題ではなく、「文化」の問題だと位置付ける。

私たちは、「働くことで尊敬される」という価値観から、「何があろうと私たちの存在そのものに価値がある」とする文化へシフトできない限り、バーンアウトからは逃れられないのだ。


マイケル・サンデル『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房)

ハーバード大学で政治哲学を教えるマイケル・サンデル。
NHKで放送された「ハーバード白熱教室」が有名だ。

今回、彼が取り上げるのは「能力主義」という考え方。
ハーバード大学があるアメリカは、非常に能力主義的な文化をもつ社会として知られている。
実力さえあれば、貧困から抜け出し一攫千金も夢じゃない。まさにアメリカン・ドリーム。

しかし、今のアメリカではそんな社会階層の移動は生じない。
富める者がますます資本を増やし、貧困層は貧困のまま。格差が広がっている。

エリートたちは同じレベルの大学出身者と結婚して「パワーカップル」になる一方で、大学を卒業していない人たちは地元から離れず、しかも単純労働はより安い賃金で働く海外の労働者に奪われてしまった。

その間、アメリカの政治は一貫して「教育に力を入れる」と宣言してきた。
学歴が人々を分けてしまうなら、教育に力を入れ、人々が能力を伸ばすのを支援しよう。なるほど正しい気がする。
けれど、サンデルはこれが間違いだという。

本来、正すべきは「政府の経済政策」である。それがなぜか「人々の教育」にすり替わってしまっている。
ひたすら教育に焦点を合わせたことで、大学に行かなかった人々は怠惰な落ちこぼれとされ、努力が足りなかったとされてしまう。

エリートたちに見下されたと感じた労働者たちは、やがてドナルド・トランプの元に集結していった。

足りないのは労働への承認だ。
人々の労働に対して、賃金という形でリスペクトを示すこと。
学歴ではなく、労働に対して政府の介入が必要だとサンデルは言う。


文:メザニン広報室


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