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共に悩み、共に考える:佐々木 隆嘉(臨床心理士)

「INTERVIEW」では、カウンセリングプラットフォーム「メザニン」のカウンセラーに広報室からインタビューを行い、その”人”を掘り下げます。

パイロットへの憧れ、挫折の経験と深く自身と向き合う時間を経て臨床心理士へと進んだ佐々木カウンセラー
心理の現場に立ちながらも、その最前線で悩み、考えていることについてお聞きしました。

佐々木 隆嘉(ささき たかよし)
臨床心理士・公認心理師。会計事務所での勤務など、様々な社会人経験を経たのち大学院に入学。修了後、医療・教育領域をメインに業務にあたる。対面・オンラインカウンセリング、心理検査などを通して、親子関係、発達障害、犯罪加害行為をしてしまった方など、さまざまな背景を持つ人の悩みに寄り添っている。



なりたいものになれないと分かった学生時代

—— 佐々木さんが心理士を志した理由を教えてください。

ある時、たまたま心理学の本を手に取ったことがあって、読んでみたんです。

誰もがやっている「話す」ことで、人が元気になったり、問題解決の道筋が見えたりするということが、純粋にすごいなと思いました。
これを仕事にできたら、と思ったことがきっかけです。

—— 心理学の本を手に取ったのは、何か理由があったのでしょうか。

進路でつまづいたことですね。

実家が航空自衛隊の基地のある地域で、自衛官は地元では安定した道でした。
高校2年生くらいの頃からパイロットになりたいと考えるようになって、航空自衛隊を目指して防衛大学に進学したんですけれど、大学2年生になる前に受けた検査で深視力(遠近感や立体感を捉える視力のこと)が足りないと分かったんです。

自分はなりたいものになれないと分かった時に、そもそも自分は何がしたかったのか、本当に自分の意思でパイロットになりたいと思っていたんだっけと色々と考えたんです。

その時期は本当に色々と考えました。
まだ大学生の途中で、このまま自衛隊に進むこともできるわけです。

でも、自分が進んできたレールの先にある未来は、どうにも自分の性格に合わない気もして。
最終的に自衛官の道を進むことはやめて、働きながらお金を貯めて大学院で臨床心理学を学びました。

心理士への方向転換

—— 大学院ではどんな研究をされていたんですか?

神経心理学の分野になりますが「認知機能トレーニング」を研究していました。事故とかで高次脳機能障害の状態となり認知機能が低下してしまった方に向けた、IQを元に戻すようなリハビリの方法ですね。

これは後々のカウンセリングにもかなり役立つ内容でしたが、ただ、当時やりたかった内容の研究ではなかったです。

—— なんだか、大学、大学院と本来希望していた方向には進んでいかなかったんですね。

そうですね、自然と…。
まぁ、いま関われている仕事はやりたいことだったので、良いのかなと思います。

—— いまは心理士として、どんな仕事をされているのですか?

主に教育支援センターで、お子さんの発達の問題であったり、心理的な問題を抱えている親子の親御さん、お子さんそれぞれから話を聞いたりしています。

以前は犯罪加害者の方のカウンセリングを、メインの仕事としていました。
そこでの仕事をやっているうちに、幼少期の出来事の影響というものに気づいていって、もっと子どもを対象にしたカウンセリングをやっていきたいなと思うようになりました。

「幼少期の出来事」というのも、結構些細なもので、例えば子どもの部屋に親が勝手に入る家庭かどうか、とか。
子どものプライバシーエリア、その境界に親が踏み込むことの影響があるんですね。
自分の領域に他人が踏み込んでくることに慣れてしまうと、他人の領域にも入りやすくなってしまうなと思っています。

同じ無力感を二人で共有する

—— 佐々木さんは、どんなカウンセラーになりたいと考えていますか?

そうですね、普段の「自分」とカウンセラーとしての「自分」を使い分ける人は多いなと思いますが、私は線引きは意識せずに、出会った人全員と一緒に悩みや解決方法について考える心理士になれればいいなと思っています。
頑張りすぎると自分も苦しくなりますが…。

現在進行形で壁にぶつかり続けていて、いろいろ悩みは尽きないですね。

ケースによっては、複数の問題が複雑に絡み合って、それらが互いにバランスを取り合ってしまっていたりします。

その場合、どれか一つの問題を解決しようとすると、全部崩れてしまう。

当事者たちは、その状況のどうしようもなさに無力感を抱えているし、私もこれはどうにも考える道筋が無いなと無力感を共有していて。

でも、同じ無力感を共有することには、意味があるんだろうなとも思っています。
当事者が一人で何もできずに立ちすくんでいるのと、二人で立ちすくむのとでは、何か違うんだと思うんです。

目の前にいるその人だけは、毎回会うと変わらず自分の無力感を共有してくれる。
そういう相手であること。

そこに意味があるんだろうけれど、同時に自分はそれくらいしか出来ていないなとも正直に思う時があって、これは本当に悩ましいです。

幸せは、誰にも分からない

—— その悩みの本質は、心理士の存在理由みたいなことでしょうか。

そうですね。

本来は問題を解決するための道筋というのが、その人の中にあるはずなのでしょうけれど、複雑なケースの場合はどこかで何かを切り捨てたり、犠牲にしないといけないことがあります。

でも、失うことへの苦しさや悲しさを当事者には受け入れるだけの余裕がない時に、何か他に1パーセントでも前に進められる方法を一緒に考えられないか、とか、いやそもそも私がそれを考えることに意味はあるのか、とか。

それに、カウンセリングに来られている方が、必ずしも問題を解決することを目的に来ているとも限りません。
ただただ聞いて欲しいという時もあります。
そして、時には相手から直接的には求められていないこと、相手が受け入れ難いようなことでも、伝えた方が前を向くきっかけになることもあります。

何がその人にとって幸せなのか、実際のところは誰にも分からないんですよね。
そんな中でも、その人が最大限力を発揮できるような関わり方を、今はしようとしています。

インタビュー、撮影、文:メザニン広報室

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