予算編成権について。

 2023年度の臨時国会が12月13日に閉会し、自由民主党の大規模な政治資金パーティー収入裏金化疑惑をめぐる東京地検特捜部の捜査は大詰めに差し掛かっている。岸田政権の20%を下回る低支持率もあって、政界は大混乱に陥っている。
 裏金などは今更の問題ではなく、自由民主党の天下が長期に及び、その腐敗と退廃が累積した結果と言え、本来は総裁の岸田氏の責任が問われる。一方、官僚は官僚で、ていたらくな政治家をそっちのけにして、税金の無駄遣いを競争しているかのような状況にある。
 このままでは政府は国民の信頼を大きく失うばかりでなく、わが国は国際社会からもさらに軽視される。岸田氏は自らの責任を認めて、早急に辞任すべきである。そして、幹部は内部改革を断行し、政治資金の透明化や公正な選挙制度の確立に取り組む必要がある。皮肉にも、今回の危機がこれらを促し、民主主義を再生する機会となるかもしれない。
 この機会に考えるべき問題がある。戦後のわが国を主導してきた自民党は、国民生活の支援を業界経由で行ってきた。国民一人一人に直接お金を渡すのではなく、農業、建設、運輸、商工、医療、教育など各業界に補助金を渡し、間接的に国民生活を支えてきた。自民党の族議員は各省庁と結託し、自分たちを応援してくれる業界へどれだけ補助金を引っ張ってくるかで競争をしてきた。
 そして、各業界は補助金の一部を中抜きし、族議員への見返りとして、政治献金や選挙支援を行い、官僚への見返りとして天下りを受け入れてきた。これが政官財の癒着と呼ばれる構造で、自由競争の余地は少なく、無駄と利権が多く、わが国の経済が衰退した大きな原因である。また予算を分配する予算編成権を握る財務省主計局は、このトライアングルの頂点に君臨している。この構造は官僚主導社会主義経済の体制を作っているが、企業や業界ばかりに目が向き、国民の声に耳を傾けるどころか、国民の不満や苦しみを無視してきた。そのためコロナ禍で多くの人々が収入や仕事を失って、生活に困窮する中でも、政府は業界団体や利益団体に配慮した対策しか打てなかった。
 今は昔の話になるが、09年に発足した民主党政権は初めて行政から予算編成権を手中にし、政治と官僚・業界の癒着を断ち切ることを目指した。国民の生活を支える政策を、業界団体を通さずに国民個人に直接届け、政府が各個人に直接現金を支給するという画期的な改革だった。
 10年(平成22年度)の予算案は、そのひな形と言えるものであった。国立国会図書館によると、政権公約に沿って、子ども手当などの新政策が盛り込まれ、当初予算としては過去最大の92.3兆円となった。歳出面では、「コンクリートから人へ」の方針に沿って、公共事業関係費が大幅に削減され、社会保障関係費や文教および科学振興費が増加したと評価されている。
 これが実現すれば、業界団体の力は大きく弱まり、政党に政治資金や選挙協力を提供する事例も少なくなり、官僚の天下りも難しくなる。民主党は自民党の長期政権を支えてきた政官業の三角関係を崩し、その基盤を揺るがすことができると考えた。
 むろん、自民党と財務省などの官庁は強く反発した。

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