トリプル改定の結果。

 今年2024年度は関係者の間で「トリプル改定」と言われる年にあたる。医療の診療報酬の改定は原則2年に1回行われるが、今年は診療報酬だけではなく、同時に介護報酬と障害福祉サービス等報酬も改定される。
 このため改定の範囲の広さと重要性から注目度が高い。今回の改定では、医療側を代表する「中央社会保険医療協議会」と介護側を代表する「社会保障審議会介護給付費分科会」の両者が意見を交換する「社会保障審議会」は、昨年5月までに3回開かれ、各分野の専門家がそれぞれの意見や提案を共有した。
 医療と介護の連携強化、新しいサービスの提供方法などについて議論が交わされ、利用者の利便性およびサービスの質向上が期待される。また医療、介護、福祉でも賃上げの必要性があり、労働環境の改善や業務効率化にも重点が置かれた。
 近年、診療報酬本体の改定率はプラスではあっても、1%を下回る厳しい水準で推移している。今回の改定では大幅なプラス改定を期待する向きはなかったが、昨秋から財務省との緊張関係の高まり、さらに楽観視できない気配が強まった。
 11月1日の財務省の財政制度分科会では、財務省は20~22年度の診療所の経常利益率が急増し、利益剰余金も増加したことを指摘した。これを医療職の賃上げの原資に用いる提案をし、再診料などの引き下げを要望した。
 これに日本医師会は反発し、新型コロナウイルス感染症の流行前後では、診療所の平均医業利益率は同水準だと反論した。財制審の主張は開業医が儲けすぎているという印象を与える恣意的な意図だと批判した。
 診療報酬の本体部分をプラス0.88%とする話は、12月15日に岸田首相と武見、鈴木両大臣の会談で固まった。同月20日武見厚生労働相と鈴木財務相の来年度の予算についての会合で正式に決まった。
 診療報酬の本体部分をプラス0.88%(24年度国費800億円程度)にすることで、薬価はマイナス0.97%(同1200億円程度)、材料価格マイナス0.02%(同20億円程度)で、薬価・材料価格を合わせてマイナス1.0%とする。そうなれば、診療報酬全体としてはマイナス0.08%となる。
 同時に介護報酬はプラス1.59%、障害者福祉サービス報酬はプラス1.12%と決まった。財務省は保険料負担の引き上げなどの国民負担増への懸念から診療報酬本体を中心にマイナス改定を主張した。おおかたの予想に反して、いずれも前回改定の2倍以上の改定幅であった。
 現在、岸田首相は1割台の低支持率に喘ぎ、これを支える与党は政治資金パーティーを巡る裏金問題で混乱の極みにある。岸田氏は今年9月の自民党総裁選での再選はおろか、そこまでは持たないとする意見が有力で、もはや、退陣か解散総選挙の選択しか残っていない。
 トリプル改定の大盤振る舞いは総選挙に対する布石の一つだろうか。

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