ジャニーズの名がなくなる。

 多くのファンは悲しむだろうが、やがてその名は歴史の中に埋もれる。しかし、ジャニーズについてはまだ分からない点が多く、再編や救済の動きも始まろうとしており、今後の評価は変わる可能性もある。それでも社会に衝撃を与えた未曽有の事件であることに変わりはなく、記録として残す必要がある。
 創業者で元社長のジャニー喜多川(1931-2019年)が未成年の男性アイドルに対して性的虐待を行っていたという一連の報道がメディアを騒がせている。10月17日、ジャニーズ事務所(1962-2023年)は芸能プロダクションとしての事業を停止し、「SMILE-UP(スマイルアップ)」という新社名に変更する。
 ジャニーズ事務所は日本の芸能界で最大の勢力を持ち、数多くの人気アイドルグループを輩出したプロダクションである。国民的な人気を誇り、長年にわたり活躍したジャニーズタレントは、高い知名度と圧倒的な影響力を持っていた。
 新会社は被害者の救済と補償に専念し、終了後に解散する予定である。一方、タレントの保護と活動継続のために、エージェント契約を結ぶ新事務所を設立することも発表した。多くのスポンサーが契約を解除し、タレントの出演機会も減少した現状では厳しい状況にあるが、今後の対応次第で、ジャニーズと同等の地位を取り戻す可能性もある。創業者一族は新事務所の出資や運営には一切関与しないことを明言した。
 この事件は世界的にも類を見ないスキャンダルである。性的嗜好異常があったとされるジャニー喜多川がタレントやオーディション参加者など千人以上の男児や未成年男子に対して性的虐待を50年以上にわたって続けていた。
 ジャニーズ事務所はタレントを犠牲にして芸能界で権力を拡大し、さまざまな事業に進出し、巨額の利益を得てきた。これらは明らかな犯罪行為であり、被害者に対する救済や補償が必要である。また幹部もこれを黙認してきたことから、共犯や幇助罪に問われる可能性もある。
 彼の猥褻行為は1960年代から知られており、週刊誌や告発本などでも取り上げられてきた。しかし、長期間わが国のメディアはこの問題を追及しなかったことから、共犯者ともみられるが、世界からは異常な国として批判されている。
 本格的な報道は99年に週刊文春がキャンペーンを展開し、証言を得て報じた。これに対して、ジャニーズ事務所は文藝春秋を訴えたが、裁判では報道の重要な部分が真実と認められた。
 23年3月、英国の公共放送BBCがドキュメンタリー「J-POPの捕食者:隠されたスキャンダル」のタイトルでこの問題を放送した。それ以降わが国でも注目されるようになり、ジャニーズは事業停止に追い込まれた。
 この問題は男性や同性間の性暴力という重要な社会問題を浮き彫りにした。もともと、わが国では性虐待に対する意識が低く、特に男性が性犯罪の被害者になることや、性的少数者に対する偏見や差別が根強い。
 この事件は性意識や透明性や公正性を高める大きな契機となるだろう。

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