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初夢in2022

 初夢を見た。おもしろい夢だったので、久々に投稿してみようと思った。

 大勢の人がバスに乗っていた。乗客のなかには知り合いもいて、高校生のクラスメイトがその大半だった。わたしはバスの中央で吊り革を持ち、流れていく外の景色を見ていた。田園風景だった。空は晴れていて、稲穂のひとつひとつが鮮やかな黄色を帯びていた。夏なのかもしれない。

 バスは緩やかなカーブを走行していた。道路わきに目立たない停留所があり、バスが止まった。誰も乗ってこない。だがよく見ると、バス停には友人のTが立っていた。バスが走り出す。置き去りにされたTは、バスを追いかけることもなければ慌てる様子を見せることもなかった。ただ、がっかりしたようにうつむくTの姿がわたしの位置から確認できた。きっとTはこのバスに乗りたかったに違いない。わたしは運転手に聞こえるようわざと大きな声で「まだ友だちが乗ってないですよ」と叫んだ。運転手から返答はなかった。気づいているのに無視されているようだ。今止まればまだ間に合うのだが、運転手は職務怠慢によって発進し始めたバスを止めたくないらしい。運転手はスピードを上げ、Tの姿はどんどん小さくなりやがて見えなくなった。

「引き返すべきだ!」腹が立ったわたしは文句を言った。他の人からも同意を得ようとして、後ろを振り返るとMがいた。「引き返すべきだよなあ?」Mはわたしの元カノだ。Mを見た瞬間、わたしは内心どきりとした。Mとはあまりいい別れ方をしていなかった。ある日Mから別れを告げられたとき、わたしは素っ気ない態度で了承したが、そのときの後悔と罪悪感がたった今バスのなかでカムバックしたのだ。わたしは急いで他の人にも話しかけた。「引き返すべきだよなあ?」ちょうどMの隣にいたTに話しかけた。Tはかすかに頷いてくれた。

 次のバス停で何人か降りたので、空いた席に前の方からT、わたし、Mの順に座った。そこでようやく、なんでTがいるんだ、と疑問に思った。Tはさっきバスに乗り遅れたはずだ。「おまえ、なんでいんの?」わたしの問いにTはとぼけた。Tは首をねじって後ろに座るわたしに微笑みかけている。本当になんでいるんだろう。不思議に思いよくよく観察してみると、Tのアゴはしゃくれておらず、むしろ自分の首に向って食い込もうとしていた。本物のTのアゴはしゃくれている。「誰だおまえ」問いただしたが、Tはとぼけるばかりだった。しかたないので後ろに座るMに声をかけた。「ちょっと見てくれ」しかしMはうつむいた状態でうたた寝していた。「おい」わたしはMの肩をゆすった。「なあ」肩をゆすって、そのままそっと手を掴んだ。掴んだというか握った。もしかしたら過去の一切をわたしたちは許し合えるんじゃないかと、その手に期待を込めていた。Mがふと顔をあげた。「こいつTじゃないんだよ」わたしは後ろのTが怖くなり、もうMから目を背けることができなくなっていた。Mが口を開いた。

「でも2人目のTっていうこともありえるんじゃない?」

「え」わたしはMの言っていることが咄嗟に理解できなかった。

「例えば早起きしてバスに乗っていたとしたら、200人目のTっていうことになるでしょ」

 さっぱりわからない。

「あ、でもそんなに単純じゃないか」

 Mは自分の言葉に納得がいかないような、けれど何かわたしには理解しようのない真理を獲得しているかのような表情で言った。わたしは彼女への期待がいっぺんに消えてしまった気がして少し悲しくなった。

(おわり)

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