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負け試合

 小学校の運動場で野球の試合をしていた。0-0のまま9回裏を迎え、相手チームの攻撃がはじまる。初っ端、バッターの打球が左中間に飛んだ。センターを守っていた私はボールの落下地点を瞬時に把握し、猛ダッシュで向かう。ダイビングキャッチすると、ショーバンするもなんとかグローブの先で掴み取ることが出来た。急いで立ち上がり、ファーストへ遠投する。しかし勢い余ったボールは大暴投となり、ファーストが捕りに走るまにバッターはホームベースを踏んでチームは負けてしまった。チームメイトの多くは、試合の敗北を機に別のチームへと移籍した。

 私は自らがエースとなり、チームを牽引していくことを心に誓った。新入部員を確保し、また一からチーム作りを始めた。

 ある日練習をしていると、移籍したはずのチームメイトがやって来て、「練習試合してやろうか」となめた目つきで言った。受けて立つことにした。エースピッチャーとしてマウンドに立ち迎えた初回表、力いっぱい投げた第一球は力んでボールとなった。ふとグローブをしていないことに気づく。ベンチに取りに行き、再びマウンドに立った。リズムよく3人のバッターを抑え、これでチェンジだと思ったが打席には4番バッターが立っていて、私もなぜか投球モーションに入っていた。思い切り腕を振って投げたボールはセンターへのポテンヒットとなった。

 センターはボールを捕球するとマウンドの方へ駆け寄り、なぜかセカンドへ向かって投げた。それが暴投となり、がら空きの外野へボールがてんてんと転がっていく。ランニングホームランになった。「何やってんだよ」思い切り怒鳴った。しかし、これ以上責めても仕方ないと思い直して、「まあこれだけでも練習試合した甲斐があったよ」とふたこと目には慰めの言葉をかけていた。

 マウンドに戻り試合再開。気持ちを切り替えるために一度周りを見渡すと、レフトの守備位置がおかしいことに気づいた。キャップを被った三つ編みのレフトがサードとショートの間に突っ立っている。手を振って「もっとバック」と命令したが、一歩しか下がらない。「バック」と叫ぶごとに一歩下がる。まるでロボットのようだ。「下がれ、下がれ、下がれ」と何度も言った。無性に腹が立った。目が覚めた。どうせ試合は負けただろう。

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