第1章 長野 大生(ながの ひろき)
「個人向けの取材サービスを始めます」という記事を書いてから、数ヶ月が経ちました。
勢いでネットショップを立ち上げ、その後すぐに友人の長野くん(僕や周りの友人はみな、『ちょーのくん』と呼んでいます)が1人目の購入者になってくれました。
取材を敢行してから月日が経ってしまいましたが、出版物の仕事が立て込んだり、身の回りのことで頭がいっぱいになったりと、かたつむりペースの僕を見守ってくれてありがとうございます。
前置きが長くなりましたが。
ひとりひとりのライフストーリーを深掘りする「みんな主人公計画」の1人目は、そんなありがたい僕の友人が主人公です。
まずは、第1章から。どうぞ、ご覧ください。
「平和主義」×「負けず嫌い」=「絶対的な勝利」?
ーー(森)記事では、今の長野くんと関わりのある人たちにはまだ見せてない部分を聴いていきたいよね。「みんな主人公計画」は、その人が何か意義のあることをしているかどうかは重要ではなくて、その人がどんな人生を送ってきたのかに焦点を当てたい。それが結局、今何をやっているのか、どんな性格の人間に育ったのかっていう話に繋がると思ってる。ということで、幼少期の頃から聴かせてもらおうと思います!
(長野)今は結構のびのびと自分らしくやれてるんだけど、結構“蓋をされてきた”人生だと思っていて。
幼稚園の時に、運動会のかけっこがあるじゃない。俺はすごく足が遅くて、いつもビリだった。
で、母親が離婚してからおばあちゃんのいる実家に住んでたから、お母さんが仕事でいない日中、ちっちゃい頃の俺と弟の世話はおばあちゃんがやってくれてたんだよね。
そんなおばあちゃんが俺に、『友達を引っ張ってでも、前に出ろ』って言うの(笑)。それぐらいの“負けん気”を持ちなさいって意味だと思うんだけどね。
ーーおばあちゃん、なかなかアグレッシブな言い方だね(笑)。
でも、その考え方は俺にとって合わなくて。
「普段は仲の良い友達なのに、運動会の時だけ敵になってしまう」。それがまずちょっと受け入れられなかった。
それで結局、年長さんになってもビリのまんまだった。
ーー運動会の時なんか、そんなこと頭から飛んでしまいそうなのに。長野くんは、いつものお友達って感覚が捨てられなかったんだね。
それから小学校に上がって変わっていくんよね。
グラウンドはまず広いし、幼稚園の時にはなかった遊具もある。きちんとした時間割があって、待ちに待った昼休みが来れば、みんなめっちゃ遊ぶじゃん?1年生になったばかりなんだし。
でも俺は、グラウンドの端から端を走って練習してたんよね(笑)。
ーーえぇっ!自主練!?(笑)
もちろん友達と遊ぶ日もあったけどね。
でも、遊ばずにとにかく1人でずっと走ってた記憶があって。「絶対一番になってやる!」って気持ちで。
友達を引きずりおろすのはイヤだったけど、ビリな自分もイヤだったから。
ーーいやいや……、そんなストイックな小学1年生いるんだ。
それから、中学を卒業するまでは誰にも負けなかった。学校でずっとトップ。
今となっては、ちょっと練習したぐらいでそんなに変わるとも思えないから、短距離走の素質はあったんだと思う。多分、ちゃんと走り方を覚えて速くなっただけかな。
ーーすごい。じゃあ、運動会のブロック対抗リレーとかも出てた?
うん、もう絶対アンカーだった。
ーーヒーローじゃん……。
小学3年生の時に一度だけ、後ろから友達に引っ張られて転んじゃって、ビリでゴールしたことがあったかな。まさに、おばあちゃんに言われてみたいに。
今思えば、スタートダッシュした瞬間からみんなの一番前にいて、そのままゴールテープを切ることができれば、後ろから友達を追い抜いたり引っ張ったりする必要がない。
友達を引きずりおろすような自分にもならないで済むし、ビリじゃない自分にもなれる。
当時はもちろんそんなこと考えていないけれど、無意識にそう思っていたんじゃないかな。
ーー誰とも対立せずに、負けず嫌いな長野くんが納得する方法は、最初から一番でいることってことか。確かにそう言われたらその通りなんだけど(笑)。長野くんは人知れず努力を重ねて1位のポジションを勝ち取ったんだね。
自分が何かに夢中になったら、周りに誰もいなくなる。
ーー長野くんは自分で何かやるって決めたら、とことん極めるタイプ?
小学校で覚えているのは、2つのエピソードがあって。
当時、自由帳にポケモンの4コマ漫画を描く遊びが、4〜5人の友達同士で流行ってて。俺は楽しくなってずっと描き続けて、気付けば1人だけノート3冊分にもなってた。
でも、友達はすぐに飽きちゃって止めちゃうんだよね。
ーー俺も漫画描いて遊んでたな(笑)。ブームって結構過ぎ去るの早いよね。
その次は読書にハマってさ。同じサッカー部の友達が勧めてくれた三国志シリーズがあって。
全部で11巻のシリーズで、勧めてくれた友達は当時6冊目あたり。俺は、1冊読んだら面白くて瞬く間に全部読み終えて、その友達を追い抜いちゃったんだよね。
友達は不貞腐れちゃって、一緒に読むのも止めてしまったことがあったな。
ーーすっごいリアルだなぁ。自分がオススメしたのに、長野くんのほうが先に読み終えたのも、自分より三国志について詳しくなっちゃったのも、面白くないよね。俺もどっちの経験もあるから分かるかもしれない。
俺は何にも悪気がないし、その友達を責めるようなこともしてないんだけど。
「あ、俺が夢中になったら、周りの友達は止めちゃうんだな」
って感覚をその時から抱くようになっちゃって。
最初はみんないたはずなのに、気付いたらいなくなる。そんな風に、夢中になるタイプなんだよね。
ーー幼いながらも、自分が何かに夢中になることで、周りの友達にいい影響が生まれないことを体験しちゃったんだね。それだけ何かに打ち込めるってすごいことなのに。
夢中になると、無意識に視野が狭くなって、友達がついて来れなくなってしまう。早くからそんなことを悟ってしまった長野くん。
負けず嫌いで、何かに熱中することができる才能があったからこそなのでしょうが、それと同時に他人との争いは好まない長野くんにとって、この現象は望むものではありませんでした。
このような出来事が続き、やがて「周囲との温度差」が長野くんに重くのしかかるようになります。
第2章へつづく。
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