なんちゃって文語

わたしは昨年の十二月から短歌をはじめた。先生もなしに我流でやっている。今は、うたの日というサイトにほぼ毎日投稿するようにしている。あまり成績は伸びていない。つまらない短歌を推敲もなしに投稿することが多いから、仕方ないと言えば仕方ない。三ヶ月以上も上達の気配がないので、四月からはNHK短歌を見ることにした。

現代の短歌には、口語・文語の取り交ぜとか、新・旧の仮名遣いの使い分けとか、いろいろの組み合わせがあるようだ。一首全体ではなく、一語だけピンポイントに文語を使うこともあるらしい。NHK短歌によれば、芝居がかるとか、客観視する、みたいな表現効果があるということだ。なるほど。

うたの日に投稿された短歌は、プロの歌人というよりは愛好家が作ったものだ。愛好家たちの短歌にも、口語・文語や新・旧の仮名遣いの組み合わせがある。ただし、文語といってもいろいろで、文語文法を逸脱しているようにしか見えないものもある。わたしはそれを、なんちゃって文語と思っている。

わたしは「誤脱衍」の愛好家なので、なんちゃって文語を見かけると、バカだなと思って笑う。とはいえ、バカ認定は現代のものに限る。そもそも文語文法の基本は、平安時代の和歌とか源氏物語とかにある。だから文語文法を厳密に適用しようとすると、なんちゃって文語は歴史上山ほどある。有名どころで言うと、新井白石のやらかしも知られている。

つねに物めしけるに、箸筒はしづつ黒くぬりしかきつばたの蒔繪まきゑしたりしより、箸とりいでて、……

新井白石『折りたく柴の記』(日本古典文学大系)151ページ

またこれも、「妻子どもにあたふべし」とて、折櫃をりうづに入りし御菓子をも、たび/\に給りしが、……

新井白石『折りたく柴の記』(日本古典文学大系)211ページ

どれも「黒くぬりたる」「かきつばたの蒔絵したる」「折櫃に入りたる」でないと変だ。白石みたいな場合は、文語文法を体系的に学べないのだから、バカ認定するのも違う。

けれども、現代のなんちゃって文語使いには、情状酌量の余地がない。だから遠慮なく笑わせてもらう。ただし短歌の場合は、なんちゃって文語使いも短歌愛好家だと思うと何だか笑えない。変な気持ち悪さを感じている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?