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日本の「庭」とヨーロッパの「庭園」⑪

さて、ここからはヨーロッパの庭園のお話です(前回はこちら☟)。

第3章 文化的要因による比較
第2節 宗教・思想
ルネサンス精神とヨーロッパ庭園

 ルネサンスとは、14世紀から16世紀にかけて、イタリアをはじめとする西ヨーロッパ諸国に興った市民的精神運動である。都市経済の発展や封建社会の崩壊に伴って台頭した市民階級は、イスラム文化や古典文化をもとにして、新たに現実的、開放的な市民文化を生み出した。

 これを芸術面から捉えるならば、個々の芸術が教会から独立した時期、と総括される。中世は教会建築の装飾にすぎなかった絵画や彫刻が、次第に独立して各々の芸術性を主張するに至ったのである。

 ルネサンスは「自然と人間の発見」(※)といわれるように、観察という態度から導き出されたものである。市民階級は、政治・科学・文化のあらゆる面において、鋭い批判の目を向けた。その結果、自然界の中にも人間が究明できる部分があることを発見し、その部分を組織立てることによって、経験的知識の基礎が築かれた。人々は、これをもとに、世界全体を組織立てようと考えた。
 このとき、人間の立場からものを組織化したのではなく、もの事態に存在する統一組織を認めていた。あらゆる事物を、キリスト教という人間が設けた枠に当てはめていた時代と比較すると、飛躍的な進歩であったのだ。

 ルネサンスの数学的、科学的合理化は、美術理論の中にも展開され、やはり秩序や組織が重視されるようになった。この変化は、造園にも該当する。
 庭園は幾何学的に区分され、同時に、全体として一つの組織にまとめられた。
 更に、庭園内の建築物も、その組織の構成要素と考えられた。庭園と建築物を一体化させるために、両者の間に緊密な関係が必要になる。そこで、次のような構造が生まれた。
 建築の立面、すなわち垂直面が中軸を定めて組織立ててあると、その垂直を水平に、すなわち平面に移して庭面に反映させる。或いは、玄関に通じる広い中央路があるならば、それを中軸に見立てて、その両側で区分組織化を展開する。中軸には、それに垂直なもう一本の軸が組み合わされ、十字路となって庭園を四つの方形に分割する。その方形は更に、丈の低い帯状の植込や構築物の輪郭を用いた十字線で四分され、幾何学的文様を生じ、建築の装飾文様に近づくのである。庭園は各部分に分割されながらも、全体として統一されている。
 この様子は、同時代に発達した自然科学に、専門分野があり、それが相互に関連している様にも類似する。

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※ ブルクハルト(1818-97.スイスの歴史家、美術史家)の主著『イタリア・ルネサンスの文化』中の表現。吉岡力『研究世界史』(昭和48年発行)旺文社 211頁


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