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米澤穂信『可燃物』を読んであの日を思い出した

この日の気付きを元に、自分の読みたい本を早速買ってきた。
(積読の山からは目をそらして。後に埃のついていない新鮮な本を触りたかったと自供)



私が追いかけている数人の作家さんのうちの一人、米澤穂信先生の新刊『可燃物』

本格ミステリ×警察
きちんと条件を提示して、読者の皆さんも考えましょうの短編ストーリー集。
久しぶりに読んだ米澤先生の本は予想を裏切らず、読んで後悔無しの内容だった。
自分の楽しみのために読む本はやっぱりいいな。


私が初めて米澤先生の本を読んだのは、『小市民』シリーズ。
確か高校生か、大学生の時に初めて出会い、表紙のかわいらしさに惹かれて読んだのが始まりだった。


初めて読んだときは、今までにない種類の本でびっくりした。推理小説とも違う、ライトノベルとも違う、それでもすいすい入ってくる軽い文章に軽くはない内容。
それが日常の謎と呼ばれるカテゴリの本というのは、後で知った。
同時期に坂木司さんの本にも出合うのだけど、それはそれで熱い想いがあるのでまた後日。


それから有名な『氷菓』シリーズを読み、その後も青春を背景に起こる様々な事件を追った。
次第に本格ミステリがメインになっていくのを、恐る恐る追う私がいるのだった。



自慢だけど、米澤先生のトークショーとサイン会に行ったことがある。
地元の施設に偶然貼られていたポスターを発見し、即座に申し込んだときにはすでに満員。
ああ、と涙交じりのため息をつく私に、対応してくれた担当の方が「キャンセル待ちしますか?」と優しく聞いてくれた。
ぜひお願いします!待ってます!と前のめりでお願いする私に、必死さを感じたのか、後日キャンセルが出たと同じ方が知らせてくれた際は、良かったですねと労りの口調だったのをよく覚えている。

好きな小説家の先生にお会いするのは初めてで、入場の為に列に並んでいる時も、用意された席に座って待つ時も、ソワソワが止まらなかった。
朝井リョウさんとの対談だったので、会場にいる人たちがどちらのファンか分からないけど(アイドルのライブの様にカラーやうちわで主張してくれれば分かり易いよね)、おおよそ半分は米澤先生のファンで、本というカテゴリで言えばこの会場にいる全員が好きという空間にも興奮した。

心のうちわ「米澤先生こっち見て♡」をパタパタ振りながら、先生方の登場を待った。
登場する時は心の黄色い悲鳴をあげながら、実際は行き場のないときめきを拍手で昇華。


米澤先生は作家近影のままだった。
それがさらに本物だ、という感動に変わった。

しゃべってる、動いてる、笑ってる!

私が夢中になった本を書いた人が本当に存在して、目の前で動いているのが信じられなかった。


その私が夢中になった本を書いている際の裏話だったり、先生の執筆活動の際考えていることなどをお話ししてくださった。
本物に会えたという衝撃で、正直話している内容のほとんどを覚えていない。悔しい。
ただ先生が口を動かし、お話ししている姿を目に焼き付けていた。
だから私の記憶の米澤先生は無音で口をパクパクしている。



その後質疑応答が行われた。
質問等ある方が、手を挙げて指名されたら答えるという形式だった。
作品に対しての質問もあったが、私が唯一印象に残っている質問がある。

「私は今作家を目指して執筆活動をしているのですが、アドバイスをください」
これは若い男性からだった。意訳すると上記の内容だったけど、もっと長くお話ししていたし、熱い想いを語っていた。


そうか、ただのファンだけでなく、お二人のような作家を目指している、将来の作家もこの中にいるのか!と気が付いた。
その男性は作家を目指す塾というか道場のようなものに通われているともお話ししていた。

実体験からくるアドバイスはその方の大きな励みになっただろうな、と思ったのと同時に、狡いという気持ちもあった。
私は手を挙げもしなかったのに、堂々と手を挙げ自分の気持ちを先生にぶつけた彼に嫉妬していたのだ。
むしろ作品に関すること以外に伝えてもいいとすら思いつかなかった私には衝撃で、彼が眩しかった。

自分が思っているより、世の中って自由だよなって今なら思う。



最後にお待ちかね、希望者はサインを頂けるタイム。
恐らく10秒ほどの持ち時間に何を言うか、並んでいる最中頭はそれでいっぱいだった。
事前にサインして貰う用に買っておいた本を胸に抱えて、全員米澤先生ファンの列に並んでいた。

ついに目の前には米澤先生。
本を差し出し、御礼を申し上げ好意を伝えた、ような気がする。
握手をお願いした、ような気がする。
本を受け取った、それは確実。

要するに、大切な部分のぽっかり記憶が抜けている!
お会い出来て幸せな感情と、本人を目の前にして舞い上がり過ぎた感情が嵐を起こして記憶を伏飛ばしたとしか思えない。


地方民の私が好きな作家さんのお姿を拝見し、お声を拝聴出来る機会に恵まれたことを幸せに思う。

作家とはファンにとっては、創造主すなわち神である。
神よ、これからも私めに楽しみを与えたまえ。
願わくば、『小市民』シリーズの続きを(心のうちわ『続き書いて♡』をパタパタ。神に失礼か)
一読者、心よりお待ち申し上げております。



久しぶりに自分の好きな本を読むと、感情が暴走することが分かった。
これからは適度に摂取していこうと思う。


もひとつおまけで、私が作家で先生と呼ぶのは、米澤穂信先生と絵本作家の五味太郎先生だけ。
米澤先生はお会いした瞬間からそう呼ぶことを決めた。

五味太郎先生はもう先生としか言いようがない。
何でだろう。

五味太郎先生で1番好きな絵本

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