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プルーストにはマドレーヌ

『失われた時を求めて』のマドレーヌ。
文学史上もっとも有名なお菓子ではないでしょうか。

紅茶に浸したマドレーヌの味が
主人公の幼い頃の記憶を呼び覚まし
次から次へと回想が広がっていく。
壮大で華麗なプロットは、
20世紀の文学の流れを変えたと言われるほど。

そんな体験に憧れながら、小さな頃に食べたはずのマドレーヌは
美味しくもなく不味くもなく。子供時代の日々のように曖昧です。

いやなことだけはちゃんとやって来るのに
たのしみも、いろどりもない日々。
その大方をあっさりと忘れていられる僕に
プルースト的体験は不向きらしい。

ダックワース
マカロン
フィナンシェ
どれも大人になってから好きになった焼菓子ばかりです。
子供の頃に知ったなら
フィナンシェのこうばしい香りなんて、濃厚で苦手だったかも。

今がたのしいんだから、いいじゃない。
そう割り切る僕が出会ったのは、俳句というツールでした。
大人になってからのことです。

その手法は時に、眼前にある物を
過去からも未来からも、その意味からさえも切り離し
ただ描写せよと命じます。


    秋日和その香まづかぐフィナンシェ    梨鱗

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