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はる

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春の俳句をまとめました。
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2022年4月の記事一覧

ゆっくりと傾いて、急に

いつの頃からか、河の洲に流木が泊まっています。 よほどの大雨が運んで来たのか、かなりの大木です。 晩春の日射しは、その大木へと注いでいます。     倒木に鳥の懐きて穀雨かな     梨鱗 人も、鳥も、土手の草も、 ありあまる日射しにかすんで見えます。 時の流れは、速度を落としたようです。 とはいえ、肌を刺すような痛みは 次の苛烈な季節を すでに光の中にはらんでいる所為なのでしょう。 表面張力。 コップの縁にまで注がれた水が 膨らんで張りつめている。 あと一滴で溢れて

小説「左近の桜」彼岸と此岸のあわいへ

長野まゆみ氏の小説「左近の桜」には 桜が満開の墓園が登場します。 主人公の青年・桜蔵が朝のジョギングのさなか、 美しい、けれどひどい二日酔いの男をそこで拾います。 小説の舞台は、武蔵野と記されるばかり。 京王線と中央線の中間地に位置する「多磨霊園」が そのモデルでしょうか。 桜の季節にその墓園をおとずれてみれば、 大ぶりの桜が道沿いに並ぶばかり。 遠くの樹間から一組の男女が見え隠れするよりほか 人の気配はありません。 燦々と日は降りそそぐのに、声も足音も吸い込まれそうに

わたしたちの国

コロナウィルスの感染が世界中で流行する前、 今よりも自由に人々が出掛けていた頃の話です。 仕事帰りの4月。 車窓から夕陽が差し込んでくる時刻でした。 吊革に軽くつかまり、 窓の外を流れるソメイヨシノを眺めていました。 斜め前の席には、指をあやつって会話をする二人連れがいます。 手話の指の動きに、音楽的な響きを感じた そんなくだりのあった小説を、ぼんやりと思い出します。 テンポのよい指の動きから、話に夢中なのが見てとれます。 二人は今日、どこへ出掛け、どんな景色を見たので

おなかがすきますね、春。

二十四節気は、春分から清明へとうつる頃。 いろいろな花がいっせいに咲き、 小さいけれど確かに葉も芽吹いています。 名実ともに、春だなあ。 なんだか、おめでたい気分になる季節です。 ヨーロッパでは春のはじまりは春分から、だとか。 ならば。 ハレの日っぽい風景を。    春分の庭へ木の卓手まり寿司    梨鱗 天気が良いからお外で食事。調子にのってお寿司です。 日本のデザインって、シンプルですね。 料理も、器も、気合が入るほど、ごちゃごちゃするのを嫌います。 一輪だけ残