玄鳥去(つばめさる)
青空をツイーっと軽やかに飛ぶトンボを見ていて、ツバメがいないことに気がつく。
ツバメは気温や天候ではなく、日照時間で季節の移り変わりを知り、南の国へ渡る。
日本には一年を約5日ごとに72に分けた季節、七二候(しちじゅうにこう)がある。9月17日~21日は玄鳥去(つばめさる)という。
なぜ「玄鳥」と書くのかというと、「玄」には、黒の意味がある。ツバメは色が黒いため「玄鳥」の漢字が使われるようになった。
公園や庭など、身近な所で見かける鳥といえば、ツバメ以外にもスズメ、セキレイ、メジロ…いろんな種類がある。とりわけツバメに親しみを感じるのはなぜだろう。
思いあたる理由の一つが、人との距離感ではないだろうか。
ツバメは民家の軒下などに巣を作り、人の生活のすぐそばで、卵を温め、子育てをする。
そういえば私の生まれ育った家にも、よくツバメが飛んできた。近くの電線にツバメが仲良くさえずっていると「うちに来るかもしれない」と胸が高鳴ったものだ。
巣の中に見え隠れする雛の黒い頭や、「チィチィ」という声、黄色く縁取られたクチバシなどを思い出す。
年によっては、蛇が来たのか、ひな鳥が突然姿を消すこともあり、「今日もいますように」と願うような気持ちで巣を見上げていた。
空の様子を見たり、鳥や虫の声に耳を澄ましていると、幼い頃の風景と繋がる時がある。
南へ旅立ったツバメたちは、今ごろどの辺りだろう。途中、羽を休めるところはあるのだろうか。
3月下旬、ピチュクチュ鳴く声がきこえてくると、ほんとうに冬はサヨウナラなんだと、あたりの色彩が濃くなり、明るさが増す気がする。また次の春を楽しみにしたい。
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