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スピッツ歌詞考察(第52回)夏の魔物


【基本情報】

夏の魔物
作詞:草野正宗 作曲:草野正宗 編曲:スピッツ
3分11秒

<リリース日>
1991年3月25日(1stオリジナルアルバム「スピッツ」)
1991年6月25日(2ndシングル)
※「スピッツ」からシングルカット。

<収録アルバム>
スピッツ(1991年3月25日リリース 1stオリジナルアルバム)
CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection(2006年3月25日リリース)

<備考>
スピッツ・カバーアルバム『一期一会 Sweets for my SPITZ』(2002年10月17日リリース)で、小島麻由美がカバーした。
「Reborn-Art Festival 2017 × ap bank fes」で、Mr.Childrenの桜井和寿がボーカルのBank Bandがカバーした。

【MUSIC VIDEO】

【歌詞】

古いアパートのベランダに立ち
僕を見おろして少し笑った
なまぬるい風にたなびく白いシーツ
魚もいないドブ川越えて
幾つも越えて行く二人乗りで
折れそうな手でヨロヨロしてさ 追われるように

幼いだけの密かな 掟の上で君と見た
夏の魔物に会いたかった 会いたかった 会いたかった

大粒の雨すぐにあがるさ
長くのびた影がおぼれた頃
ぬれたクモの巣が光ってた 泣いてるみたいに

殺してしまえばいいとも思ったけれど 君に似た
夏の魔物に会いたかった
僕の呪文も効かなかった
夏の魔物に会いたかった 会いたかった 会いたかった 会いたかった

夏の魔物(作詞:草野正宗)

【考察】

古いアパートのベランダに立ち
僕を見おろして少し笑った

“僕”は古いアパートに暮らしている。
ある夏の日、“僕”が住むアパートに初めて“君”を招き入れた。
ひととおり家の中を案内したあと、“君”はベランダに出て、
初めて見る景色を楽しんだ。
“僕”が座ってくつろいでいると、“君”は振返って微笑んだ。

なまぬるい風にたなびく白いシーツ
“僕”は“君”が泊っていくことを想定して、シーツを洗濯しておいた。
ベランダにはその白いシーツが、夏のなまぬるい風に吹かれている。

魚もいないドブ川越えて
幾つも越えて行く二人乗りで
折れそうな手でヨロヨロしてさ 追われるように
“僕”の住むアパートは、魚も寄り付かないドブ川をいくつも越えないといけない場所にあるので、自転車で駅まで“君”を迎えに行った。
“君”を自転車の後ろに乗せたものの、二人乗りで漕ぐのは慣れてないし、腕の力が弱いのでヨロけて安定しない。

幼いだけの密かな 掟の上で君と見た
夏の魔物に会いたかった 会いたかった 会いたかった
“君”と一夜を共にしたい。
そんな自分勝手なシナリオをこの時、密かに思い描いていた。
“夏の魔物”によって変わった“君”に会いたかった…

大粒の雨すぐにあがるさ
長くのびた影がおぼれた頃
夏の夕立で、大粒の雨が降り出した。
「すぐにあがるさ」と言い、長く伸びた“僕”と“君”の影が水たまりに映りだしたころ、“君”は「そろそろ帰るね」と言った。

ぬれたクモの巣が光ってた 泣いてるみたいに
雨に濡れたクモの巣が光っていた。
それは涙がキラリ☆としているみたいで、まるで“僕”の心の中を映しているかのようだった。

殺してしてしまえばいいとも思ったけれど 君に似た
夏の魔物に会いたかった
僕の呪文も効かなかった
夏の魔物に会いたかった 会いたかった 会いたかった 会いたかった
このやるせない気持ちを押し殺して我慢すればいいや思ったけれど、やっぱり“夏の魔物”によって変わった“君”に会いたかった…
僕の願いは叶わなかった。
“夏の魔物”が現れてほしかった…

まず最初に考察しないといけないのは、“夏の魔物”が何者かということです。
高校野球などではよく「甲子園には魔物が棲んでいる」と言われることがありますが、これは勝敗に大きく影響する場面でバウンドがイレギュラーしたり、普段の実力からは考えられないようなプレーが出た際の形容で、目には見えない何らかの力が働いたとしか思えないことが起きた時に使われます。「勝利の女神が微笑む」「神のいたずら」「空気にのまれる」「追い風が吹く」と同じような意味合いを持つと言えるでしょう。

“魔物”は実体がないので、あえてその正体を探るならば「緊張感からくる空気や雰囲気」ということになります。
つまり“夏の魔物”とは「夏の開放感がもたらす、いつもとは違うムード」のことで、一番の歌詞の「“君”と見た夏の魔物」は「“君”とひと夏のロマンスを夢見た」であり、二番の歌詞の「“君”に似た夏の魔物」は「見た目は“君”のままだけど、夏の解放感によってムードが変わった“君”」と解釈しました。

“君”が“僕”のアパートまで足を運んでくれたので、“夏の魔物”がもたらす甘いムードを期待していましたが、そのようなことは一切起こらず、“君”は夕暮れ時になると帰ってしまいました。
そして“僕”は泣く泣く、心の中でこう叫ぶのでした。

「やりたかった~ やりたかった~ やりたかった~」

というわけで、テーマは「性」でした。

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