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【ものがたり】ショートショート

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短い物語を。温かく見守ってください。修行中です。
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#note初心者

力も愛も ~ショートショート~

「これはね、愛があるからなんだよ」  あたしを追い詰めたあと、君は必ずそう言う。  あたしは涙を拭って、肯定の言葉を呟く。   「これだけしても一緒にいてくれるって実感したいんだ」 「だからね」 「他のだれかが君を痛めつけたら、おれは怒るよ」  なんて君は勝手で  なんて大きくて  なんて強いんだろう。  あたしはまた涙を拭って、肯定の息を吐く。 「君を痛めつけていいのはおれだけで」 「おれが痛めつけていいのは、君だけなんだから」  嗚呼、なんて満足気なの。

コンプレックス  〜ショートショート〜

「化粧しないと人になんて会えないよ」  それが、真奈子の口癖だった。  実際、彼女の素顔を見たことはない。お泊まりをしても、風呂に入った後化粧をして、皆が眠ってしまってから化粧を落として、誰より早く起きて化粧をする。それが真奈子という女だ。  付き合う男にもそうなの? と、1度興味本位で訊いたことがある。返ってきた侮蔑の眼差しが忘れられない。  きっと彼女にとってそれは、聞くまでもない当たり前のことなのだろうと理解した。  そんな真奈子とは高校生の時からの付き合いで、

曖昧の一幕 ~ショートショート~

「なんや、まだ2合目くらいやん」  目の前に来るなり、俊哉はそう言ってちょっと笑った。  私は一瞬きょとんとする。2合目? 私今ワイン飲んでるんですけど?  それが、日本酒の量を指すのではなく、登山に例えてなのだと分かるまでに2秒ほどかかった。  その間に俊哉は空いた椅子に腰を下ろす。  先ほどまで、私は友人と飲んでいた。既婚者である友人は、「旦那が待ってるから」という私にとっては羨ましさしか生まれないような理由で、終電よりも早く帰った。夕方からスタートしたふたりの飲み会は

悪趣味な ~ショートショート~

「ねえ。あたしといて、シアワセ?」 カレは答える。 「幸せだよ」 真っ直ぐに、あたしの目を見て。 カレはいつも素直に、率直に、あたしに答えをくれる。 微笑みかけて、唇を合わせる。 その勢いのまま身体を重ねる。 カレとのそれは、いつも最高に甘くて、あたしは何度も悦びに啼く。 そしてお互い満足して、脚を絡めて眠る。いつものルーティン。 眠りに落ちたカレの傍からそっと抜け出す。 「さようなら」 と、声に出せないまま。 終電はもうない。 タクシーを拾って、その中でひっそりと