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【ものがたり】ショートショート

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短い物語を。温かく見守ってください。修行中です。
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#不思議

死にたがり屋のひとりごと|ショートショート

――ねえ。わたしが死んだら、この世界ってどうなるのかな?  彼女がそんな質問をしてきたのは、真夏らしい暑さの昼間のことだった。ぼくは畳の上に転がって、縁側から入ってくる、草の匂いがする風を感じていた。日光が燦燦と降り注ぐ庭を眺めながらだべってるぼくらは、なんとも言えず夏らしかった。 ――世界の話? さあ、なにごともなく続いていくんじゃない?  ぼくは暑さでぼーっとなりながら答えた。だからそのとき、彼女がどんな顔をしていたかは知らない。 ――おかしくない? だってこの世

世界の終わりを見たい男 |ショートショート

 男には夢がある。 「はーあ」  大きく息を吐きだすと、隣に寝ころんだヒロが顔を上げた。 「まーた、溜息なんてついて」  男は答えずに、手元にあるスクラップブックを眺めた。宇宙。闇が大半を占める空間。光すら闇から生まれる世界。  男には、諦めきれない夢がある。  ヒロは眠っている。男はその姿をじっと見つめていた。もうずいぶん長い間一緒にいるヒロ。この存在がなくなったとき、どう感じるのだろう? 考えても考えても、男の脳は答えを導き出せなかった。  まだこの地球は、人類が生

座敷童の居場所 ~ショートショート~

 おばあちゃんの家は、ぼくの家から車で3時間くらいかかる田舎にある。周りは田んぼと畑ばっかりだし、夜はずっと蛙と虫の声がうるさい。近くに公園なんてないし、ゲームセンターなんてものもない。ないない尽くしだけど、ぼくはおばあちゃんの家が好きだった。  従兄弟たちと鬼ごっこやかくれんぼができるほど広い家は、どこの部屋でも畳と木の匂いがする。ぼくの家では絶対しない匂いだ。  その中のひとつの部屋で、ぼくはその子にであった。  従兄弟たちが来るのは明日で、ぼくはひとり家を探検してい

世界が終わったその後に② ~ショートショート~

 ①はこちら。  ――もう終わった世界で、僕たちは夕陽を見ている。 「できた」  ロイがそう言ったのは、太陽がちょっと赤くなったくらいで、ネイラはロイの足にもたれて眠ってしまっていた。 「本当だ。すごい」  僕が拾った壊れたロープは、そりゃあ完璧じゃないだろうけど、ちゃんとロープに戻っていた。  ロイは、ちょっと疲れた様子で、でもとても満足そうに笑っていた。そのままロープを持って立ち上がるから、ネイラが起きてしまった。 「おにーちゃ?」  寝ぼけながら手を伸ばすネイラの頭

世界が終わったその後に① ~ショートショート~

 ――昨日、世界が終わった。 「あーん。もう、そっちの取ってよう!」  ネイラはもう言って、持っている棒で水面をつついた。その棒は僕の背ほどもあって、ぐわんぐわんと弛んで上下する。瓦の上を進んでいたロイが、無表情でその棒をぐいっと押さえた。 「ノア。それよりもロープ」  言われて、あ、と僕は思い出す。ごわごわとした太いロープは、もうすぐ手が届きそうなところにある。 「ご、ごめん。ちょっと待って」  左手を水面から飛び出た電柱に掛けて身体のバランスを取りながら、水の下で揺れる