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給与格差がある中国社会で…

 最近、Forbes(フォーブス)が作成した「2021年中国大陸世帯平均年収入ランキング」なるものがネット上で出回りました。第1位の上海における世帯年平均収入は82.5万元(約1,400万円)。流石に怪しいという話になっていたところ、5月19日にフォーブス中国が正式に、このようなランキングを発表したことはないと声明を出していました。

ちなみに、この偽ランキングでは、広州は第4位で世帯年収は64.6万元(約1,100万円)。「いや、ひょっとしたらそれくらいはありそうだな…」と思ってしまうレベルなのです。今回は、そんな中国の収入格差について考えてみます。

●投稿動画の給与トーク

「皆さん、こんにちはー!前の動画で私の毎月の収入が大体2万元(約34万円)と言ったけど、今回はその中身を詳しく紹介するわねー!」

と、女性が動画で勢いよく語り始めます。

中国のショートムービーアプリ「西瓜視頻」にアップされていた動画です。女性は綺麗な顔立ちの美人で、20代後半から30代前半。深圳のI T関係の中小スタートアップ企業でデザイン業をしており、現在の会社では4年目ということです。

中国では、こうして普通の人が自分の身の回りで起こったことや自分の意見などをシェアする動画がたくさん流れています。日本で言えば、「YouTuber」といったところでしょうか。

彼女が動画で詳しく紹介している彼女の経済状況をかいつまんで紹介すると、会社からもらっている給与は、正確には18,100元/月(約31万円)。その他に、会社から毎年1ヶ月分のボーナスが支給されます。他には、会社の経営状況に応じて、プロジェクトボーナスとして更に1ヶ月分のボーナスがプラスされるそうです。

また、その他の手当として、平日日数分の15元(約250円)の食事手当があり、これが1ヶ月で大体330元(約5,500円)。残業代は、平日の夜に働いた分については残業代の支給はなく、週末に残業した時だけ残業代が出るそうです。残業代は、通常の1.2倍。ただ、彼女の場合は、ほぼ残業がないそうです。不定期のプロジェクトボーナスを除外すると、毎年の年収は大体24万元(約406万円)ということになります。

さらに、同居している彼氏の月給は大体2万元(約34万円)。彼氏の会社では、食事手当や残業手当はなく、残業分は代休で消化されるようです。ただ、ボーナスが高く、毎年3〜4ヶ月分のボーナスが支給されるとのことです。ですから、年収にすると大体32万元(約540万円)になります。

彼女の年収と合わせると、世帯年収としては56万元(約950万円)。1ヶ月分に割り戻すと、約4万5千元/月(約76万円)の収入があるということになります。しかし、これは支給額であり、実際には日本同様税金や保険などで差し引かれ、手取りとしては4万1千元/月(約69万円)ほどの世帯所得になるそうです。

この内、家賃で毎月3,800元(約6万4千円)、西安に所有しているマンションのローンで2,200元(約3万7千円)を支払っているそうです。これが固定費で、それ以外には、生活費として毎日自炊をして節約しており、大体1ヶ月で1,500元(約2万5千円)。会社と自宅が近いので、交通費はほぼ支出していない状況だそうです。

そうした支出を差し引くと、毎月手元に3万5千元(約60万円)が残る計算になり、年に直すと42万元(約711万円)。彼女たちは、おおむね毎年これと同額程度の貯金ができているそうです。

もちろん、生活は贅沢をせず、100元(約1,700円)以上の服は買わず、まとめ買いアプリを活用してなるべく安く食材や生活用品を手に入れるなどの倹約を続けているそうです。旅行は、毎年一度、国内旅行に行っていて、一人の予算1万4千元(約24万円)の費用をかけているそうです。

「深圳で、毎年40万元くらいの貯金をしているのが多いのか少ないのかは何とも言えないところね。私たちより少ない人もはるかに多い人もいるわ。でも、まぁ、私たちにしてみたら、大体予想していた金額に近いかもね。それでは、バイバイー!」

と、動画は終わります。

●広州の給与事情

今度は広州で卒業後の仕事を探している大学生。「一月に7,000元(約12万円)くらいは欲しいですよね」と話しています。

3月27日の広州日報によると、今年の給与水準は、専門学校卒で5,534元(約9万4千円)、大学卒で6,822元(約11万6千円)、大学院卒で9,479元(約16万円)ということです。

数年前まで、大卒の初任給は5,000元くらいのイメージがありましたが、ここ数年で更に上っているようです。大学や専攻内容によっては、初任給で1万元を超える給与を手にしている人もいるようですね。実際に、仕事を斡旋するアプリを開いてみると、少ないもので3,000元/月(約5万円)から、高いものでは5万元(約85万円)の仕事まで大きく幅があります。

中国では、民営系企業の昇給率でも10%弱の高い昇給をしています。これは、仮に22歳で5,000元(約8万5千円)の月給からスタートしても、20年後の42歳には3万元(約50万円)の月収を手にしている計算です。3万元まで達しているかどうかは分かりませんが、個人的な印象でも、安定して仕事をしている人の年収は、そのような感じで推移しているような感じを受けます。

しかし、「中には20万元/月(約340万円)」ももらえるような求人もありますよ!」と広州の貿易会社で勤務する友人。

そうなると、もはや役員クラスなのでしょう。チームを統率して、即戦力で会社に貢献するという役割です。流石にそこまでの高給となると、給与に見合う成果も簡単には出せないので、数ヶ月で次々に人が交代していくそうです。

●給与格差の裏側で

さて、こうした話というのは、実は中国全体を説明したものではありません。あくまで中国という巨大で複雑な社会の断片を拾ってきて紹介しただけです。深圳には呆れるほどの金持ちも、数千元の給与で頑張っている人も混在しています。

更に言えば、広州や深圳といった1級都市を離れて、3級4級5級都市と地方都市になっていけば、給与水準は明らかに下がります。農村に行けば、現金収入が1月で1,000元というようなところもあるでしょう。中国の平均というのは、これらを全て含んだ平均なのです。平均で全てを語るのが大変難しい社会ですね。

ただ、ここではサンプルとして広州周辺の話に絞って考えます。広州で大卒の初任給が7,000元で、40代で仮に3万元、超優秀な役員クラスが20万元なら、それぞれ4.3倍と28.5倍くらいの差があります。日本の大卒初任給は約21万円/月程度ですので、日本社会で換算するなら、業務の指示をくれる40代の上司が90万円/月、壇上で挨拶しているエリート役員が600万円/月くらいの給与をもらっているというイメージでしょうか。少し誇張していますが、何となく格差のイメージは掴んでもらえたでしょうか?

そこで、もし今、あなたが中国の大学生だとしたらどうでしょうか?
もちろん「こんなに格差がある社会はおかしい!」と感じる部分はあるでしょう。ただ、同時に「自分も頑張ればそこに行けるかもしれない!」という気持ちも感じるのではないでしょうか。

そんな、競争社会の強烈なプレッシャーに晒されながら、チャイナドリームを掴むために身を粉にして奮闘している…、という側面も見えてきます。(もちろん、これも社会の断片で、ほどほどの生活をしていればいい、という若者も増えてきているように感じます)

前述した友人は転職活動中だったので、「どうやったらそんな高給取りになれるのか?」と聞いてみました。友人の回答は「転職」でした。

「中国の会社と社員との関係は、リソースの交換だ」と友人は言います。

会社は社員にリソースを提供してビジネスを行うし、社員はそこで自分のリソース(人脈、経験など)を蓄積させていく。個人のリソースが高まってきたら、それを持って今よりも高く評価してくれるところに自分のリソースを売りにいく。転職は通常、前の職場よりも給与が下がることはないので、どんどん給与が上がる。給与が上がったところで、次のステップの経験を積み、また自らのリソースを豊かにしていく…という循環なのです。

人材が流動することは会社の方も百も承知で、そのために給与水準を引き上げて人材の引き留め策を図ったり、即戦力で結果を出せるリソースを持った人材には破格の金額を提示して引き抜きます。分かりやすい経済合理性です。

このように、終身雇用や年功序列が続いてきた日本とは異なり、中国は人材の流動が前提の社会であるが故に、市場原理が大きく働きこのような給与の格差が生じているとも言えます。人材を育てるという意識は少なく、社員のリソースをどう組み合わせて、どう発揮させるのか、ということを通してビジネスを作っていくのです。

その分、社員と会社の関係は割にドライで、社員は常に自分のキャリアと市場価値を考えながら人生設計を考えているように見えます。また、中国では独立して会社を興す人が多いのもこうした経済合理性の延長線上にあると思います。

さて、会社への帰属意識が低いということは、自分の身は自分で守るという意識が強いということです。したがって実際には、給与所得以外にも、不動産収入、投資収入、副業による収入など、様々な収入形態を複合的に組み合わせて収入を確保しています。または、公務員や国営企業のような安定した職に向かう力にもなります。

ただ、こうした個人レベルでの必死な生存競争が、14億人分集まった時、巨大なうねりとなって大きく国を発展させているように感じるのです。

日本も、ジョブ型雇用の出現や副業の奨励など、雇用をめぐる環境はどんどん変化しています。「勝ち組」や「負け組」という言葉が象徴するように、日本も選択肢が多様化することでどんどん収入格差が開いていくことでしょう。

それはどんな社会で、それに向けて個人はどんなマインドでいるべきなのか、それについては中国という社会を観察することで少し透けて見えてくるような気がしています。


《 ライチ局長の勝手にチャイナ!vol.12 》

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